1.新入部員? 勧誘なしでうちの部に来る奴なんていないだろ!その2
「しつれいしま〜す」
放課後、部活で化学室に入る時いつも何となく挨拶をする。
いるとしても宝生先輩だけで、中に入ったら別で挨拶するからいらない気もするけど一応している。癖みたいなものだ。
「あれ、宝生先輩まだ来てないのか、そういえば昨日三年生は放課後に進路のガイダンスがあるから部室に来るのが遅くなるとか言ってたな、宝生先輩が来るまで一人で化学室にいるのも暇だし帰るか。」
俺が化学室を出ようとするといきなり化学室の扉が開いた。
放課後に化学室に来るのは俺を除くと宝生先輩か顧問の先生ぐらいだ。
宝生先輩は来ないことがわかっているので先生だと思い適当に挨拶して帰ろうとすると緊張しているような声だが確実に可愛い女の子の声が聞こえてきた。
「失礼します」
顔を上げて見てみるとそこには金髪の小柄な女の子が立っていた。
髪はショートボブぐらいで顔は小さくとても可愛い、身長は平均的な女子の身長より少し低いぐらいだが緊張してもじもじしているせいで実際より小さく見える。
胸は小さくまだまだ発展途上と言ったところなのでここはざんね……ゴホッゴホ
とゆうか初対面の女子をこんなに細かく分析するとか変態かよ!
流石に自分で自分が少し気持ち悪くなったぞ。
「あの〜」
「ああ、すみません、化学の先生に用事ですか? それならいま化学室にはいないので職員室か化学実験室にいると思いましゅよ…………」
は、恥ずかし~。いきなりの出来事すぎて噛んでしまったわ。
仕方ないだろ女子となんてなかなか話せないんだからいざ話そうとすると緊張するんだよ!
とりあえず、目の前にいるのが何年生なのか分からなかったので精一杯の敬語を使って対応した。
さっきジロジロ見てしまったので紳士的もクソもないと思うけど……
「いえ、違います。私,化学部に興味があって入部したいなって思って来ました。」
「あ〜、科学部ね、それなら化学実験室にいると思いますよ。場所がわからないならついていきましょうか?」
「いや、だから化学部に入部したいんです」
「うん、だから科学部のところに……」
「?」
「?」
「……ん? もしかして、うちの部のこと?」
話が全く噛み合っていなかった。
それのそのはず、もう化学部に新入生が入ってくるなんて考えてすらなかったから。
あれだけ勧誘、勧誘とか言ってたけど希望なんてこれっぽっちも持っていなかった。
「そうです。私ここで活動している化学部に入部したいと思って来たんです。」
驚きすぎて、惚けてしまった。
目の前の女子が妖精に見える。
人々に癒しをもたらす妖精が廃部目前の俺たちの部に舞い降りたのだ。
「先輩、私を化学部に入部させてください」
彼女が頭を下げた途端、金木犀のような他者に安らぎを与える匂いがした。
これが柔軟剤の匂いだろうが関係ない。
俺はこの時、花の妖精と出会ったのだ。
()()()()()()「私、1年の佐倉(さくら) 美玖(みく)と言います。化学はそこまで得意ではないですが、精一杯頑張るのでこれからよろしくお願いします。」()()()()
先ほどの新入部員、佐倉さんは自分の自己紹介をするとこちらに向かってニッコリ微笑んできた。
ヤバイ、惚れそうだ。待て待て俺には宝生先輩という心に決めた人がいるんだ。
浮気はいけない、浮気はいけない、浮気はいけ…………
* * *
そこから二時間後、気まずい雰囲気になってしまった。
好きな食べ物とかよく見るテレビ番組を聞いたり、中学では何部に入っていたかなど佐倉さんを楽しませようと努力をしてみたが俺のコミュ力がなさすぎて会話が続かなかった。
それで本当にどうすればいいかわからなくていつもの癖でスマホを操作し始めてしまった。
