第20話:はい正解おめでとう

 風呂のための小屋をまず建てた。

 バカの一つ覚えだが、丸太小屋だ。


『槇っていう木はね、湿気に強いからお風呂材には適していると思うわ。あ、防虫性にも優れているわよ』


 というドライアドのアドバイスで槇という木を使った。

 男女それぞれ、2×4メートルの浴槽を作成。

 板同士の継ぎ目に樹脂を塗って、僅かな隙間も見逃さない!


 浴室の床にも槇を使ったが、その下はベヒモスのアドバイスで、


『小屋の下の地盤が緩んでもマズいだろう。水を吸わぬ粘土層の上に木材を敷くがいい。排水は同じく粘土で筒状に地下深くまで届けてやる』

『地下──深く──深く、イカ。地下水──流れてる、イカ。そこまで──届けて貰えば、あとは自然に浄水するだろう』

「最後だけずいぶん流暢じゃないか!?」

『イ、イカ……』


 床下をベヒモスとノームが完成させると、その上に槇で作ったすのこを敷きつめていく。

 床板全部を一体化させると、掃除をするときに大変だ。だいたい縦横1メートルのすのこにした。


「湖の水をここまで引っ張ってこないとな」

『イ、イカッ。お、お湯、ある』

「お湯?」


 クラーケンは桶の中でひれをパタパタと動かし、それから触腕である方角を指示した。


『北東の山──地熱──お湯ぼこぼこ、イカ』


 地熱でお湯がぼこぼこ……それって。


「温泉か!?」

『はい正解おめでとう』

「だから突然流暢になるのなんなんだ!?」






 翌朝、鶏捕獲を続けつつ、クラーケン入り桶を小脇に抱えて温泉探し。

 浮遊魔法でぴょーんぴょーんと跳ねるようにして山を登っていく。

 結構高いところまで浮いて北東を確かめると、なるほど、煙が見えるな。


「ちょっと遠いな」

『なら我に乗るか?』


 俺の肩の上に突然現れたハムスター。

 ハムスターベヒモスが、巨大ハムスターベヒモスに姿を変える。


 けどなベヒモスよ。ここ、空の上なんだぜ。


『ぎゅううぅぅぅぅっ』


 ほとんど叫び声にしか聞こえない声を発しながら、巨大ハムスターが落下していく。

 ずしぃんっという地響きと共に巻き上がる土煙。


「おーい、大丈夫かぁ?」

『イ……カ』


 煙はなかなか晴れず、だが『ふんぬっ』というベヒモスの声が聞こえた。


『我に乗れ』


 何事もなかったかのようにベヒモスはそう言うが、彼の体毛には何本もの木が絡まっていた。

 まぁそのおかげで背もたれができたと思えばいいか。


 木を背もたれにしてベヒモスのもふもふに包まれると、直ぐに視界が流れていく。

 ものの数秒で白煙が上がる場所までやってくると、鼻をつんとする刺激臭がほのかに漂って来た。

 これは硫黄かな?


「この下に溶岩が?」

『否。火山はもっと奥の山だ。今は眠っているから、特に危険がある訳ではない』

「そうか、安心したよ。さて」


 辺りを見回したが、どこにも温泉らしきものが見当たらない。

 だが湯気は確かに出ていた。


『このすぐ下に空洞がある』

「そこに温泉が?」

『きゅう』

「クラーケン。温泉の成分はどうなんだろう。人体への影響は?」


 クラーケンは目を閉じ、そして『ない』とぼそり。


『冷え性や疲労回復効果がある。傷を癒したりといった聖水のような効能はない。以上だ。イ、カ』


 もうこいつの変貌ぶりにいちいち反応するのは止めよう。


 しかし地下空洞内の温泉かぁ。ちょっと興味はある。


「ちょっと入ってみたいな」

『ダ、メ』


 触腕が伸びてきて、俺の頬に吸盤が張り付いた。

 ちょ、ちょっと変な感触が!


「ダメって、何がダメなんだクラーケン?」

『温度……90度──超えてる、イカ。だが村までベヒモスにトンネルを掘らせ、そこを通せば、村に到着するころには適温になるだろう』

「……な、なるほど。逆にここで適温だったら、沸かす必要があったってことか」

『そう、イカ』


 それならさっそくと、ベヒモスに頼んで地底温泉を村へと引くためのトンネルを掘って貰う。

 トンネルと言っても、実際は小さな穴だ。大きすぎると、湯の温度が下がり過ぎてしまうからな。

 それに陥没も怖いし。


『では魔力を頂こう。きゅっきゅう』


 魔力の吸収と同時に、地面の下から僅かな振動が伝わって来る。

 その振動が徐々に南西へと伸びていき、クラーケン桶を持って浮遊魔法で追いかけた。


「そういえば風呂小屋のほうの準備ができてない!! は、配管作ってないぞっ」

『ノ、ムに』

「"空間転移テレポート"」


 村へと飛んだ俺は、風呂小屋に向かいながらノームを召喚する。

 今まさに親分のベヒモスが掘っている穴と連結させるために、小屋の壁の一部を魔法でくり抜く。

 男女両方の風呂でだ。


「よしノーム。ベヒモスが温泉を通す穴を掘っているから。浴槽からその穴と連結できるようにしてくれ」

『むきゅ』


 モルモットがこくこくと頷く。

 もふもふしていて気持ちよさそうなので、つい背中を撫でた。


『きゅうぅぅぅ』


 目をランランとさせ、それでも仕事をしっかりこなすノーム。

 可愛い奴だなぁ。

 背中を撫でると、短い尻尾がぴこぴこ動く。

 完全にモルモットだ。大きさが大きさだけにそう見えるが、ハムスターと言っても過言じゃない。


 内側を岩素材でコーティングした、粘土で作った配管が、小屋の外の地面から二本伸びてきた。

 先端は男女それぞれの浴槽の縁に繋がっている。


『きゅ』

「きたか?」


 ずももももと地面が揺れ、そして──


 じゃばーっとノーム産配管から湯気の立ち上る温泉が放出!


「温泉キタァァー! 温度はどうだ?」


 配管から流れ出る温泉に手を差し出すと、「アッチッ」と言うぐらいには熱い。

 だが火傷をするような温度ではなく、浴槽に溜める間に少し冷えてちょうどいいかもしれない。


 あぁ、シャワーも欲しいなぁ。


「ノーム、こういうのは作れないだろうか?」


 魔力を練った設計図を見せ、試行錯誤の末にシャワーも完成した。

 拳ほどの配管を天井近くに伸ばし、管に垂れ下がる瓢箪のようなものを作る。

 下の部分に栓をし、外せば中に溜まったお湯がダーっと落ちてくる仕組みだ。

 瓢箪内のお湯が切れれば貯めるのに数十秒かかるが、そのぐらいの時間なら気にならないだろう。

 シャワー用配管と浴槽へと伸びる配管は別に作り、浴槽側にだけ弁を付けておいた。

 浴槽のお湯の深さが一定量になったら弁が閉まり、その状態で一定量まで減ると開く。

 そんな風に魔法回路を付けておいた。


 ふ、ふふふ。

 これで今夜から毎日温泉に入れるぞ!!


「ケンジさん? 鶏を捕まえに行ったんじゃないですか?」

「お、セレナ聞いてくれ! 温泉を引いたぞっ」

「……鶏は?」

「あ、うん、い、今から。そ、それよりお風呂だぞ?」

「私は鶏のほうが……」


 異世界人。

 風呂無し生活が当たり前すぎて、お風呂の良さを知らなかった!!

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