第6話話し合い
私は今、生徒会室にいる。
「んくんくんく・・・ふぅ」
アールグレイの香りに包まれた、生徒会室。
そこで私は温かい紅茶を飲みながら、疲れを癒やしていた。
「はあ・・・こうしていると、嫌なことも全部忘れて眠っちゃいそう・・・」
講堂でのことは大変だったけど、全てが終わり、今はほっとしている。
まさか生徒会長の件が、ドッキリだなんて驚いた。
正直、ネタばらしされた後は麗華さまに腹が立ったけど、今はこうして美味しい紅茶をご馳走してくれたから、少しは許せる気分になっている。
みかさんも笑顔で許してたし、私もそろそろ・・・
バンッ!!
みかさんが机をたたく。
「こら雅子!何をぶつぶつ言ってるの!あれがドッキリなわけないでしょ。現実を見なさい!!」
「う・・・わかってますよ、みかさん。でもせっかくいい気分に浸ってたのに、酷いです」
「全然酷くないでしょ。あなたが余計なことしたから、こんなことになったのに、自覚が足りないわね」
「そ、そんなこと言われても、私だって知らなかったんです。実行委員長が次期会長だなんて・・・」
あの講堂での騒動の後、私達は先生に呼ばれて、生徒会室に集まっていた。
理由はもちろん、私が次期生徒会長になるか話し合うためだ。
先に待っていた麗華さま達は、紅茶を淹れた後すぐに先生を呼びに行ったので、今はここにはいない。
「すみません、私が悪いんです。私、てっきり雅子さんは次期会長の件も了承済みでサインしたのだと思ってましたから。しかも積極的に署名をすすめてしまって、本当に申し訳ありませんでした」
「そ、そんな麗子さん・・・結局サインしちゃったのは、私の責任なんだから、謝らないでください」
「そうよ。麗子さんは悪くないわ。それにまだ雅子が次期会長になるって決まったわけじゃないんだし、落ち込まないで」
ガラッ。
扉が開くと、麗華さま達が入ってきた。
「あら、みかはまだ諦めてなかったの?」
「麗華さま・・・」
「当然です!諦める理由はありませんから」
そこへ先生が入ってきた。
「ちょっと二人とも、喧嘩しちゃダメですよ!穏便に話し合いで解決するって、先生に約束しましたよね?それじゃみなさん、全員揃ったことですし、席に着いて話し合いを始めましょうか」
先生に促されて、私達は席に着いた。
私とみかさんと麗子さんが並んで座り、私達と対になるように麗華さま達も席に着く。
上座には私達の担任の、観月先生がため息をつきながら着席した。
「それで、次期会長になる決心はついたかしら?」
「そ、その件もなんですけど、やっぱり私にはそんな大役は無理です。辞退させてください」
私は率直に意見をぶつけた。
講堂では混乱してはっきり言えなかったけど、やっぱり雅子に生徒会長をやらせるわけにはいかない。
「そう。わかったわ」
「えっ?それじゃあ!」
「だったら、強制的に会長になってもらうしかないわね。同意書はこちらにあるんだもの。今さら取り消しはできないわよ」
「そ、そんなぁ」
バンッ!
