2.人が誰しも裏の顔をもっていることくらい知ってたし!その1
2、人が誰しも裏の顔をもっていることくらい知ってたし!
『キ〜ンコンカ〜ンコン』
スピーカーからチャイムの音が鳴り響く。
佐倉さんが入部してくれてから一週間経った。
佐倉さんはとてもいい後輩だ。
何をしているでもない化学部に放課後、毎日顔を出し、汚れているところがあれば掃除し、俺たちが快適に部活動をできるようにしてくれる。……なんで佐倉さんが掃除してるんだよ、しっかりやれよ、掃除当番!
案の定、今日も俺が部室に入ると佐倉さんが何かの課題を解いているところだった。
教室内を見渡したが宝生先輩の姿はなかった。まあ受験生というものは忙しいと聞くし特別講習でも受けているのだろ。
俺は八人掛けのテーブルで佐倉さんの向かいの席……の一つ左隣の席に座った。
一週間経ったとはいえまだ女子と一対一で話すのは少し緊張するし、何を話せばいいかわからない。
一週間やそこいらじゃ人間なんの進化のしないということだ。
化学室内に運動部の「北高ファイ オー、北高ファイ オー!」という暑苦しい叫びが充満している。
何を話していいかわからなかった結果、俺までも国語の課題を開いてしまった。
そして、沈黙のまま国語の小説の課題が半分程度終わり、時間にして三十分経過した。
流石にこのままではまずいと何かを言おうとすると、先に可愛らしい声が聞こえてきた。
「あの〜、あさひさん」
流石に二人でいるにも関わらず三十分程度何も話さないことに気まずさを感じたのか佐倉さん会話のきっかけを作ってくれた。
これは和気あいあいとした楽しい会話のチャンスだと思い必至にどうすれば盛り上がるか考え、考えて、考えて…………
「どうしたの?佐倉さん。わからない問題でもあった?」
ありきたりな言葉しか出てこなかった。
そういえば俺女子と会話できる盛り上がったことなんて数えられるぐらいしかないわ。
「いえ、わからない問題というよりあさひさんのことについて質問なんですがいいですか?」
俺に関しての質問? つまり、俺のプライベートに関する質問ってこと?
それって完全に俺に対して恋心があるってことじゃないのか? だって好きでもないやつのプライベートなんて興味湧かないしな。
好きだからこそその人のことなんでも知りたいってやつだろ。
いや〜マジか。好きになってくれたら嬉しいなとか、俺に惚れてハーレムエンドってやつになんじゃねとか痛い妄想は繰り広げていたけどまさか本当になるなんて。
でも俺には宝生先輩って言う心に決めた人がいるんだよな〜、でもこんな可愛い子を傷つけたくないしな〜。
今の俺の顔を客観的に見れば鼻の下を伸ばして口角を上げふひっと笑う完全に不審者であった。
でもそんなの関係ない俺には今モテ期が来てるんだからな!!!
「あの〜、あさひさん?」
「あっ、悪い悪い。それで俺に対しての質問ってなにかな?」
不審者顔をすぐに戻し、少し落ち着きのある年上感を出しながら聞き返した。
佐倉さんに声をかけられた時、瞬時にいつ見たかも覚えていない『多くの女性が何故年上男子に惹かれるのか? それは同世代の人より落ち着きがあって安心できるからだそうです』という元気ハツラツな女性インタビュアーの言葉を思い出せてしまった。
これがモテ期パワーか! なんだ、モテ期になると目の前の女性の理想がわかってしまうのか。素晴らしすぎるぞ、モテ期。
しかし、そんなスーパー自意識過剰状態の俺に来たのは全く予想もしてない質問だった。
「あさひさんって雪先輩のこと好きですよね」
質問の意味が理解するのに時間がかかった。
佐倉さんからは告白ではないにしてもそれに類する「あさひさんって今、付き合ってる彼女、いますか?」などと言う告白を匂わせるものが来ると思っていた。
スーパー自意識過剰状態は瞬時に剥がれ、何故、どこで、いつバレたと言う疑問が今度は体中を侵食してきた。
佐倉さんの方を見ると、楽しそうに微笑んでいた。
今の彼女からは前に感じた花の妖精のような雰囲気は消えていた。
今の彼女の見た目はいつもと変わらず可愛いらしいが、内面の腹黒さが外ににじみ出ているせいで、とても可愛いとは言い難かった。
それはまるで人々の心をいいように操る悪魔。
俺は悪魔に目を付けられてしまったのである。
「あは、思った通り先輩って本当に可愛い」
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