第449話 情勢説明


 俺とアスカで午後の業務という名の雑談をしていたら扉がノックされた。『どうぞ』と返事をすると、俺の担当者の秘書の人がやってきた。


「コダマ政務官、エンダー副政務官、お二人をリーシュ宰相がお呼びです」


 何の用事があるのかは分からないが、上司に呼ばれれば急いで行かないと。


 隣りのリーシュ宰相の続き部屋に向かい、扉の開いたままの奥の部屋まで進んだ。


「二人ともそこに座ってくれたまえ」


 アスカと並んで部屋の隅の応接セットの長椅子に座ると、リーシュ宰相は小さなテーブルを挟んで俺の正面に座った。


「午前中は二人に、この国の周辺国の情勢について資料を見てもらったわけだが、私の時間が空いたので、もう少し詳しく説明しようと思ってここに呼んだけなので、気楽に話を聞いてくれればいい。

 まず、パルゴール帝国については二人の活躍によってアリシア陛下が無事帝都に帰還できた。その後、騎士団長をはじめとした第1騎士団の精鋭と飛空艇による急襲作戦により、周辺の非恭順都市の奪還を進めて、現在旧帝国領のうちわが国側の三分の二はアリシア陛下を認め恭順しており、残りは態度を保留もしくは、前政権派で積極的に抵抗をしている。ここで問題なのが、パルゴール帝国の西に位置する、メリナの存在だ。メリナは共和国という珍しい政治形態をとっているのだが、この国も以前は国王をいただいていたものの、その国王を追放して今の政府ができたものだ。その実体はクーデターの首謀者たちをそそのかした一部の権力者が国王や皇帝以上の権力を持って国を操っているだけのものらしい。ちなみにクーデターの首謀者たちは既に粛清されているということだ。

 実は、昨年のパルゴールでのクーデターもメリナから資金提供を受けた上、軍部がそそのかされてのものだったようだ。

 現在もメリナから非恭順地域に対して資金供給がされているようだし、メリナは軍隊をパルゴールとの国境近くに集結中との情報もある」


「すみません、そういった情報はどうやって集めているんですか?」


「各国には情報収集用の人員を派遣しているんだよ。特にパルゴールの主要都市には複数人の人員を配置している。今は飛空艇を週一回はパルゴールのハムネアに連絡用と補給用に飛ばしているので、かなり新しい情報が手に入るようになった。これも君たちのおかげだな。

 話を戻すと、パルゴールでは、帝国の回復のためとメリナに備えるため軍隊の再編を急いでいるところだ。

 メリナも、ここで真正面からパルゴールへ侵攻した場合、『魔界ゲート』で西方諸国がかかりきりになっている状況での火事場泥棒と各国から思われたくはないというところと、パルゴールの後ろ盾になっている我々の飛空艇による急所への急襲を防ぎきることは難しいと判断しているようだ。

 そういった状況の中、徐々にパルゴールは旧来の版図を回復中といったところか。

 それと、アリシア陛下の国内での戴冠式は十一月中、遅くとも十二月初めには行われるそうだ。おそらく二人にも招待状がそろそろ送られてくるだろう。

 陸路を行けばパルゴールの帝都までここから片道二カ月近くかかるので、わが国の使節団の準備などは既に整ってはいる。君たちは、自分たちの飛空艇で向かってくれて構わないのだが、国王の名代として今回はリリアナ殿下を派遣しようと思っているので、できれば君たちの飛空艇に乗せてやってもらえないだろうか?」


「もちろん構いません。お付きの方も含めて六人までなら大丈夫です。荷物はいくらあっても構いません」


「ありがとう。リリアナ殿下にも旅をさせてやりたいが、さすがに往復四カ月間は厳しいからな。それに、君たちに任せておけば間違いないし安心だ」


 さすがにリリアナ殿下の大叔父だけある。ちょっと早めに到着するようにして、帝都見物なども面白そうだ。アスカと一緒ならこの王宮の中にいるより安全だからな。


 宿などはきっと国の方で用意してくれるのだろうと思っていよう。


「宿泊については、心配しないでもこちらで用意しておくので、早めに到着して観光でもしていればいい」


 リーシュ宰相には、お見通しでした。


「西の方はこんなところだな。

 次は、北の方だが、北方諸王国は程度の差こそあれ、いずれの国もわが国に対して友好的だ。『魔界ゲート』に近いということもあり、ゲート前に建設している砦への物資の提供や輸送に協力してもらっている。『魔界ゲート』正面の新砦の建設も順調のようだし、勇者の方の訓練も最近は順調だと聞いているので、あちらの方は一応何とかなると思っているのだよ」


『魔界ゲート』の話題が出たので、リーシュ宰相にだけは、アノ事を教えておこうか? 俺の収納の中に取り込んでしまえば、当面『魔界ゲート』が活性化しないが、それも俺が生きている間だけだ。俺が歳を取って妙なところで死んでしまうと、その辺りに収納庫の中の『魔界ゲート』が現れるだろうから、かなり迷惑なことになってしまう。だからと言って、北の砂漠で一人静かに死んでいくとかつら過ぎるぞ。


 そう考えると、やはり正規ルートでの攻略が望ましいよな。ここは宰相には黙っていよう。ゲートが開いたら近くで隠れて応援するくらいに留めておこう。


「南方の方はこれといった動きはない。

 あとわが国にとって脅威というほどではないがやっかいなのは、東方だ。東方には複数の蛮族の集団が盤踞ばんきょしており、そこから小規模の集団がわが国方面に流れてきており、わが国東方にある開拓村などと衝突が少なからず起きている。

 わが国は西と北は砂漠で塞がれ南は大森林で塞がれているため、今後の勢力を拡大していくためには東方しかない。開拓村の諸君には苦労してもらっている。

 防衛ばかりしていては開拓村が発展することはできないため、昨年の春から夏にかけて騎士団総長以下第1騎士団にその辺りで暴れ回ってもらったおかげで、今はかなり落ち着いている。


 今日はそんなところだな。まあ、二人には当面これといった仕事を与えるわけではないので、リリアナ殿下と食事をするために出仕していると思っていてくれていいから適当にやってくれたまえ」


 そんなことだろうと思っていたよ。経済的には余裕がありまくりなのかもしれないが、それでも俸給をもらえば嬉しいし、今のところ何の責任もないわけで、俺にとっての初めての勤労アルバイトはまさに天国ではあるな。







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