第5話次期生徒会長?

 私は校門で麗子さんと別れてすぐ・・・

麗華さまのアドバイス通り文具店で封筒と便箋を買うと、みかさんへの手紙を書いた。

内容は、今日も色々迷惑かけてしまったお詫びと、助けてくれたお礼の気持ちだ。

その手紙を押し花と一緒に封筒に入れると、私は急いでみかさんの部屋に向かった。

しかし、残念ながらみかさんはまだ部屋に戻ってきておらず、私は仕方なくドアに封筒を挟むと部屋に戻った。

みかさん・・・帰ったらちゃんと読んでくれるかな?

みかさんも雅子と同じで花が好きだから、栞はちゃんと保管してくれるだろうけど、手紙は捨てられちゃうかもしれない。

でも、きっと一度は読んでくれるはずだ。

それを読んで、私が純粋に雅子を救いたいという気持ちや、そのためにみかさんに迷惑をかけたことを謝りたいという気持ちーー

そして、みかさんが私を嫌いでも、私はみかさんが好きで、今日も感謝しているという気持ちを素直に感じてほしい。

だって私は、今この瞬間だってみかさんに感謝しているのだから・・・

コンコンッ

ノックが聞こえた。

「は、はい?誰ですか?」

「こんな時間にくるなんて、私しかいないでしょ。バカ」

みかさんが入ってきた。

「みかさん!あ、あの、こんな時間にどうしたんですか?」

「手紙・・・読んだ」

「あの、みかさんが私のこと嫌いでも、私は感謝してますし、その・・・」

「うん、わかってる。私の方こそごめんね。昨日は協力するって言ったのに、放課後、あんな別れ方しちゃって」

「ううん、仕方ないよ。元々嫌いなオレ・・・じゃなくて、私に協力しろって言う方が、無理だもん。みかさんは十分助けてくれたよ。ありがとう」

「あ・・・あのさ、それなんだけど、実は私、あなたのことそんなに嫌いじゃないかも・・・」

「ふぇ?」

「き、昨日はその!突然のことだったし、雅子が雅也さんで気が動転した部分もあって、ああ言っちゃったけど、その・・・。私は昔から、雅也さんのこと嫌いじゃないし、だからこれからはその、仲良くしていければなって・・・」

「それって・・・つまりみかさんは私のこと、好きになってくれたってこと?」

「な、なななななんでそうなるのよッ!嫌いから急に好きになるわけないでしょ!ふ、普通になったの!普通!そんな女装して女言葉使う男の人なんて好きになるわけないでしょ!バカじゃないの」

「これは二人きりの時でも、みかさんが気をつけろって言ったからじゃない」

「ふふ、ふふふっ、あははっ。そうね、そうだったわね。ごめんなさい。それじゃあ、改めてよろしく、斎藤雅子さん」

「うん。よろくしくね、白井みかさん」

こうして、無事にみかさんと仲直りしたのだった。


 翌朝ーー

朝から太陽が優しく微笑んでいる気がする。

この学園にきてから一番の美しい目覚めだ。

きっとお日様も、私とみかさんの仲直りを祝福してくれてるんだね!

なんて乙女チックなことを言ってみるくらい私は朝から上機嫌だった。

今日はいい1日になりそう。

「あ、ごきげんよう雅子」

ラウンジに行くと、みかさんが話しかけてきた。

「ごきげんよう、みかさん」

そして、学園に向かう。

「〜〜♪」

「雅子、鼻歌なんか歌っちゃって、ご機嫌ね。何かいいことあったの?」

「いえ、特にないですけど、そろそろ雅子にも慣れてきて、余裕が生まれてきたかなーって」

「ふーん。でもそういう時こそ油断禁物よ。気を引き締めなきゃ、周りは敵だらけなんだからね」

「はい、了解ですみかさんっ♪」

「うっ・・・た、確かに今のは雅子っぽかった。ちょっとギュってしたくなるような・・・。って何を考えてるのよ私は!あれは男、男よ、男・・・」

そして教室に到着した。

「ごきげんよう、麗子さん」

「あら・・・ふふふ、今日は上機嫌ですね。みかさんと仲直りされたんですか?」

「ええ、おかげ様で。あとで麗華さまにお礼言わなくちゃ」

「ですねぇ」

麗子さんと話してるとみかさんが話しかけてきた。

「ちょっと、何を二人で内緒話してるの。私だけ仲間はずれ?」

「いえ、そんなことはないですよ。昨日のことでお話してたんです」

「昨日のこと?そう言えば麗華さま、何で雅子を呼んだの?」

「あ、それはですねーー」

麗子さんが説明しようとした時だった。

「みなさん、席についてください」

先生が入ってきた。

あれ、先生?どうしたんだろう。まだ始業の時間まで余裕があるのに・・・

「えー、実はですね。週末に行われるはずだった生徒集会ですが、生徒会の強い希望で本日行われることになりました。午後から集会を始めますから、みなさん忘れないでくださいね。何だか重大な発表があるみたいですよ」

重大な発表?

