第323話 ダンジョン実習3


 俺の場合、日常生活では魔力は垂れ流し状態だ。非常にもったいないので、ここに来た時くらいは、


「コア、俺の魔力を前回と同じく3000ほど持っていってくれるかい? それで、コアルームの前の守護者だかを強そうなのに代えておいてくれ」


『了解しました。マスターの魔力3000を吸収し、DPダンジョンポイント3万増加しました。マスター、今後ともよろしくお願いいたします。DP1万5千を使い、アダマンタイト・ゴーレム一体を製作します。製作時間は1時間です』


 ここにやって来た時はコアにDPをこれからも分けてやることにしよう。


「ところでアスカ、アダマンタイト・ゴーレムは結構強いのか?」


「まあ、そこそこ強いかもしれませんが、そこそこどまりでしょう」


 アスカに聞いた俺がバカだった。




 コアへの指示も終わり、先に出口に向かったペラたちを追いかけて、ダンジョン内をアスカと駆けていくとすぐに生徒たちに追いついた。生徒たちは、帰り道ではあるが気を抜かず、ちゃんとあたりを警戒しながら進んでおり、一応後方から近づく俺たちの足音にも警戒していたようだ。まさに、ペラの生徒たちに対する指導がよろしきを得たということなのだろう。感心してしまった。



 俺とアスカは全員が『鉄の迷宮』から出たあと、最後に黒い渦の中に入った。



 迷宮から出た生徒たちは、学校前で簡単な整理体操をした後解散し、自分たちの部屋に帰っていった。すぐに昼食なので、部屋に戻って装備をいったん外して、食堂にやってくるわけだ。整理体操はペラが考えたものらしい。意外といってはペラに失礼だが、マメによくやっている。


 俺は生徒たちが食堂にやってくる前に、ペラを呼んで、冒険者ギルドとのゴーレム関連の価格の取り決めを教えておいた。昼食を食べながらでも、ペラの口から教えてやってくれと言っている。


 半日にも満たない実戦訓練だったのにもかかわらず、各パーティー5体ずつ、計15体のヘマタイトゴーレムを狩ったようだ。ペラに昨日雑貨屋で買った帳簿と筆記用具、それに商業ギルドで両替した金貨が200枚入った布袋を渡しておいた。アスカであれペラであれ、帳簿などなくても数字は全て記憶できそうだが、帳簿づけは生徒たちの確認のための作業になるわけだ。


 今日は実戦訓練初日だったし、やはり帳簿の中のお金より実際に受け取った方がモチベも上がるだろうと、俺の方から別途、三パーティーで分けられるように15体分、小金貨5枚×15で小金貨75枚分、金貨6枚と小金貨15枚を食事が終わったら生徒たち各パーティーに配ってやるようペラに渡しておいた。


 各自に持たせた魔石については、生徒たちがどこかに持っていって換金してもいいし、うちで買い取ってもいいとペラに指示しておいた。うちで買い取った場合の価格は、一個当たり小金貨5枚である。


 キルンの迷宮や、ヤシマダンジョンの1、2層で鉱石を掘って細々と生計を立ることを比べると格段の収益性である。



 俺とアスカは、またいつものように一階の空いた部屋ものおきで、適当に昼食をとればいいかと思っていたのだが、今日俺たちがここに来ることは分かっていたので、ペラが気を利かせて厨房のヒギンスさんたちに頼んで俺たちの昼食も食堂に用意しているということだった。


 食堂に入ると、四人掛けのテーブルを三個くっつけたのもが二列に並んでいて、前の方の二個分二列に生徒たちが各パーティーごとに座っている感じで、ペラは一人で四人席に座っていた。ペラのいるテーブルの上に三人分の食事が並んでいたので、俺たちの席はそこなのだろう。


「みんな揃ったので、それでは、いただきます」


「いただきます」


 ペラの『いただきます』でみんなが食事を始める。


 全員がそろって食事を始めているが、「ごちそうさま」の時間は、パーティーごとにしている。食事を終えた食器などは、各パーティーから当番を一名ずつ出させ、その当番が自分のパーティーの食器を洗って片付けるようにしている。


「食事が終わったら、今日のおまえたちの報酬を現金で渡すから各パーティーの代表は私の部屋まで取りに来るように。ヘマタイトゴーレム1体あたりギルドの買取価格は魔石抜きで小金貨で5枚だ」


 ここで、生徒達からどよめきが起きた。


「各パーティーともたおしたゴーレムが5体ずつ、ということで、3パーティーそろって、小金貨25枚、金貨2枚と小金貨5枚を渡す」


 こんどは、ゴクリとつばを飲み込む音。


「今日各自が魔石を持ち帰ったわけだが、魔石については、各々おのおので好きなところで売却してもいいし、ここで買い取ることもできる。ちなみに、ここでの買取価格はギルドと同じく小金貨5枚になる」


 食堂が、物音ひとつしなくなってしまった。


 半日の実戦訓練と半日の基礎および連携訓練が、これからしばらく続いていく予定だが、相当生徒たちのふところも温かくなるだろう。冒険者の中堅どころがどの程度稼ぐのかは知らないが、おそらくいっぱしの冒険者並みの稼ぎにはなると思う。


「現金を実戦訓練のたびに渡すのは面倒なので、現金を渡すのは今日だけのサービスだ。明日以降については、帳簿に記載しておいて後日現金を渡す。受け渡しの現金については、小金貨がここにはないので、金貨単位となる。端数は帳簿に書いておくから心配するな。

 なお、今後、ギルドでゴーレムの残骸を運搬することになるが、運搬料はゴーレム2体分で小金貨1枚になった。今日は、コダマ子爵閣下が直接収納し、後日ギルドへ運んでくれるそうなので運搬料は無料になる。1時20分ころ各パーティーのリーダーは私の部屋に取りに来てくれ」


 ほう、リーダーまで決めていたのか。リーダーについては俺からは何も言っていなかったが、いたほうがいいものな。


「マスター、生徒たちに何かありますか?」


「みんなが予想以上のできだったことに正直驚いた。それくらいしか言うことはないな」


「ありがとうございます」


「アスカさんからは何かありますか?」


「確かに全員いい動きをしていた。が、慢心まんしんすることなくあと一月半あまり、力と技を磨いてくれ」


「はい!」


 ここでみんなの気合の入った返事があった。ペラやアスカが生徒たちに何か言うと誰かの時と違って、みんなちゃんと返事をするんだなー。


 何だか最近疎外感そがいかんを味わうことが多くなってきたような気がする。この前は空の上だったし、今日は冒険者学校だ。


 よーく考えると俺の味方はフーしかいないのか?


 イカン、イカン。フーを頼るようになってはおしまいだ。



 食事も終わり、俺たちも食器を厨房に片付けに行こうとしたら、生徒たちが後はやってくれると言ってくれた。近頃の若いものは、親御おやごさんの教育のおかげか、ペラの教育のおかげかは分からないが、実にちゃんとしている。


「ありがとう」「ありがとう」


「どういたしまして」


 どこかで見たことあるだと思ったら、以前俺に、何か参考になるようなことをしてくれと言ってきたので、八角棒を持たせただった。俺のファンになっていたんだな、と思ってよくよくそのの顔を見ると、目線はアスカに向いていた。俺とアスカは一心同体だからいいんだよ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る