みかさんが机をたたく。
「麗華さま!講堂でも言いましたけど、それは横暴です!普通、こういうことは本人の意思を尊重するものじゃないですか?それを無理矢理だなんて、桜陵の会長がやることとは思えません!」
「そうは言っても仕方ないでしょう。もう雅子以外に適任者がいないんだから」
「適任者なら麗華さまがお声をかければ、いくらでも出てきますよ。それを嫌がる雅子にやらせるなんて、納得できません」
「あら、他に適任者なんていないわよ。みかも噂くらい聞いたことあるはずよ。生徒会に入ってきた子は、私を恐れてみんな辞めてしまったわ」
「それは・・・」
「せっかく会長に指名しても、すぐに逃げられてしまったら意味がないわ。その点、雅子なら私を怖れたりしない。何より私は雅子を高く評価してるのよ、あなたと違ってね」
「うっ・・・」
「もし、他に候補者がいたとしても私は雅子を選ぶわ。だってこんなに素敵な子なんですもの」
「す、素敵だなんてそんな・・・」
私は麗華さまの言葉に顔を赤くする。
「雅子・・・あなた何照れてるのよ。あなたのために必死で反論してる私を馬鹿にしてるの?」
みかさんが私の頬をつねる。
「い、いはいれふみははん、ほんはほとはりまへん」
「みかさん!ぼ、暴力はダメですよ、暴力は!」
先生が声をあげた。
「あ、あの、私を評価してくださるのは嬉しいんですけど、やっぱり私には無理です。辞退させてください」
「それは無理だと言ってるでしょう」
この後も口論は続いたが、会長をしたくない私達と、会長をさせたい麗華さまでは話が合わず。
結局、議論は平行線のまま時間だけが過ぎていった・・・
「ですから、雅子は病弱だから無理なんです!」
「今は元気そうに見えるわ。それにもし雅子が体調が悪いときは、あなたや麗子がフォローすればいいことよ」
「そ、それではみかさん達に迷惑ですよ。やっぱり他の誰かを選んだほうが、生徒会のためです」
「それを判断するのは私だわ。何度言わせるつもり?」
そこへ美鈴さまが。
「ふあーあ・・・ねぇ、まだやってたの?私もう帰っていい?」
「み、美鈴さま・・・」
今まで一言も発言をしなかった美鈴さまが、あくび混じりで大口を開く。
美鈴さま・・・議論が進まなくて退屈なのはわかりますけど、その態度はあんまりですよ。
「美鈴さん、これは桜陵の未来を決める、大切な話し合いですよ。あなたも真面目に参加してください」
先生が美鈴さんに言う。
「んー、そうは言ってもさあ。麗華もみかちゃんも、どっちも譲る気はないんでしょ?だったらもうじゃんけんで決めちゃえばいいじゃん。めんどくさいしさ」
「それは・・・いくら何でも、じゃんけんはふさわしくないのでは?」
美鈴さまのいい加減な発言に、普段はのんびり屋の麗子さんも呆れてしまう。
「じゃんけん、じゃんけんね・・・。そうだわ!流石にじゃんけんは乱暴だけど、この際、勝負で決めるというのは悪くないわ」
「勝負・・・ですか?」
「ええ、方法は・・・そうね。やっぱり会長を決める勝負だから、審査員は生徒がいいわ。だとすると・・・」
麗華さまはしばらく目を閉じて考え込んだ後、ぱっと目を輝かせて、意地悪そうな笑みを見せた。
な、何だか嫌な予感がするんだけど・・・。
「決めたわ。勝負は来月行われる桜花祭で、生徒会と、園芸部、どちらが多くの生徒を入場させられるかで決めましょう」
「ええっ!?桜花祭で勝負!?」
みかさんが叫ぶ。
「あの、桜花祭って、花をテーマにした伝統あるお茶会ですよね?そんなことしていいんですか?」
「問題ないわ。元々お茶会は、みんなで面白いことをして交流を図ろうというものだから。このくらいのイベントはむしろ歓迎されるわよ。そうですわね、観月先生」
「え・・・ええ、それは大丈夫だと思いますけど・・・」
麗華さまの突拍子もない提案に、私はみかさん達と視線を合わせる。
本当に学園の一大イベントを、勝負なんかに使っていいのかな?
「麗華さま。一つ疑問があるのですが、入場者数で勝負ということは、会場はどうされるんですか?」
麗子さんが尋ねる。
「生徒会が庭園を、園芸部が温室を。それぞれ分けて使うことにしましょう。そこで、なんらかの展示や催しを開き、見に来てくださったお客さんの数で勝敗を決める」
「おーっ、いいねぇ。面白そうじゃない」
麗華さまの提案に、今まで退屈そうにしていた美鈴さまが身を乗り出してやる気になっている。
ちょっと待ってよ。次期会長の次は桜花祭で勝負!?