生徒会の重大な発表って何だろう。

クラスの人達も気になるのか、みんな口々に予想を立てている。

「みなさん、静かにしてください。まだ連絡事項は残ってますよ」

「雅子・・・雅子!」

「あ、はい。何ですかみかさん?」

この雑踏に紛れ、みかさんまで話しかけてきた。

「あなた本当に昨日、何したの?まさか今回の発表と関係あるんじゃないでしょうね?」

「そ、そんなことはないですよ。生徒会のお仕事をちょっとお手伝いしてほしいって言われただけで・・・。それも麗子さんも一緒にですし、問題はないと思いますけど」

「そう、ならいいんだけど・・・。今、あなたの体は、あなたのものじゃないんだからあんまり勝手な行動取っちゃ駄目よ?」

「わかってますよ。心配性ですね、みかさんは」

私はこの時、みかさんの心配を軽く笑い飛ばしていた。

私が約束したのは桜花祭のお手伝いであり、重大発表なんて関係ない。

・・・だが、その考えが甘かったことに気付くには、放課後まで時間を待つ必要はなかった。


 「次に部活動の予算についてーー」

午後になり、生徒集会が始まり麗華さまの演説が始まった。

「近年著しい成長を遂げている3つの部に対して、生徒会は現状の予算から新たに割り当てを考えており、その際の割り当て金は・・・」

壇上では麗華さまが部活動の予算などについてお話されている。

凛々しい表情でお話されている麗華さまのお姿に、みんなうっとりしながら聞き入っていた。

「ーー以上で、予算の再配分についてのお知らせを終わります。では、次に、本年度の桜花祭について、重要な決定を行いましたので、ここでみなさんに報告したいと思います」

麗華さまの一言に、講堂が一瞬にして喧騒に包まれる。

どうやらこれが重大な発表みたい。

桜花祭についてって、一体何をお話するんだろう。

私もちょっとは関わることになるのかな?

