第477話 帝都ハムネア見物2
リリアナ殿下たちとアスカを含めて四人で帝都を見物しながら散歩していたら、期せずして『魔界ゲート』の話になった。
巻き込まれてこの世界に召喚された俺だが、『魔界ゲート』を閉じることで勇者たちが元の世界に送還されるのではと言われている。その際、俺も一緒に元の送還される可能性がないわけではない。
勇者の帰還に巻き込まれないように連中とは距離を取った方がいいかもしれないが、実際のところ二つの世界の距離を考えた場合、少々の距離など誤差でしかないと思い始めた。
それならいっそのこと、魔界ゲート戦の
俺が難しい顔をして黙って歩いていたものだから、周りに心配をかけたようだ。
「ショウタさん、どうかしましたか?」
「いえ、『魔界ゲート』のことをちょっと考えていました」
「そうでしたか。ショウタさんは、あの勇者さまたちと一緒にこの世界に召喚された方でしたものね」
「『魔界ゲート』が勇者たちによって閉じられたら、勇者たちは元の世界、私のいた世界に戻ってしまう可能性があるんですが、その時私も元の世界に戻ってしまうかもしれません」
「ショウタさんが元の世界に戻ってしまわれたら私は悲しい思いをしますが、ショウタさんにとっての故郷なのですから応援します」
「ありがとうございます。そのことについては自分でどうこうできるものではなさそうなので、この世界のために『魔界ゲート』を閉じる手助けだけはしていこうと思っています」
そうか、
児玉翔太、世界を語る。
ずいぶん俺もビッグに成ったものだ。
「難しいことはそれくらいにして、そろそろいい時間ですから、昼食をとるお店を探しましょう」
「ここからなら、もう少し先にお勧めのお店があります」
もうアスカは、帝都ハムネアのタウン情報を仕入れているらしい。
「アスカさんは帝都にお詳しいんですね」
「この周辺の情報については大通りに出て以降、集中的に現在まで情報をかなり得ていますのである程度は使えると思います」
聖徳太子ではないが、かなりの広範囲から同時並行的に入ってくる音声情報を、頭の中で整合性などをチェックしつつ整理しているのだろうと想像している。
アスカの勧める店は、そこからすぐに見つかったのだが、大通りから一本ずれた道に面していた。あまり店の間口は広くはないようなので、こぢんまりとは言わないまでも、それほど大きな店ではない。その代り、店の外観は落ち着いており、リリアナ殿下が利用すると言っても何ら問題はなさそうな店だった。
店の出入り口の左右には背丈ほどの針葉樹が植えられた大きな鉢何個も置いてあった。季節柄なのか、その木の種類のせいなのか、針葉樹の葉が黄緑というよりも黄金色をしている。
店に入ると、四人席や二人席が並んでいて、ざっと数えたところ店の席数は二十人分ほどなのだろう。
店の人に、
「空いている席にご自由にどうぞ」
と言われたので、一番奥のテーブルにつくことにした。
こういったお店でのメニューは壁に大きくかかれているのが普通なので、そのメニューを見ながら、
「ハムネアでの一番のお勧め料理という訳ではありませんが、この地方での名物料理として、砂漠大砂ネズミか砂色大トカゲを使った料理があります。砂漠大砂ネズミの方は赤身肉でやや歯ごたえがあるようで、燻製などにするとお酒のつまみに最高なのだそうです。
昼食ですから大砂ネズミ入りの野菜炒めかシチューあたりがお勧めですが他にソテーもあるようです。
砂色大トカゲは白身肉であっさりして柔らかいそうで、パイ包み焼きとソテーがあります。私はせっかくですので、大砂ネズミのシチューと砂色大トカゲのパイ包み焼きを注文します。それと温野菜の盛り合わせ、飲み物は温かいお茶にします」
だそうです。
アスカはこれが目当てでこの店を選んだようだ。何だか俺の感覚ではゲテモノ的な感じがするのだが、他にも俺の収納庫の中にまだ残っているサンドリザードの料理もあれば、一般的な肉料理もあるようなので俺は無難なものにしよう。
そう思っていたのだが、アスカの言葉に刺激されたのか、リリアナ殿下まで、
「それなら私はアスカさんの注文した、砂色大トカゲのパイ包み焼きにします。飲み物は同じく温かいお茶で」
「私も、殿下と同じもので」と、侍女の人。
そういえば、俺はこの人を含めて今回リリアナ殿下に同行した三人の侍女の人の名まえを知らないんだよな。向こうは俺が名まえくらい当然知っていると思っているだろうし、今さら聞けないものな。あとでアスカに聞けばいいのだが、三人の名まえを覚えたつもりでまちがってしまったらお互い気まずいからな。
今のこの流れで、『それじゃあ、私は牛肉のステーキ』などとは言えないので、結局俺も大砂ネズミのシチューを頼むことにした。この世界にきて、ネズミを食べることになるとは思わなかった。
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