第450話 屋敷の増築依頼


 二回目の出仕で、大まかな周辺国の状況を理解することができた。俺がどうこうできるわけではないが、ネットもテレビもない状況で世界の情勢を知ることができたことは大きい。


 この世界には新聞というものはないようで、かわりに街のあちこちに掲示板が出ており、そこに国からのお知らせなどが張られている。一般の情報の伝達はもっぱら口こみということになる。


 そう考えてみると、新聞社的なものを立ち上げてみても面白いかもしれない。情報を制する者が世界を制する。俺は世界を制したくはないがね。


 とはいえ、王都内のローカルニュースだけなら聞なのだろうが、王都周辺から外れてしまえば情報などそう簡単に手に入るわけでもないだろうし、発行した新聞が届けられるにも相当な日次がかかり、新聞ではなくなる。ローカルニュースが関の山というところだろう。


 夕食も終わってアスカといつものように居間で駄弁だべっている。


「マスター、ローカルニュースだとしても、王都での発行は意味があるかもしれません。順調にいけばあと五年ほどで、キルンに鉄道が繋がります。王都でのノウハウを持ってキルンでも情報収集して新聞を発行すれば二都市での発行ですが、一気に全国紙です」


「そんなにニュースになるようなことがあるのかな?」


「新聞社単体では収益は上がりにくそうですが、ある程度、社会の役には立つのでなないでしょうか?」


「たしかに、今日リーシュ宰相に最新の状況を聞いただけでも何か世の中に対する見方が少し変わったような気になったものな。俺自身が新聞記者になりたいわけじゃないから、そういった物に興味があるような人物を見つけて会社みたいなものを立ち上げてみてもいいかもな」



「明日は、フォレスタルさんがやってきますから、大まかな増築方針を決めておきませんか?」


「そうだったな。一応、今度の子どもたちは屋根裏部屋でいいだろうが、ちゃんと三階建てにするなら、ちゃんとした部屋にしてやりたいな。ところで新築じゃないんだから増築工事中も住めるんだよな?」


「住めなくなる部屋も出てくるかもしれませんが、客室などまだ屋敷の空いている部屋はありますから、工事の進捗に合わせて部屋を移動すればいいでしょう」


「だよな。最悪『ナイツオブダイヤモンド』で部屋を借りても良いしな。空いてさえいれば、あのスイートを貸してくれるんじゃないか?」


「おそらくそうでしょう。あちらに負担になりますから、なるべくこの屋敷内で対応しましょう」


「それはそうだな。

 ここはまだ希望なので諸々もろもろは無視してもいいから、一番いい感じのものを考えてみようか」


「そうですね。細かい部分は専門家のフォレスタルさんが考えてくれますから、こちらの希望を決めておくだけで十分だと思います」


「子供部屋は、シャーリーたちと差をつけたくはないから、四人部屋でいいよな。それが数個とあとは、教室になるような広間が必要か」


「食事はみんな同じ場所で食べるべきですので、これからも人が増えそうですから食堂は大きなものを用意しましょう」


「厨房の方は大丈夫かな?」


「そちらの方はゴーメイさんに確認しましたが、今でもかなり広いため問題はないようです」


「あとは、トイレとかは増設しないとな。風呂はどうだろう?」


「トイレの増設はした方がいいでしょうが、風呂の方は人数の多い女風呂でもかなり空いていますから問題ないでしょう」


「そんなところか。増改築になるから、新築よりも時間がかかるとして、どのくらいかかるかな?」


「施工を初めて二カ月もあれば大丈夫じゃないでしょうか」


「今年中に完了してくれれば問題ないな」


「そうですね」



 俺たちが、だいたいの考えをまとめた翌日の朝、フォレスタルさんが馬車に乗って屋敷にやってきた。俺たちは先に応接の方で待っているところに、ハウゼンさんがフォレスタルさんを連れてきてくれた。


「おはようございます。ショウタさま、アスカさま」


「フォレスタルさん、おはようございます」「おはようございます」





 応接室のソファーに座って、


「それではさっそくですが、このお屋敷の増改築のご希望をうかがいましょう」


「まだ、建てて一年も経っていないんですが、今度孤児奴隷をそれなりの数うちで引き受けようと思い立ちまして、それで、今のままだと手狭になりそうなので、屋敷の増改築をしようと思い立ちました。

 こちらの要望ですが、最大で二十人ほど人の数が増えるということで設計をお願いします。その二十人については、今ある四人部屋と同じ四人部屋でお願いします。

 あとは、食事はみんなで同じ食堂で食べたいので、今の広い方の食堂をもう少し広めにしてください。あとはトイレの増設です」


「分かりました。この屋敷の図面はありますので、すぐに設計に取り掛かれます。明日の午前中にでもお持ちします」


「工事中には屋敷を空けなくてもいいんですよね」


「作業する個所周辺の部屋は使えなくなります。一度に使えなくなる部屋は限定的かつ短時間になるよう作業順序を調整しますのでまず問題はないでしょう」


「安心しました。よろしくお願いします」


「それでは、さっそく作業に入りますので私は失礼します」


 フォレスタルさんは風のように馬車に乗って帰って行った。まさに分刻みのようなビジネスマンだ。



「フォレスタルさんに任せておけば、これで安心だな」


「そうですね」



 玄関ホールまでフォレスタルさんを見送った俺たちは居間に戻って寛いでいたら、ソフィアがワゴンにお茶の用意をしてやってきた。


「お客さまにお茶をお出しできなくて申し訳ありませんでした」


「仕方ないよ。相手はあのフォレスタルさんだから。屋敷の増改築の要望を俺から聞いたらすぐに仕事に取り掛かると言っていつものようにすぐに帰っちゃったからな。本人の頭にはお茶のことはなかったと思うよ。こうして、俺たちが飲むから問題なし」


「はい、ありがとうございます」


 ワゴンの上でれられた熱いお茶の入ったティーカップを受け取り、それをすすりながら、


「そろそろ、ハットンさんのところから連絡が来そうだよな」


「そうですね。もう二週間近くになりますからそろそろでしょう」


 そんな話をしていたら、ハウゼンさんがやって来て、


「先ほどハットン商会本店からメッセンジャーが参りまして、手紙を預かりました」



 受け取った手紙を読むと、孤児奴隷六名を何とかそろえることができたので、明日の午前中にハットン商会に来店して面接してほしいとのことだった。


「六人ちゃんと集まってよかったな」


「ハットンさんの話ですと、他の奴隷商からも集めたのでしょうから、六人がお互いに初対面かもしれませんね」


「通常は買われれば一人きりになるんだから、それは仕方ないだろう」


「そうですね」


「俺とすれば、仲良くやってくれればいいよ。午前中はアスカが面倒を見るんだったら心配ないだろ」


「そうですね」



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