苻登2  毛興の遺言   

苻登ふとうはあまりほうぼうに出歩かず、

そのため交友関係も乏しかった。

毛興もうこうは小用にかこつけ

苻登を呼び、言う。


「小司馬どの、これらの評定、

 共になしてくださらんかね?」


えー、俺がやるの?

そう思ったかどうかはさておき、

苻登、評定に参加。

するとまぁ、見事な判断を示すのだ。


うーむ、やはり彼はすごい。

が、すごすぎて怖い。


なので毛興、そこからも苻登にあえて

大任を任せることはなかった。


淝水ひすい後、姚萇ようちょうが自立。

前秦ぜんしん勢力の一員である毛興のもとにも、

弟の姚碩德ようせきとくを派兵してくる。

そして、しばしにらみ合うことになった。


その後毛興が部下の反乱を喰らい、

殺されることになると、苻同成ふどうせいに言う。


「そなたとともに、長らくクソきょう

 攻め滅ぼさんとしてきたが、

 ついには叶わなかった。

 無念、あまりに無念である!


 この後のことは、そなたの小弟に

 任じるが良かろう。

 軍中でクソ姚碩德を殺せるのは、

 彼をおいて他におるまい。


 そなたは引き続き副官として、

 者ものをよく取りまとめられよ」




登乃屏跡不妄交遊。興有事則召之,戲謂之曰:「小司馬可坐評事。」登出言輒析理中,興內服焉,然敬憚而不能委任。姚萇作亂,遣其弟碩德率眾伐毛興,相持久之。興將死,告同成曰:「與卿累年共擊逆羌,事終不克,何恨之深!可以後事付卿小弟司馬,殄碩德者,必此人也。卿可換攝司馬事。」


登は乃ち跡を屏いて妄りに交遊せず。興は事有らば則ち之を召し、戲れに之に謂いて曰く:「小司馬は評事に坐したるべし」と。登の出でて言せるに輒ち理中を析し、興は內にては服したるも、然れど敬憚したらば委任せる能わず。姚萇の亂を作すに、其の弟の碩德を遣りて眾を率い毛興を伐たしまば、相い持すこと之に久し。興の將に死なんとせば、同成に告げて曰く:「卿と年を累ね共に逆羌を擊たんとせど、事は終に克せずんば、何の之を恨みたること深からんか!後事を以て卿が小弟の司馬に付せるべし、碩德を殄したる者は必ずや此の人なり。卿は司馬の事を換攝すべし」と。


(晋書115-13_賞誉)




毛興さんが自分じゃ扱いきれなかった、という感じですね。そして苻同成も、苻登と比べれば自分が頭を張れるタマではない、と察している。この辺は結構珍しいなあ。だいたい内乱が起こってグダグダになるパターンだろうに。


とはいえこの頃って、主導権は衛平に握られちゃってたはず。となると、内乱でどうこうできるほどの勢力も保持できてなかったのかもしれない。このあと一気に話が衛平からの兵権奪取に移行しちゃうのが恨めしいところです。



ところで、十六国春秋に追加情報がありました。さらっときます。


太安二年姚萇作亂。遣其弟碩德率眾伐毛興相持久之。登克南安。夷夏歸之者三萬餘戶、遂進攻碩德于秦州。姚萇自率眾來救。登與戰于胡奴阪(一作阜)大破之、斬首二萬餘級。將軍啖青射萇中之萇創重走。保上邽、碩德代綂其眾。


太安二年姚萇作亂。遣其弟碩德率眾伐毛興相持久之。登克南安。夷夏歸之者三萬餘戶、遂進攻碩德于秦州。姚萇自率眾來救。登與戰于胡奴阪(一作阜)大破之、斬首二萬餘級。將軍啖青射萇中之萇創重走。保上邽、碩德代綂其眾。

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