第91話 勇者との話

 謁見の間退室後に、侍女に頼んで勇者と会談する用意をしてもらった。

 迎賓館の俺の部屋に案内してくれると言うのでしばらく待つと、勇者4人にレンター王とゲーテを交えた6人が揃う。


「ミーティア出立時のメンバーだな」

「先生の相談は、今後の予定ですよね?

 それなら私も一緒の方がいいと思いまして…」

「喚べば行くぞ?

 不敬だ、何だと騒ぐ奴もいるだろう?」

「別に気にしないでしょ?

 王都には普段いないんですし…」

「…そうだな。

 むしろ、俺への愚痴で不満の解消になるならそれでいい」

「…良くねえと思うけどな」


 御影がボソッと呟く。


「それもそうか。

 寄子として、俺への愚痴を聞いたら嗜めるのはお前だったな」

「何だよ! 寄子って!」

「寄子ってのは貴族の派閥のようなもので…」

「知ってるよ!

 俺が知りたいのは何で俺が師匠の寄子なのかだよ!」

「だってお前、後ろ楯がいないじゃん?」

「え?」


 …気付いていなかったのか?


「良いか?

 杉田はテミッサ侯爵、中野はロッグ伯爵で大池はケイムアッテン侯爵の後ろ楯がある。

 ファーラシアの貴族が表立って批難出来ないような高位貴族がいるんだから、それぞれへの口撃は控えるだろう。

 だが、御影の場合は後ろ楯になる嫁の実家が元第1王子閥のホウバッハ子爵だぞ?

 遠慮なく叩けるだろうが! だからゲーテに男爵家の創設権を与えて権力を強化したわけだ。

 …だよな?」

「ええ、その通りです。

 加えて直領の一部と改易した貴族の領地を編纂して王都の周辺にそれぞれの子爵領を置きます。

 リョウは北部、シンジは北西部、ミチヤが西部です。

 これは婚家のある国の近くに配する思惑がありますが、ガイヤの家を北部よりの東部に置くのは先生の庇護を期待したものになります」


 おや?


「南部には抑えを入れないのか?」

「ジンバル侯爵に反対されました。

 南部は古くから王家を支えてきた伝統貴族が多いので…」

「それはしょうがないな。

 下手に刺激して内乱が激しくなっても面倒だし…」


 かといって勇者があちらに取り込まれても困る。


「ええ。

 それで今後の方針ですが、この地図を見てください」


 テーブルに広げられるファーラシアの地図。

 王都周辺に複雑な囲いがあり、それぞれの中心付近に点が付けてある。

 一番大きいのは王都東側の囲い。


「俺達の領地と領都の位置だな?」

「はい。それぞれの場所に館を建てるように人の手配はしました。

 実際に赴いて建設の指示をお願いします」


 それぞれ平地で水場もあるし、地図で見る限りは良さげな立地だ。

 …俺のところを除いて。


「俺の領都の位置だが、これって『狼王の平原』のど真ん中じゃないか?」

「…はい。

 ここを解放してもらえますと南東部にあるマーマ湖へと通じる街道が拓けるので、ジンバル侯が最優先にしてほしいと…」

「マーマ湖?

 これか?」


 ファーラシアの南東部に広がるでかい湖を指差す。

 周囲が山で囲まれていてファーラシア側の『狼王の平原』と反対側のビジーム城塞都市群へ抜ける河川だけが切れ目となっている綺麗な円形の湖。

 …隕石湖のようだな。


「そうです。ビジームとはアガーム経由の北回り街道とゼイム経由の南回り街道でしか取引がありませんが、ここが解放されると…」

「直通の街道が出来るわけだな?」


 その場合の最大利益享受者は俺だが、王都も潤うわけで…。


「断る理由がないな。

 だが、俺は1度嫁と娘に会いたいのだが?」

「もちろん、それで大丈夫ですよ。

 『魔狐の森』改めて『竜狐の森』の端を通る街道も牽かなくてはならないので半月後くらいで大丈夫です」

「そういえば豊姫にも話を通さないとな」

「お願いします。

 後、先生が飼っているグリフォン幼体ですけど、国軍がほしいと言ってるんですけど…」

「デネ、アル、ベガのことか?

 やらんぞ。

 こんな馬鹿でかい領地を管理するのに貴重な航空戦力を出せるわけないだろうが」

「名前付けてたんですね…」

「……懐いたからな」


 あのグリフォン達はちっさな赤ん坊なのである。

 懐かれたらそれだけで邪険にし続けるのは難しい。

 俺が親の仇だと理解していないのか。あるいは純粋に強者の庇護下に入って安全を確保する本能か。

 なのにエトル砦攻略の間ずっと面倒を見ていたのだぞ?

 大体、猛禽類が嫌いって人間も珍しいだろう?


「つまり俺は悪くない」

「何がですか?」

「エトル砦攻略に時間が掛かりすぎたのが悪い」

「それを言われると何も言えませんね…」

「そもそもグリフォンを倒せない連中がグリフォンを飼うとか何の冗談だ」

「まあまあ」


 俺の愚痴を宥めるレンター。

 今後はこういうやり取りも減るだろうな。

 重要な点を確認しないと、


「そういえばゲーテの家は法衣か?」

「ええ。

 元々軍家なのでそれを踏襲させます」

「なるほど」


 確かにその方が無用の混乱を避けれるだろう。

 それに御影の負担が跳ね上がるのは問題だし。

 こっちはこのまま任せて大丈夫そうだな。

 今後の方針はこれで良いか?


「そうだ。

 先生はアガームの動きに注意しておいてください。

 兄を旗頭に行動を起こす可能性もあります」

「よほど低いと思うがな…。

 動くとしたら、『狼王の平原』解放後だろう?」


 俺の推測に頷くレンター。

 ロランドを利用したところで得られるのは精々東部の一部くらいだろうし、今やっても旨味が少ないだろうしな。

 アガーム王国としても扱いづらいロランドを飼い殺しにして、その子辺りを利用しようと考えるだろう。

 …気を付けるに越したことはないが。

 さて、これから面倒な夜会だな。

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