この失敗に気づいた時にはもう遅く、佐倉さんもスマホをいじっていた。
こんな気まずい雰囲気のこの部を佐倉さんどう思っているのか無性に気になる。
何もしない退屈な部活だと思われていないだろうか? まあ、実際何もしない部活なんだけど。
気になる、気になるがこの状況で話を切り出すには俺には勇気が足りない。
本当に会話に詰まったからってあまりスマホをいじらない方がいいぞ、マジで。会話を切り出すのに必要な勇気が増えるし、帰るタイミングを失って永遠とも思える沈黙が訪れるぞ、今の俺みたいにな……
そんなことを考えていると不意に化学室の扉が開く音がした。
「あら、誰、その子? 朱染君の妹? それとも恋人?」
声のする方をみると宝生先輩が化学室に来ていた。
それはそうと、自分の好きな人にこうゆうこと聞かれると結構ダメージくるな、『恋人?』ってさらっと聞いてくるってことは俺のこと全然恋愛対象として見てないってことじゃん。
これだけ長い間一緒にいることだし少しぐらいは脈あると思ってたんだけどな……
「今日から化学部に入部させていただくことになりました。佐倉 美玖です。よろしくお願いします。」
佐倉さんは座っていた椅子から素早く立ち上がり自己紹介をしながらぺこぺこと頭を下げていた。
佐倉さんが頭を下げるたび、穏やかな気持ちに誘ってくれる香りが漂ってきて最高だ。
言っとくがそんなにあきらさまには嗅いでないぞ、いつも通り鼻で呼吸してるだけだ!
あれ? 宝生先輩が俺をとても冷たい目で見てくるぞ……
すみません! めっちゃ嗅いでました!
「そぉ、これからよろしく佐倉さん、私はこの部の部長の宝生 雪よ。わからないことがあったらなんでも聞いてね。」
宝生先輩は使い古されたであろうテンプレを佐倉さんに向かってニッコリ笑いながら言った。
この人普段なんの部活動もしてないのになんでこんなに頼れる先輩感を出しているんだ? という疑念は俺の心の中にしまっておこう。
今言うと宝生先輩に本気で嫌われそうだ。
「ありがとうございます、雪先輩。これからよろしくお願いします。」
そこから宝生先輩も交えて三人で会話を楽しんだ。
いつも通り、宝生先輩は勝手にガスバーナーを使って紅茶を入れ、一応新入生歓迎用に買ったクッキーを出してきた。
まさかこのクッキーを新入生が食べる日が来るなんて思いもしなかった。
感動している俺の見て、宝生先輩は少し勝ち誇った顔をしてきた、本当に新入部員が入ってくると信じていたようだ。
いつもの 俺たちの活動を知っているのになぜそんな自信があったのか疑問すぎる。
まあ、ともあれ俺も宝生先輩がいれば佐倉さんとしっかり話すことが出来た。
どうやら俺は知っている人がそばにいれば初対面の人とでもしっかり話せるようだ。
そんなこんなで結局その後1時間程度宝生先輩と佐倉さんと俺でテイータイムを楽しみ、そろそろ完全下校時刻になるいうことで片付けをして化学室を後にした。
俺は部員が増えたことによって廃部の危機、ひいては俺と宝生先輩の唯一の共通の居場所の危機を脱した安心感に浸りながら川沿い道を自転車で走っていく。
どうでもいいとは思うが俺はせんげん台駅から最寄りの春日部駅まで行きそこから家まで自転車で帰る。
帰り道はもう十九時過ぎということもあり暗く不気味なところもある、だがそんなこと今はどうでもいい、新入部員が入ってくれた、しかしめっちゃ可愛い。
非モテ童貞臭漂いまくりのハーレムを妄想しながら自転車のペダルを回していく。
「は〜、俺には宝生先輩がいるのに困っちゃうな〜」
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