094

「私は妹だけどお姉ちゃんとは父親が違うし確執もあったし。それにもう家族ではないし。だから私は柴原さんの意向に従うよ。」


柴原さんとお姉ちゃんは結婚して家族を作った。そこに私は必要ないんじゃないかと思う。

私の出る幕はないでしょう?

柴原さんとの家族ごっこももう終わり。

本当の妻が現れたのだから。

私は用済みだ。

そんなこと、とっくに分かっている。


姉は入院してるしこの先も長くないのだろうけど、そろそろ私はあのマンションを出ていくべきなんじゃないだろうか。

すずもまだ小さいけど、いつまでも私がいたらいけない気がする。

柴原さんだって、よくは思っていないだろう。


「そろそろすずの様子見に行こうか?」


時計を確認して立ち上がる。

空き缶をゴミ箱に捨てて病室へ行こうとすると、柴原さんは私の腕をつかんだ。

振り向くとそこには真剣な顔の柴原さんが私をまっすぐに見据えている。


「美咲、家を出ていくとか言うなよ。」


「っ!」


私の心を読む力でもあるのかよ。

そんなこと言われたら、いとも簡単に揺れてしまうではないか。


だけどそこに柴原さんの真意は見えなかった。

純粋にいてほしいのか。

便利だからいてほしいのか。


私は出ていかないとは答えられなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る