釈道安8 孫綽の賛辞   

釈道安しゃくどうあんは、要するに経典マニアである。

そしてそれらを踏まえ、

布教することに燃えていた。


なので外国からやってきた

僧伽提婆そうぎゃだいば=サンガデーヴァ、

曇摩難提どんまなんだい=ダルマナンダ、

僧伽跋澄そうぎゃばっちょう=サンガブーディらに

多くの経典の翻訳を依頼。

その文字数は百万あまりであった。


また自らも法和ほうわとともに

発音と文字の対応、

文章の趣旨の検証を行い、

こうして新たに訳出された経典は

より漢語圏の民に

正確に伝わるようになった。



孫綽そんしゃくが書いた『名德沙門論目めいとくしゃもんろんもく』には、

釈道安がこう評されている。


「物知りで多才、

 経典の論理に通じている」


また別に賛辞を著している。

そこでは、このような感じだ。


 物有廣贍 人固多宰

 淵淵釋安 專能兼倍

  世の中には多くの物事があり、

  世を牽引しうる才能を持つ者も多い。

  その中でも、あぁ、深淵なことよ、

  釈道安殿。かのお方の才覚は、

  世の異才に倍する。


 飛聲汧隴 馳名淮海

 形雖草化 猶若常在

  その言葉ははるか涼州りょうしゅうにまで響き、

  その名声は淮水わいすいの果て、海にまで届く。

  既に亡くなられて久しいが、今もまだ、

  ここにあらせられるかのようである」




安既篤好經典,志在宣法,所請外國沙門僧伽提婆,曇摩難提及僧伽跋澄等,譯出眾經百餘萬言。常與沙門法和詮定音字,詳覈文旨,新出眾經,於是獲正。孫綽為〈名德沙門論目〉云:「釋道安博物多才,通經名理。」又為之贊曰:「物有廣贍,人固多宰,淵淵釋安,專能兼倍,飛聲汧隴,馳名淮海。形雖草化,猶若常在。」


安は既に經典を篤好し、志は法を宣ぜるに在り、外國沙門の僧伽提婆、曇摩難提、及び僧伽跋澄らに譯出を請いたる所の經は百餘萬言の眾きなり。常に沙門の法和と音字を詮定し、文旨を詳覈し、眾經を新出し、是に於いて正しきを獲る。孫綽の為したる『名德沙門論目』に云えらく:「釋道安は博物多才、通經名理」と。又た之が為に贊じて曰く:「物に廣贍有り、人に固より宰多かれど、淵淵たり釋安、專ら能く倍を兼ね、聲を汧隴に飛ばし、名を淮海に馳す。形は草化したりと雖ど、猶おも常に在りたるが若し」と。


(高僧伝5-8_文学)




釈道安クラスのすげえ僧侶を褒め称えるための言葉が孫綽さんなのを見て「えっ……もしかして孫綽さん、すげえ文人だったの……」とおかしなことを放言したくなってしまった。いや、人品がアレなだけで当時における傑出した文人なんですよね……うん、わかってる、わかってるんだけどさぁ……つーか王徽之おうきしの書が凄まじくても「まあそうですよねー」とは思えるんだけど、孫綽さんの文章がすごいって言われると、どうしても「(^ω^)?」感が否めなくてですね……確かにこの韻の踏み方とかマジでかっけえと思うんだけどさ……。

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