第23話 予定変更して帰還

 勇者組の宝箱には指輪が1つ、騎士組の方には槍が1本入っていた。

 槍の方は初心者の遺品装備で、たいした価値はなかったが、指輪の方は疾風の指輪と言う名称の魔道具だった。

 脚力+5の効果があるマジックリングで1つ金貨20枚ほどの価値があるらしい。

 つくづく当たり外れが多い。


「それは杉田向けの装備だな」

「良いのか? おっちゃん」

「どうした?」

「結局おっちゃんが倒したじゃん。俺らの与えたダメージってちょっとだけだぞ?」

「そう言うことか。

 俺より勇者組の強化が急務だからな。気にするな」

「貰っておこう。杉田君」


 一瞬だけロランドに視線を向けてから言えば、目敏い大池が杉田を促す。

 さて、当初の予定ではこのまま6層に突入だったが、勇者組の攻撃力が低すぎる。

 武具の更新とチーム再編を施さないと危険だ。


「……一旦帰るか」

「何を言っている! せっかく6層に行けるんだぞ!」

「何でお前が文句を言うんだ? ロランド王子」

「6層で戦えば強くなれるではないか! そんなことも分からんのか?!」

「お前は真性のアホか?

 俺以外にまともに6層でやっていけない戦闘力しかない現状で、これ以上進めば最悪死人が出る」

「アホとはなんだ!

 元々そっちの4人で潜る予定だったではないか!

 なのに勇者と言う戦力が増えたにも関わらず、撤退と言う発想がおかしいのだ。

 さては貴様、勇者が強くなるのが怖くて戻るんだな!

 お前ら、これがこの男の本性だ!

 どうだ! 信用できまい!」

「……はあ。

 じゃあ、危険な状況になったらお前を置き去りにして撤退するからそれだけ覚悟しておけよ?

 それで良ければ進んでやる」

「何を言ってる! 私こそ最優先で逃がすべき対象ではないか!

 この国の第1王子なのだぞ!」

「王子である。それしかないのだろう?」

「何を言ってる!」

「お前自身に価値がない。だから王子であると声高に叫ぶ。

 自分の血筋に寄生してるだけの分際でしかない」

「貴様ぁ!!」


 激昂して、ただそれだけ。

 絶対に勝てないと知ってるから剣を抜く動作さえ満足に取れない。


「おっちゃん良いのかよ? 相手は王子様だぞ?」

「このダンジョンの中でこれ以上騒げば、元王子になるだけだ」

「何を……」


 更に叫ぼうとしたロランドの首に剣を添えて黙らせる。


「分かるか?

 あまりうるさいならここに元王子の死骸が転がる。

 簡単な話だ」

「元王子ってそっちかよ!」

「何を言ってる? 当たり前だろ」

「俺はてっきり勇者召喚の件で糾弾して追い詰めるのかと…」

「そんな手緩い手段に出るか。

 それだと、精々去勢されて名誉貴族として飼い殺しが関の山だ」

「ひいぃぃ」

「おっちゃん、その方が地獄じゃない?」

「…そうだな。

 じゃあ言い換えよう。そんな不確実な手段を選ぶか。

 王族のメンツを重視して処刑なら良いが、一番軽い処罰なら病気療養と言う名の軟禁だろう」

「一生自宅の敷地から出れないのも辛くね?」

「良いか?

 俺達はこの男によって、日本から無期限の国外追放をされたに等しい状況なんだぞ?

 何故、異世界に来てまで日本の駄目な司法みたいに加害者保護の縛りを受ける必要がある。

 正直、暴れたことにして、ここで殺処分にしたいぞ?」

「殺処分ってそんな暴れた犬じゃあないんですよ?」

「自分の思惑で暴れているこいつの方が罪は重い。

 暴れた犬に失礼さ」


 そう言って剣を引っ込める。

 王子は股間から湯気を上げてへたり込むのだった。

 勇者君達は良い仕事をしてくれた。

 これで少しは時間を稼げるし、ロッド翁と相談して速やかに動こう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る