第106話 レンターの手紙

 日帰りダンジョンを繰り返して、賢印から順次ユニークスキルの獲得を促した。

 結果、1週間ほどで、

 狩牙『剣尾山』

 賢印『魔術保持』

 春風『風塵撃』

 春雨『雷迅撃』

 裁牙『充弓射』

 をそれぞれ発現した。

 己の尾を剣のようにして敵を切り裂くとか攻撃に属性を乗せるとかの強力なスキルはさすがユニークスキルと感心した。


 特に賢印の魔術保持。

 これは魔術を封印しておき、必要時に解除することで高速連射を可能とする強力なスキルだ。

 しかも充填時に魔力を込めれば開封時は消耗しないわけだし。

 対して微妙な裁牙の充弓射。

 敵に対して弓で狙いを付けるほど威力が増すスナイパーみたいなスキルだが、あまり遠距離攻撃を使ったことがない裁牙に何故芽生えたか謎の状況。

 まあフロアボスでもっとも活躍するのは間違いないのだから良いが。


 それらが落ち着き、一通りの商業契約も片付いたので北へ向かう準備をしている最中に、ファーラシア王家の印が捺された手紙が届く。


「…催促でしょうかのう?」

「さすがに早すぎると思うぞ?」


 手紙を持ってきた賢寿も特に心当たりはないらしく、領地開発の催促ではないかと首を捻っているが、まだレッドサンド王国との交渉がまとまったとは思えない。

 それが落ち着く前に『狼王の平原』を解放すれば、戦線に送られる物資が高騰して大変なことになる。


「ひとまず読んでみるか…」


 そこには俺の失敗が書かれていた。

 曰く、


『先生から渡された指輪が割れてしまった』


 と言う報告だった。


「指輪ですか?」

「…ああ。失敗したぞ。

 希少なマジックアイテムを説明するのを忘れていたようだ。

 …いや、幸いとするべきかもしれないが」


 判断に迷うラインではあるがな。


「どういうことですかな?」

「アイツに渡したのは『死避けの指輪』と言うアイテムだ。

 1度だけ即死の運命を書き換えるアーティファクト級アイテムだ」

「運命操作の性質を持つアイテム!

 伝説級の力を持つマジックアイテムではないですか!」

「まあな。

 それを階段落ちで消費したことを嘆くべきか、新王が階段落ちで死ぬなんて、最悪の死に方をしなかったことを喜ぶべきか」

「階段から転落したのがですか?」

「ああ。厳密には暗殺者の凶刃を避けようとして、階段を踏み外したらしい」

「それでは致し方ないのでは?」


 …まあそう思うよな。

 俺が渡したアイテムのラインナップを知らなければ。


「致し方なくない。

 暗殺者の攻撃なら御影の『忠騎士の腕輪』が肩代わりしたんだが、階段落ちの事故ではそれも発動しない」

「『忠騎士の腕輪』でございますか?」

「ああ。

 対象のダメージを着用者に肩代わりさせるアイテムだ。

 攻撃にしか効果がないがな」

「そのようなアイテムがあるのですか。世の中は広いですなぁ」


 まあ、同階層のアイテムが国宝になるくらい貴重なアイテムなのだから当然かもな。


「まあな。

 あれも対象と着用者の距離を無視している点から考えるに時空干渉系の特性を持つマジックアイテムだろうし、『鬼の祠』26層近辺はそういうアイテムを出す魔物が多い」

「と言うと『死避けの指輪』も?」

「いや、あれは宝箱からのドロップ。

 だから2度と手に入る気がしない…」


 …26層の隠し部屋で手に入れたんだったか?

 ダンジョンの宝物庫にも同じアイテムはなかったし、


「それは…」

「ああ。

 もうどうしょうもない。

 あれを『忠騎士の腕輪』の媒介アイテムだなんて嘘付いたままにしたのが失敗だ」

「何故そのような?」

「うん?

 あのアイテムを渡した時は、紛争地帯への調停に出向くタイミングだったんだ。

 そんな状況で死を1度とはいえ回避出来るアイテムを持ってるなんて油断させるような真似を出来なかったからな」


 下手な油断で命の危険に鈍くなるのは危険だ。

 実際、毒を盛られそうになったのを勇者達が自力で回避出来たのは緊迫感から来る注意力のたわものだろう。


「問題は再会した時に本当のことを話さなかった俺の失態だな」

「……」

「…ちなみに売ったらどれくらいになったと思う?」

「値はつかないのでは?

 1度とは言え、死を回避出来るアイテムですぞ?」


 頭を抑えて沈黙する賢寿に売ったらどれくらいか訊くが、案の定、値がつかないだろうと返されるのだった。


「…まあ良いか。

 存在すら忘れていたアイテムだ。嘆いてもしょうがない」


 ガックリと肩を落とした俺は、そういって思考を切り替える。

 期限切れの割引率の良いクーポンが財布の奥から出てきたような残念感はあるが、忘れていた俺が悪いので後悔を止めることにして、いそいそと旅立の準備を進めたのだった。

 

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