「雅子、あなた本当に何もしてないでしょうね?」

みかさんが隣で私に尋ねる。

「え、ええ・・・」

まだ心配してる。そうやって何度も聞かれると、私の方も不安になる。

「私、何もしてませんよね?麗子さん」

後ろにいた麗子さんに確認してみる。

「うふふ」

麗子さんは、今日は何を聞いても微笑むだけで、まともな返事をしてくれない。

そんな態度だと、ますます不安になっちゃうよ。

「それでは、発表します。みなさん、静粛に聞いてちょうだい」

麗華さまの一言で、ざわついてた講堂に静寂が戻る。

「本年度の桜花祭について・・・昨日、ようやく実行委員長を務めてくれる生徒が決定しました。その生徒は・・・2年3組の、斎藤雅子さんです」

や、やだ。こんな時に言うなんて。麗華さまのいじわる・・・

緊迫した場面で名前を呼ばれ、私は思わず赤面した。

酷いよ麗華さま。そんなどうでもいい話を、何も今しなくてもいいじゃない。

私は恐る恐る周囲を見回すと、みんな肩透かしを食らったせいか、私の方を見て顔を硬直していた。

私は恥ずかしくなってもじもじしていると、みかさんから強い力で腕をとられる。

「いたっ!な、なにするのみかさん?」

「ま・・・ま、雅子ッ!あんた何てことしたの!!」

「へ?」

みかさんの叫び声を皮切りに、一斉に講堂に歓声があがる。

その声の波は、壇上にいる麗華さまにではなく、叫び声の主であるみかさんでもないーー

全て私に発せられていることが、みんなの視線からわかった。

唯一私だけ、起こったことの重要性が理解できず、目を白黒させていた。

「ど、どうして?私はただ、実行委員会をお手伝いするだけで・・・・・みかさん!?」

「バカ、バカバカバカッ!!桜花祭の実行委員長になるってことは、麗華さまの後を継いで、次期生徒会長になるってことなの!!あなた、次期生徒会長に決まったのよ!」

「え?え・・・・えええーーーっ!?」

私が叫ぶと、麗華さまの口が開く。

「みなさん、お静かに。まだ紹介の途中よ。美鈴、雅子を連れてきて」

「へーい、了解ー」

呆然としている私に向かい、人垣をするすると抜けて、美鈴さまが歩み寄ってくる。

「み、みみ美鈴さま!これは一体どういうことですか!?」

「どうもこうもないよ。実行委員長になるってことは、次の生徒会長になるってことでしょ。桜陵の常識じゃない」

「で、でも私、そんなこと知らなくてーー」

「ごめん、文句は麗華に言ってくれる?とにかく壇上に来てよ」

「え・・・」

「雅子!」

引っ張られるように壇上に連れて行かれ、気づくと麗華さまの隣に立っていた。

まだ驚きで呆然としている私に、全校生徒の視線が集まる。

私、見せ物になってる。こ、怖い・・・なんなのこれ・・・

「みなさん、この子がお話した2年3組の斎藤雅子です。さあ雅子、みんなに挨拶なさい」

「れ、麗華さま・・・これは一体何なんですか?」

「聞いてなかったの?これはあなたの・・・いいえ、次期生徒会長のお披露目会よ」

「そ、そんな!私、そんな話聞いてません!」

「あら、そうだったかしら?でも大丈夫よ。あなたならできるわ。私が保証する。自信を持ちなさい」

「そういうことじゃなくてですね!」

私はパニックになりそうな頭を必死で整理して、言葉を続ける。

「確かに私は実行委員長になるとは言いましたけど、それが生徒会長になるだなんて知らなかったんです。だからーー」

「ダメよ、今さらそんなこと言っても。この状況で断れると思う?」

講堂では、みんな私の挨拶を今か今かと待ち望んでいる。

確かにこんな状況で、今さら無理ですなんて言ったら、怒られるだけじゃ済まないかもしれない。

最悪、斎藤雅子は麗華さまの誘いを断ったって、全校生徒から責められる可能性がある。

でも・・・だからって私が生徒会長になってもいいの?生徒会長なんて、体の弱い本物の雅子にはさせられないよ。

「れ、麗華さま!やっぱり私には無理です。辞退させて下さい」

「大丈夫よ。仕事が不安なら私がサポートするわ。それより早く挨拶なさい」

「でも!」

「雅子、あなた同意書にサインしたでしょう?どんな経緯であろうと契約は契約よ」

「そんな・・・」

命令するような口調で言われ、絶望的な気分になった。

酷い・・・酷いよ麗華さま。

「雅子、今回のことは後で何とでも言ってくれていいわ。だから今だけは私の言うことを聞いて」

「うぅ・・・私は、私は・・・っ!」

すると突然ーー

「待ってください!!」

「え・・・・」

にわかに騒がしかった講堂に、張りのある大きな声が響き、つかの間、時間が止まる。

今の声は・・・みかさん!?

「お話の途中で失礼します。私、斎藤雅子さんの友人の白井みかと言いますが、一言よろしいでしょうか」

「・・・いいわよ、何かしら?」

「私は斎藤雅子さんの友人として、何年も彼女と一緒に過ごしてきました。その私から見て、雅子は内気で人見知りが激しくて、雅子には悪いけど、とても生徒会長が務まる器だとは思えません。よって、桜陵学園校則、第二十八条に基づき、生徒会長の信任に対して意義を唱えます!」

そして静かだった講堂が喧騒に包まれる。

みんな口々に麗華さまに意見したみかさんに対して、驚きと不満の声を漏らしていた。

み、みかさん。私を助けてくれるのは嬉しいけど、麗華さまに逆らって大丈夫なの?

「ふふ、良いところに気がついたわね、みか。確かに二十八条には、指名された生徒が不適切な人物の場合、信任を拒否することができるわ」

「それじゃあーー」

「ただし!否決には全校生徒の3分の2の承認が必要よ。私が推薦する雅子を否定するために、それだけの賛成を集められるかしら」

「・・・・っ!そ、それなら三十二条にある、次期会長の指名は本人の同意も必要だという問題はどうですか?雅子は会長の件を知らなかったはずです。麗華さまは、ちゃんと雅子から同意をとってるんですか!」

「す、凄いですみかさん!そうですよ、私は同意なんてしてません!」

「何を言っているの雅子?同意ならとったでしょ、ほら」

麗華さまはそう言うと、実行委員の誓約書を見せつけるようにひらひらさせた。

「え・・・?それって同意書にもなるんですか?」

「バ、バカ雅子、フォローする身にもなりなさいよ・・・」

「うぅ、すみません」

「もう反論はおしまいかしら」

「くっ・・・そ、それなら次は・・・!」

「みか、先に言っておくけど私は何を言われようと、雅子を手にいれるつもりよ。無駄な抵抗はやめて諦めなさい」

「嫌です!雅子は麗華さまに渡しません!」

すると他の生徒が騒ぎ始める。

「なになに!?何が起こってるの?」

「手にいれるとか、渡さないとか・・・もしかしてあのお三方って、そういう関係なの!?」

「うそーっ、あの麗華さまがあんな子と付き合ってるなんて!」

みかさんと麗華さまの議論が白熱するにつれ、講堂の熱気も更に上昇し、もはや収拾がつかないほどの騒ぎになっていた。

「みか、あなた桜陵の生徒なら、ここは先輩を立てたらどうなの?」

「それとこれとは話が別です!麗華さまこそ本人の意思を尊重してください!」

そこへ先生が叫ぶ。

「麗華さん、みかさん!いい加減にしなさーい!議論は中止です。次期会長の件は、後で生徒会で話し合ってください!今日の集会はこれで終わりです!だからみなさん、おーしーずーかーにーっ!!」

そして生徒集会は幕を閉じた。

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