そんなことしたら、ただでさえ有名になっちゃった雅子の名前が、もっとも〜〜っと広まっちゃうよ。
「み、みかさん」
「わかってるわ。任せて。ダメです麗華さま。伝統ある桜花祭を勝負に利用するのなんて、賛成できません」
「あら、逃げるのみか?花をテーマにした園芸の勝負よ?いわばあなたの得意分野じゃない。園芸部というのは飾りでやってるのかしら?」
「なっ!わ、私は園芸に関しては本気で取り組んでます!飾りなんかじゃありません!」
「ちょっとみかさん!?」
「あら、強がらなくていいのよ?園芸部が園芸勝負で負けたら格好がつかないものね」
「くっ、わかりました。そこまでおっしゃるなら受けて立ちます!私、絶対に負けませんから!!」
「ふふふ、いいわよみか。かかってらっしゃい」
ああっ、流されてる。流されてますよみかさん!
この後ーー
私は一人反対意見を出したが、すでにみんなの意見は勝負することで一致しており、一番の当事者の私の意見が通ることはなかった。
「それでは決まりですね。勝負は6月7日の桜花祭当日」
先生が内容を確認する。
「私達、生徒会が勝てば、雅子には次期会長になってもらうわ」
「ええ、その代わり園芸部が勝てば、雅子のことは諦めていただきます!」
「うぅ・・・私の未来を決める勝負なのに、どうして勝手に決まっちゃうんだろう・・・」
こうして私の意見を無視して決まってしまった。
そして、私は寮に帰ってきた。
「た、ただいまぁ・・・」
私は、ぐったりと弱った体をベッドに投げ出した。
「はぁ・・・まだ桜陵にきて3日目なのに、学園全体に名前が知れ渡っちゃったよ」
麗華さまに関わったおかげで、平穏無事な学園生活からどんどん遠のいてる気がするよ。
こんなことが雅子にバレたら絶対に怒られちゃう。どうしよう・・・
コンコンッ
ドアがノックされる。
「ま、雅子いる?」
がチャっ。ドアが開くとみかさんが入ってきた。
「あ、あはは。なんかごめんね。大変なことになっちゃって。私、園芸のことになるとついむきになっちゃうのよね」
「笑い事じゃないですよ。次期会長の件に、桜花祭での勝負。私、雅子になんて説明すればいいのか・・・」
「ま、まあその辺りは私からもフォローしておくから、あんまり気にしないでよ。そ、それに雅也さんだって悪いんだからね!元はといえば、あなたが麗華さまにころっと騙されたりするからいけないんでしょ?せめて、書類にサインする時くらい警戒しなさいよね」
「うっ・・・それは反省してます」
「まぁ、今後はお互い気をつけましょう。これからは協力が必要なんだし、いがみ合ってても仕方ないもんね」
「そうですね。麗華さまとの勝負、勝てますか?」
「それはもちろんよ!って言いたいとこだけど、相手はあの麗華さまだからね。正直勝てるかどうか」
「麗華さまって、そんなにすごいんですか?」
「当然でしょ。麗華さまは勉強も運動も完璧にこなす、絵に描いたような天才だもの。子供の頃からやってる習い事も、全部プロ並みの腕らしいわよ。だから園芸だってすごいわよ。色々知識も豊富だし」
「そ、そうなんですか。じゃあ気を引き締めて頑張らないと、ですね」
「ええ、明日から全校生徒の注目も集まるし、頑張らなきゃね」
「う・・・そうですね。全校生徒の目が私に集まるって事ですもんね・・・」
勝負も怖いけど、一番怖いのは正体がバレちゃうことだ。
周りの目は本当に気をつけなければならない。
「あ、そっか。雅子は大変ね、色々・・・。そうだ!明日は何かあった時の為に、わ、私と一緒に登校しましょう」
「え、本当ですか。助かりますよみかさん!」
よかった。明日は問題が山積みで不安ばかりだったけど、みかさんが一緒にいてくれるなら心強い。
やっぱりみかさんは頼りになるな。
私なんかよりよっぽど会長に向いていそうだけど、麗華さまはどうして私を選んだのだろう?
うーん・・・そんなに私のこと気に入ったのかな。
「それじゃあ、もう遅いから、おやすみなさい雅子」
「はい。おやすみなさい」
とにかく、明日からの勝負、負けないように頑張らなきゃ!
雅子、兄さん頑張るから・・・今度会ったとき、あんまり怒らないでね・・・
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