第102話 どれもさえない3つの提案

 辺境伯となった俺には、どう足掻いても足らないものが1つだけある。

 ……人材だ。

 この世界に嫁と娘しか縁故のない俺にとって広大な土地に置く複数の都市の代官をやってくれそうな人材がいない。

 その解決策は思い付く限りは1つだったが、ユーリカとの会話でもう1つ思い付いた。

 まずは最初に考えていた方を話すとしよう。


「辺境伯となったのは予定通りなんだが、領地が広い。

 しかもその領地に置く街は、新たに建造するものが大半になるだろう。

 現存する街も取り壊して、位置を変更になるだろうしな…」

「それで?」

「それらの全ての街に信頼出来る代官を配置しなくてはならない。

 その時、信頼出来る代官を何処から捻出するかだが」

「……」

「漫画とかだと、独身の者が殆どだから問題もなく政略結婚って手が使えるだろう?」

「そうね」

「けど、俺達はそうはいかない」

「そうね。私は祐介が他の配偶者を持つことを我慢出来るとは思えないわ」


 一番最初のプランの正妻として我慢してもらうは先に封じられた。

 日本で10年来連れ添って来た相手が他の配偶者を持つなんて容認出来んわな。

 …立場が逆なら俺でもそういうかもしれない。

 これは言う前から廃案だな。


「まあそういうよな…。

 お互い元日本人なんだから。

 あくまでも提案だが、離婚を考えるべきなのかと考えた」


 異世界で嫁に離婚を提案する最低の男ははたして他にいるのだろうかと思うが…。


「……」

「もちろん、この店の権利はそのままユーリカの物にする」

「マナは?」

「俺の私生児として引き取ることになるだろうな…」


 いくらこの店が俺の援助でずっとやっていくにしても、娘への守りは万全ではない。

 …俺の娘が平民に紛れていると知って、悪事を企てる貴族が出ない保証もないし、いくら強力な精霊獣に守られているからと言って絶対はあり得ない。

 対して私生児と言う立場には落ちるが、公に俺の娘である以上は下手な真似をするバカは少なくなるだろう。

 認知している以上は貴族の娘だから。


「…最後まで聞くわ」


 ジト目を向けられるのはしょうがない。

 嫁をこの物騒な世界に放り出す案だ。

 取り乱さずに聞いてくれただけ感謝しよう。


「最後はすぐに効果の出る提案ではないが、勇者達の子供を引き取ると言う方法」

「…どういうこと?」

「勇者との縁故が欲しい貴族は多いから正妻に加え、1人に4人前後の側室や妾が付くだろう。

 1人に付き4人子供が出来たとして、計20人。

 糊代があるとはいえ、子爵領は元々他の貴族や王国の直轄地だ。

 さすがにそれぞれの長男や長女は子爵領内で新しく家を興したり、有力家臣との縁組みがされる。

 だが次男はスペアとして、それなりに大事にされるだろうが、それ以降の子供はお世辞にも良い扱いにはならないだろう」

「兄弟で差をつけるの?」


 あからさまに顔をしかめるユーリカ。

 まあ、あちらの世界では非難されそうだがな。


「つけざるをえないってのが正しいところだろうな。

 いくら勇者達が日本の平等主義の教育を受けてきたとはいえ、跡取りと他の子を同じように教育して、『どの子が跡取りでも同じじゃないか?』

 って家臣に思われると彼らは都合のいい子を跡取りにしようと画策するかもしれない」

「?」

「勇者達の家臣は大半が嫁の実家から送られてきた人材だ。

 元々の主君に優位な当主を立てたいと思うのは当然だろう?

 その口実を与えるべきではない。

 もう1つは現実的な問題。

 …金がない。

 真っ当な教師を探してきて、雇い続けるのは費用が掛かる。

 教える側も生徒の年齢差が広がれば広がるほど負担が掛かるからその分を上乗せするだろうしな。

 ウチみたいにダンジョンで荒稼ぎして領地開発に回すってのは無茶な領地運営だからな?」


 勇者達は、あの旅で俺に対して各金貨1000枚程度の借金がある。

 …これは俺がアイツらに口を出すための口実だが。

 借金が回収出来ないのは困ると言う理由を付けて連中を援助するわけだ。


「これが女の子なら他の貴族に嫁がせられる教養や振る舞いを覚えさせようと学園に送るくらいはするかもしれないが、男の子はそうはいかないだろうな…」


 家臣が反対して、予算が執行出来ないのではないか?


「どうしてよ?」

「いくら勇者の血筋と言っても子爵家の男の子を跡取りとして受け入れられん。

 逆に正妻として女の子は引く手数多だろうな」

「あの子達の家臣は女の子がたくさん欲しいのね?」

「ああ、自分の主君筋以外の娘を出身家の跡取りに1人。

 後は出身家と縁のある家に…。

 って感じかな?」

「…サラブレッドの競売みたいね」

「間違いないがウチも同じだからな?

 マナの価値はそれ以上だ。

 各国の王族が挙って求婚するかもしれないし、拐かしを企むアホが出ない保証はない」

「ハーレムを作るのは認めないわ」

「分かってる。

 マナの護衛を増やして対処するさ」


 改めて釘を刺されたので、勇者の話に戻す。


「そんで勇者達の子供だがな?

 家臣は男の子は要らないけど、女の子はいればいるほどいいわけだ。

 教育ってのは将来への投資であり、需要の高い女の子へは多くの投資を。

 需要の見込めない男の子は最低限の扱いをってなる」


 勇者本人は嫌だろうが、家臣を黙らせるだけの力はないのだからどうしょうもない。


「その男の子を引き取るの?」

「さすがに養子にはしないが、将来辺境伯領の代官を約束してそれまでの教育費を支払う」

「使い込まれたりは?」

「そんなことはしないだろう。

 そうすれば自分だけじゃなく、一族郎党皆殺しだ」

「酷いわよ!」


 いやいや、俺を非難するなよ。


「いや、俺がやるんじゃなくて俺との繋がりを不意にされた勇者家の他の家臣団や嫁の実家の家による懲罰だ。

 …その気に自分達の影響力を高めようと企む連中も少なくないだろうが」

「けど魔が差すこともあるでしょ?

 こっちが支援したばかりに…」

「それはそうだが、勇者達に金がないように、ウチには人材がないんだ。

 …どうしょうもない」

「…………そうね」


 原因の一端を自分の感情であると理解した嫁も諦めて同意したので、


「それじゃあこの方針で、いいか?」

「…しょうがないわ」


 ハーレム許容に離婚協議、最後に残ったのは人身売買と本当にどれもさえない提案ばかり。

 それでもしょうがないと思うが、これははたして貴族らしい選択なのだろうか?

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