第132話 開発開始? 実感はない
王宮に狼王の死骸を献上して、その褒美で貴族街に別邸を貰った。
土地の限りがある貴族街に法衣貴族でない俺が家を与えられるのは名誉なことで、普通の領地貴族は宿屋と契約を結ぶか、郊外に屋敷を建てるのが習わしだと恩着せがましく言われたが、内乱で余った家があるし、俺宛の連絡先がない不便な状況を改善したかっただけだろう。
しかも、気前良く豪邸を提供してくれたのだが、そこの執事長として、宰相家の執事長の従弟が当てられたり、守衛で軍系貴族の三男以下が雇用され、メイドは法衣貴族と縁のある商家の子女。
もやっとする感じもあるが、身元がしっかりしているとプラスに考えた。
実際有能で、手紙の配達手配からギルドとの交渉までマルチな働きをみせる。
彼らの手助けもあって1週間後には手紙の配送手続きが終わり、翌週にはシュールが領都を置くべきと定めた地に向かって、商人の大移動が始まった。
更地に大都市を築くのだから物流が活性化し、超好景気の突入となるだろうが、その財源が俺の稼ぎと言うのが笑えない。
事前に根回しをして資材を安く仕入れる手配はしたが、この規模の経済を1人で回すとか無謀すぎる。
王国からの褒賞金や『フォックステイル』の稼ぎがあるとは言え、今の資産では半年程度しか持たないだろう。
「いえ、日に金貨数千枚規模の消費が起こっていて半年持つ資金力が恐ろしいんですが?」
『地命剣ギーゼル』を腰に佩いだ優男が呆れる。
対して『打命棍ジュンガー』を持つ大女が大笑いをすれば、『尖命槍ブルック』を担いだマッチョが身体をくねらせる。
「そんな金をバンバン使える大将が羨ましいな!」
「全くよ。けどそのお陰で私達の懐も暖かいし、文句を言えないのが悩みどころよねぇ」
シュールから従士長を引き継いだ剣聖レオンに新たに増設された第一部隊の隊長のヘミルと第二部隊長のエミルである。
シュールの読み通り、大量の志願者を得たマウントホーク辺境伯軍はその編成を大きく変えて、子爵軍時代の古参組を準騎士団所属として、新参組を従士部隊とした。
それを大きく3つに分けた。
レオン率いる親衛隊と第一、第二部隊である。
そのうち、親衛隊と3人の隊長格を連れて『鬼の祠』7層にある大裂孔にキャンプを張り、俺が低層で仕入れてきた素材を持ち回りで、外に運んで金に換え、消耗品を仕入れた差額を辺境伯領に送金する。
名実共に辺境伯となったのにやってることが冒険者な日常であった。
「俺には文句があるがな!
持ち回りでダンジョンから出られるお前らと違って俺は2ヶ月間ダンジョン生活だと言われているんだぞ?」
「しょうがないわよ。
閣下じゃないと低層探索なんて出来ないもの」
「……私も付き添いたいんですよ?」
俺のぼやきにエミルが呆れ、レオンが愚痴る。
「レオンが行くなら私も連れていけ!」
「ちょっとレオン従士長!
姉さんも!
2人が行きたいって言い出したら、収拾が付かなくなるじゃないの!」
ヘミルが豪快に主張して、エミルが2人に自制を促す。
そんなエミルの言い分に答えるように歓声が上がっている。
ここにいる連中は親衛隊とは名ばかりの脳筋集団だからな…。
唯一のストッパーがオカマとかマジでキワモノ集団だわ。
「…すまんかった。
俺の浅慮を謝罪する」
「ほら! 辺境伯様もこう言ってるんだから抑えてよ!」
エミルの言葉でテンション駄々下がりの連中にため息が出そうになる。
コイツら、従士隊は冒険者上がりの連中で癖が強いのが困りものだ。
…強者には敬意を払い素直な点は助かるのだが。
そもそもこの従士隊は、『狼王の平原』解放作戦時の慰問部隊に端を発する。
「閣下!
閣下の治療を受けた冒険者達が旗下に加わりたいと続々志願して参ります!」
「おお!」
平原解放から数日。
戦後処理の報告に訪れたシュールが開口一番に伝えてきたのがそれだったが、
「私が報告に出立する時点で120名以上の志願者がいました!」
「は?」
目が点になった。
そんな大人数が?
「また他の契約が終わり次第戻って来ると宣言した者も数十名以上…」
「待て待て!
いきなりそんな数をまとめ上げるのは…」
現状では霊狐達を入れても総勢200名程度の家臣しかいないのにほぼ同数の新参者を纏めるなど。
「ご安心ください。
高名な冒険者も多く志願しましたのでその者にまとめ役を任せます」
「高名って言っても冒険者だろうが。
軍の運用なんて…」
「彼らに望むのは人望を集める御輿です。
実際の運用は参謀役にやらせますので…」
まあそれならと許可を出して、従士隊の再編。
旧従士隊を準騎士へと昇格させて、一番人望があったエルフ族の剣聖レオンをトップに据える人事で運営を始めた新従士隊は、個性派揃いの色物集団になってしまったのだが勇者に匹敵する3人の隊長。
それとバトルジャンキー染みたレベルアップを最優先事項としている親衛隊からなるこの従士隊は同数以上の王国軍と戦える実力者集団になった。
……今後必要なこととは言え、嬉しくない。
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