第416話 なんでもMONちゃん3、ワイバーン誕生


 週が明けまで結局対魔術師訓練と称した訓練を五日間みっちりおこなって、俺にも十分な自信が備わった。


 最後には、ミニマップを併用しつつ自分の立ち位置を考え、エアカッター3波、ファイヤーボール3個が乱れ飛ぶ中を華麗に躱していくことができるようなっていた。もちろん俺のステータスのおかげなのだろうが、自分でもこれには驚いた。


 杖術の練習はほとんど行っていないが、これほど回避がうまくなっている以上、その他の能力も当然上っているはずで、気分はコダマ流杖術、免許皆伝である。誰に伝えてもらったわけでもないので、皆伝ではなく創始となるのか?


『逃げの杖術、コダマ流!』


 ちょっとカッコ悪いかもしれないが、案外ニーズはあるかもしれない。近所の悪ガキを集めて道場でも開けば当たるかもしれないぞ。




 今日は先日の約束通り冒険者ギルドにワイバーンを届けに出向いて行った。


 いつものように冒険者ギルドの出入り口の脇に立っていたスミスさんと連れだって向かったギルドの裏手には、臨時の作業場が設けられ多くの作業員たちが待っていた。


「それじゃあ、ここらへんにお願いします」


 スミスさんの指示に従って、ワイバーンを作業場の横に並べていく。


 作業員たちから前回同様、何とも言えないようなどよめきが起こってきたが、知らぬ顔をしてワイバーンを並べてやった。



「ショウタさん。魔石の価格については、査定さていの結果1個当たり大金貨12枚となりましたので、総額は大金貨3602枚となりました。本日中にショウタさんの商業ギルドの口座に全額振り込まれます」


「ありがとうございます。また何かあればよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 そう言って俺とアスカは冒険者ギルドを後にした。



「マスター。ワイバーンのヒナがかえっているかもしれませんので、せっかくですからこのまま『なんでもMONちゃん』にいってみませんか?」


「おお、そうだったな。生まれてたらいいなー」


「魔石も十分じゅうぶんでしたからかえっている可能性は高そうです」




 そしてやって来た『なんでもMONちゃん』。


 店の扉は当然開いているのだが、いつきてもお客もいなければ店主のベレットさんも店先にいないので、いちおう、


「ごめんくださーい」


 などと、店の中に入ってペレットさんを呼んでみた。


『はーい、今いきまーす』


 店の奥の方から声がして、パタパタと音を立てながらペレットさんが走って店先まで戻ってきた。


「これはショウタさんとアスカさん、じゃなくて、コダマ伯爵さまとエンダー子爵さま」


「よしてください。今まで通りショウタでお願いします」「アスカで」


「それで、今日はワイバーンの卵がどうなったかと気になって立ち寄ったんですが、どうです?」


「ちょうど、先ほど殻にヒビが入りました。まだしばらくかかりそうですが、こちらにどうぞ」



 お店の奥に案内される途中、小型のモンスターたちがケージに入って昼寝をしたり、大き目のケージの中で運動のためか歩き回ったりして、楽しそうにしていた。


 何だかみんなかわいく見えてしまうのだが、うちのシローの方がもっとかわいいし、ブラッキーとホワイティーの方がすごいんだぞー、などと一人でぶつぶつ言いながら、奥まで進んでいった。


 進んだ先は、一応の店舗の先のプライベートエリア的な場所のようだ。


「ここは、用品置き場にしている場所ですが、ワイバーンの卵はこの部屋のすみに置いています」


 先週見た木箱が部屋の隅の台の上に置いてあった。


 上から覗くと、あの卵が箱の中の厚手の布の上の真ん中に置いてあり、確かにヒビが入って今も中からカチカチと殻を突っついている音がする。ヒビの隙間からは何だか黒っぽいものが見えるのだが、はっきりとは見えない。


 ボーリングの球ほどもある卵だけあって、かなり殻が硬いようだ。見ていてもなかなかヒビが大きくなってくれない。


「魔力を俺が追加でやったらダメかな?」


「ダメではないでしょうが、そうすると、マスターがこのヒナに親認定されるかもしれません」


「確かにそれはマズいな。ペレットさんが親にならないとマズいから俺は後ろに下がってないと」


「このヒナならテイムできそうですから、そこは気にしなくてもいいですよ」


「それなら、じっくり見させてもらいます」


 ワイバーンのヒナというのか仔というのか分からないが、卵の中でしきりに頭だか鼻先だかを殻に打ちつけているのだが、殻は硬くて厚いし、ぶつけている物が鳥などと違ってくちばしではないため、遅々として殻が破れない。


「手助けしちゃダメかな?」


「ここで、一生懸命苦労して生れ出ることで強くなるのだと思いますから、手助けはしない方がいいのではないでしょうか?」


「やきもきするな」


「それでも少しずつ亀裂は大きくなってきています」


 アスカはそういうが、俺には全く変化が感じられない。


「あっ! 今からお茶の用意をいたしますから。それと椅子もご用意します」


『お構いなく』とベレットさん言おうとしたら、その前にベレットさんは急いで部屋を出ていった。『お構いなく』と言って『そうですか、それでは』とはならないので、意味はないな。


 パタパタと小走りにベレットさんが駆けていく音がしたが、この店の奥行きはかなりあるようだ。


 卵を眺めていたら、ベレットさんが椅子を二つウンウン言いながら持ってきてくれた。


 これはマズい。ベレットさんにえらい迷惑をかけてしまった。


「ベレットさん、申し訳ありません。俺たちは立っていても全然疲れないので、椅子にはベレットさんが座っていてください」


「それでは、お茶を今からお持ちします」


 そう言ってまた部屋を出ていこうとしたので、


「お茶も今は結構ですので、椅子に座っていてください」


「でも、……」


「本当に大丈夫ですから」


 なんとか、ベレットさんを椅子に座らせて落ち着いてもらった。


 コン、ココン、ペリ、ペリ。


 話をしているうちに、卵のヒビが一気に大きくなって、隙間から中のワイバーンのヒナの頭が見えた。濃い鼠色で、シワシワの頭だ。目はまだ見えないようで閉じているようだ。


 頭を隙間から出したヒナが、目が見えないにもかかわらず、口で殻をかみ砕き始めた。これはかなり効率がいいようで、隙間がすぐに大きくなり、ころりと卵が転がった拍子にヒナが殻の中から這い出てきた。


 ワイバーンのヒナは頭から尻尾までぬるりとした濡れネズミ状態。長い首とコウモリのような翼が特徴的だが、皮膚がシワシワだし、あまりかわいいとは思えなかった。


「うわー、かわいいー」


 ベレットさんが大きな声を出したものだから、ワイバーンのヒナがビックリしたようで急に首を丸めて小さくなってしまった。


「ごめんね。

 それじゃあ、テイムしちゃいます。

 『わが名はベレット、われの求めに応じ我の従魔となれ』」


 右手をワイバーンのヒナにかざしたベレットさんが最後の言葉をつむぐと同時にヒナの体が薄く青く光った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る