3.さぁ、ゲームを始めようその2

宝生先輩が来てから少し時間がたって今は十九時少し前、春日部北高校は十九時完全下校のためどの生徒も遅くても十九時には帰る。案の定、宝生先輩も帰り支度をした。


「そろそろ十九時ね。帰るわ」


そう言って席を立った。

ここが勝負どころ、朱染旭、漢を見せる時だ。

席を立ち先ほど佐倉さんに粉砕されたイケメンオーラを纏いなおして勇気を振り絞った。


「宝生先輩、たまには一緒に帰りませんか?」


言えた! 緊張で声が上擦ってしまったがそんなの関係ない。

俺の渾身の誘いを聞くと宝生先輩が静かに俺を見つめてきた。

宝生先輩はなにを考えているのだろう。

嬉しがっているのだろうか? それとも迷惑に思っているのだろうか? そんなことを考えていたら急に恥ずかしくなってきて……


「さ、佐倉さんも一緒にどうかな?」


 ヘタレてしまった。

しかし、なぜかとてもすっきりした。こうすることが正解だったのではないかと思えてきて…………佐倉さんの顔を見て最低の悪手だったことを再認識した。 

 佐倉さん、笑顔なのにめっちゃ怖えよ、このまま近寄ってきて包丁で刺してきそうなほど怖いわ。

怒鳴ってくるより笑顔のほうが怖いってのは本当だったんだな、何されるかわからないのが本当に怖い。


「すみません。私はこの後職員室に行く用事があるので一緒に帰れません。化学室の鍵も私が返しておくのであさひさんと雪先輩は先に帰ってください」


 『ありがとうございます。佐倉美玖様、この御恩は一生忘れません。』と心の中で大げさに感謝を伝えると『次はないですからね。』とでもいうような視線を送ってきた。

怖かったがこれで宝生先輩と一緒に帰ることができる。


「そっか、佐倉さんはこの後用事があるのか、残念だな」


心にもないことを言ってみる。誘った手前、何の反応もしないのは失礼だからな。そして今度は心から待ち望んだことを言う。


「なら、二人で帰りましょうか、宝生先輩。どうせ駅までは同じ何ですし」


 今度は緊張せずに言えた。会話の流れで誘うのはあまり緊張しないのだろうか。まあそんなことよりも宝生先輩の返事だ。

宝生先輩は俺の誘いに今度はすぐに答えた。


「そうね、佐倉さんは残念だけど、一緒に帰りましょうか朱染君」


 勝った。

俺は心の中でガッツポーズをした。ようやく宝生先輩の恋人になるための階段を一段のぼれたような気がした。


「行きましょう! 宝生先輩」


俺は期待と少しの下心をもって宝生先輩と化学室をでた。この先のことを何も考えず、ただ女子と二人で下校できるという幸せに包まれていた。


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