第439話 付属校入学式2


 ラッティーの入学式はつつがなく終わったので、他の保護者たちと一緒に講堂からゾロゾロ出ていきながら、アスカに、


「今日は入学式の後、教室に入って学校の説明を聞いたらおしまいなのかな?」


「サージェントさんには昼前に迎えに来るよう言っていますが、ちょっと時間が空きそうですね。私たちもそれまで時間を潰さなくてはいけませんしラッティーも正門前でただ待っていることになります」


「ラッティーがやって来るのがサージェントさんと行き違いにならないような早い時間だったら、乗合馬車で帰るとするか」


「そうですね。もう少し遅くなるようなら、サージェントさんの馬車がどこを通るのかは分かりますから歩いて帰っても良いでしょう」


「それもそうだな」


 ここのところご無沙汰ぶさただった、青いシルクハットと仮面を収納から取り出しながら、


「それにしても、ただ門の前でラッティーが校舎から出てくるのを待っているのも大変だから、ラッティーが学校生活をうまくやっているか、確認は必要じゃないか?」


「いえ、いつラッティーが教室から出てくるかわかりませんから、ちゃんと校門の前で待っていましょう」


「アスカは心配性だなー、ラッティーなら俺たちが少々遅れても問題ないと思うぞ」


「そうかもしれませんが、大事な初日ですから、ちゃん待っていてやりましょう」


「アスカがそこまで言うなら仕方ないな」



 アスカがラッティーを校門前で待っていようというので、他の保護者たちと同じように二人で立ち話していたら、意外と早く新一年生と思われる生徒たちが校舎から出てきた。ラッティーはその中で目立つほど小柄なので一目で見つけることができた。


「おーい、ラッティー!」


 手を振ってラッティーを呼んだら、すぐに気付いたようで、こっちに駆けてきた。


「マスター、ここでは、ラッティーではなく、リリム・アトレアですから」


「そうだったな。だけど、ここでリリムと大きな声で呼ばれるとラッティー自身が恥ずかしがらないかな?」


「大きな声を出さなくても、手を振るだけでラッティーなら気付けますから」


「アスカもラッティーって言ってるぞ」


「大きな声じゃなければいいんです」



「お待たせー」


「馬車の迎えは昼前って言ってあるし、まだだいぶ時間があるから三人で歩いて帰ろう」


「はーい」


「マスター、失念していましたがこんな時こそ、マーサにもらった通信機の出番ではないでしょうか?」


「俺もすっかり忘れてた。アスカが連絡してくれるか?」


「はい。……」


 俺が収納に入れずに持っていると無くすかもしれないのでアスカに持ってもらっているマーサから貰ったカード型の通信機を使って、屋敷にいる誰かに連絡してくれた。これでサージェントさんに迎えに来なくてもいいと伝わるはずだ。これで一安心。



 大通りに向かって歩きながら、


「それで、ラッティー、クラスはどうだった?」


「明日からのことの説明と自己紹介だけで終わったよ。私の名まえ、リリム・アトレアだって忘れてて、先生に名前を呼ばれたときに、しばらく自分のことだと気付けなかった。えへへ」


「そうだよな。いまは仕方ないけど、少しずつ慣れていかないとな」


「そうでもないよ。自己紹介の時、これからは、わたしのことラッティーと呼んでくれってみんなに言ったから」


「アハハハ! それはいい。だけど、みんなも何を言っているのか分からないだろうから、驚いただろ?」


「みんながどう思ったのかは分からなかったけれど、わたしの保護者が、コダマ伯爵とエンダー子爵だって言ったら教室の中が大騒ぎになっちゃった。二人ともクラスのみんなのあこがれの英雄みたいだった」


「俺が英雄か。俺のファンクラブを作ってくれても構わないからな」


「でも、わたしはアスカさんのファンクラブに入るようにシャーリー姉さんに言われているから」


「そうなのか。しかたないな」


「でも、ショウタさんのファンクラブもそのうちできるかも知れないよ」


「期待しておくよ」


「それと、屋敷に遊びに来たいって子が何人もいたんだけどいいかな? ショウタさんとアスカさんに会いたいって言ってた。それにフーのことも教えたらぜひ参拝したいって」


 初日から信者の勧誘をしていたようだ。


「うちに来てもらってもちろん構わないが、いきなり来られても困るから、早めに教えておいてくれよ。俺にも用意があるからな」


「早めに知らせてもらうのは当然として、マスターにどんな用意があるんですか?」


「取り立てて準備することはないかも知れないけれど、心の準備は必要だろ?」


「分かりませんが、十分に準備してください」


「そう言えば、今日新入生代表であいさつした子ともお友達になったよ」


「ほう、そいつは良かったじゃないか。ラッティーは人見知りがないからいいよな。俺なんか人見知りだから友達を作るのにも一苦労だったぞ」


「ショウタさんが人見知りってことないでしょう。どこにでも行って誰とでも話をしてると思っていたけれどなあ。王女殿下ともしたしいし」


「仕事となると誰とでも話せるよ。王女殿下については理由があるし、仲良くなった後は気にならないだけだよ。誰だってそこは一緒だろ?」


「だから、それは人見知りじゃないと思うよ。そういえば、今度孤児奴隷を新しく何人も面倒見るんでしょ?」


「何人くらいになるかわからないけれどな。今のところ、五、六人くらい考えてる。明日から、ベルガーさんといって魔法陣技師の人がうちに来てマーサがいろいろなことをその人に教えていくんだけれど、ついでだから頭の良さそうな子で学問に意欲のある子を集めて教育しようと思っているんだ。将来的には付属校、セントラル大学に進ませようとも思っている」


「ショウタさんはほんとにすごいよね。思いついたことはすぐにやっちゃうし、そのどれもが誰かのためだもんね」


「まあな。あたらしい子たちが来たら仲良くしてやってくれよ。ラッティーがお姉さんになるんだからな」


「わたしがお姉さんに。えへ、えへへへへ」


「そういう訳だ。それとな、将来ラッティーがアトレアに戻った時にその子たちの中から数名ラッティーにつけてやるつもりなんだ。気心の知れた優秀な人材がいた方がいいだろ?」


「そこまで考えてくれてるんだ」


「ちょっと思い付いただけだけど、なかなかだろ」


「ショウタさんほんとにありがとう」


「マスターも、私もラッティーのことは家族と思っているんだから当然ラッティーのためになりそうなことなら何でもするつもりだ」


「アスカさんも本当にありがとう」


「おっ! あそこの店が開いているから中に入って見るか?」


「そうですね。私はケーキを食べますが、昼前ですから軽くお茶でも飲んで休憩しましょう」


「そこは自由にしてくれ」





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