第57話 馬車と馬車馬購入


 そして、翌日。


 いつものようにアスカを伴い、訪れたのは商業ギルド。 


「おはようございます」「ございます」


 そこは、略しちゃダメでしょ。身内じゃないんだから。


 まずは受付で、二人並んだ女性たちに挨拶あいさつ


「おはようございます。ショウタさま、アスカさま。今日はどういったご用件ですか?」


 近かった左側の女性が答えてくれた。隣の女性は会釈えしゃくしてくれた。


「馬車とそれを引く馬が手配できないかと思いまして相談に来たんですが」


「馬車と馬を購入なさりたいということですね。かしこまりました。担当の者を呼びますので、こちらでしばらくお待ちください」


 例のごとく、二階の応接室に案内されてしばらく待っていると、リストさんと台帳のようなものを持ったカーラさんが入って来た。やはり担当の人はリストさんらしい。


「おはようございます。リストさんとカーラさん」「おはようございます」


「「おはようございます。ショウタさま、アスカさま」」


「今日は、馬車と馬を購入されたいということでしたが、どの程度の物をお考えですか?」


御者ぎょしゃを除いて六人くらい乗れる幌馬車ほろばしゃと、それをく馬を考えてます。馬車は新品でも中古でも構いません」


「なるほど、なるほど。新品は基本的に受注生産になりますから、納期が三週間ほどになります。中古ですと物があれば即日受渡し可能です」


「なるべくなら、早く欲しいので、中古でお願いできますか?」


「なるほど、なるほど。カーラさん、うちにある幌馬車で、今うかがった大きさのものが何台か予備がありましたよね」


「はい。この台帳を見ますと、六人乗りの幌馬車が一台、八人乗りが二台、予備として車庫に置いてあるようです」


「ショウタさん、八人乗りで良ければ、今日にもお譲りできますが」


「ありがとうございます。それでしたら、その八人乗りをお願いします。それですと、馬は何頭必要になるんですか?」


「ご購入ありがとうございます。馬は二頭必要になります。ギルドでも予備の馬はいませんし、相性などもございますから、ご自身で購入していただくのがよろしいかと思います。

 北門にある、駅馬車の駅の裏側に、馬車用の馬を扱っている牧場がありますので、その牧場主にこの紹介状をお渡しください。オーガスという名の方です。良い馬が購入できると思いますよ」


 リストさん準備良すぎ。リアルで『こんなこともあろうかと、……』。聞きたかった。


 受け取った紹介状は無くさないようすぐに収納しておいた。


「それでは、八人乗りの中古の幌馬車の代金ですが、予備の車輪一つをお付けして、金貨八枚になります」


「それでは、これから実物を確認していただき、問題がないようなら、代金と現物および確認書の交換になります。カーラさん、ショウタさん達を車庫にお連れして下さい」


「はい。それではこちらに」




 連れられてきたのは、ギルド裏手の物流庫ぶつりゅうこの立ち並ぶ一角。そこらへんを荷馬車がガラガラ音を立てて、ひっきりなしに出入りしている。整備場らしきところでは、車輪を取り外した荷馬車を台の上に載せ何かの作業をしていいて、いたるところで掛け声や呼び声が聞こえ実に活気がある。


 さすがは、キルンの流通を一手にになっている商業ギルドだ。感心して見ていると、倉庫の一つにカーラさんが入っていった。


「こちらの幌馬車が、今回ご提供する幌馬車です。未使用なので、中古と言っても新品と変わらないと思います。定期的に点検も行っていますから、今からでもご使用できます。いかがですか?」


「こんな立派な馬車を譲っていただいてよろしいんですか?」


「代金はいただきますから、気にされる必要はございません。

 ではこの馬車をご購入ということで、あらためて代金は金貨八枚でございます」


 代金と交換に確認書をもらった。


 馬もまだなので、しばらくここに置いてもらおうかと思ったけれど、もういいや。


「それじゃあ収納しちゃいます」


「お買い上げありがとうございました」


 口元がひくついてるけど、ちゃんとお礼を言ってくれた。キルンで働く人はさすがな人が多いな。もちろんうちのアスカが一番ですよ。 




 そして訪れたのは、北門近くの牧場。


「いやー、あんたらがうわさのショタアスだろ? 遠くからえらい勢いで走ってくるのが見えたんで、急いで見物に出てきたんだ。いやー実物は違うねー。こっちにきたってことは、俺に何か用か?」


 何がどう違うのかわからないが、どうやらこのおっさんが牧場主らしい。


「えーと、そちらはこの牧場の牧場主さんのオーガスさんですか?」


 ショタアスについては無視した。


「ああ、言い忘れたが俺がこの牧場をやってる、オーガスだ」


「私は、Bランク冒険者のショウタと申します。」「同じくアスカです」


「言葉が丁寧だな。聞いてた通りだ」


「今日は、馬車馬を二頭購入しようと、商業ギルドのリストさんに紹介していただいて、ここにうかがったんですが」


「リストさんからか。そいつは無碍むげにできねーな」


「これが紹介状になります」


「どれどれ、ふーむ。お前さん達、ずいぶんリストさんに気に入られてるようだな。なになに、八人用の幌馬車か、それじゃ少し馬体のいい馬じゃねーとな。おーい、四番厩舎きゅうしゃに栗毛が二頭いたろ、うちで一番馬体のいい奴らだ。二頭とも連れてきてくれ。なんだって、いま馬場ばばに出てるって? いいからここに連れてこい」


 何だか落語聞いてるみたいだ。


 しばらくして小柄な厩務員きゅうむいんの人に引かれて、二頭の馬が歩いてきた。でかいよ。思った以上にでかい。


「どうでー、立派なもんだろ。うちにいる売りもんの馬車馬の中で、こいつらが一番でかくて強い」


「どうだい、アスカ?」


「馬は賢い動物なので、問題なくぎょせると思います」


 片方の馬の首を撫でながらの心強いお言葉。ここで、二頭の馬がブルブルと体を震わせた。これ、おびえてないか?


「アスカも気に入ってるようなので、そちらの二頭を譲ってください」


「リストさんの紹介だからまけてやりたいのはやまやまだが、うちの一番手と二番手だからな、今回は勘弁してくれ。それで、二頭で大金貨三枚でどうだ?」


「分かりました。その代り、迎えに来るまで四、五日面倒見ていてもらえませんか? それと当面の飼葉かいばなんかも迎えに来た時にでも譲ってください」


「それくらいなら構わないぜ。……、大金貨三枚確かに受けとった。しっかし、Bランクくらいに成ると、稼ぐんだなー」


「ほどほどです。それでは馬の面倒やらよろしくお願いします」



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