新しい生活は王都で

28.新生活

 時は流れ、俺とリリシェラは十三歳になり、学舎を卒業して王都で新たな生活を始めることになった。


「兄様、夕食ができました!」

 階下からミューリナの声が聞こえてきた。

 こっちでの生活は、学園の寮に入るか下宿をするという二択だった。だが、ミューリナを一人にするわけにもいかず、当面は兄妹揃って親戚の家で下宿という形で落ち着いた。

 彼女は約束通り、王都のシーノア学園幼年部に一年だけ通うことになっている……。学校はひとりだけ別になる訳で……ストレス溜めて爆発しないといいなとは思っている。爆発するときの被害者は、どうせ俺なんだろうからさ。


「ほら、早くしないと冷めちゃうよ!」

 リリシェラの声が響く。

 誰がどこでどう手を回したのやら。いつの間にかリリシェラまでもが同じ下宿先でお世話になることになっていた。

 実際に誰が動いた結果なのか気になったので、リリシェラに尋ねてみたのだが……。

 急に態度が怪しくなり、視線が宙を泳ぎだす始末。犯人は決まりである。俺としても、離れて生活するよりは近くに居てくれた方が嬉しいので、非難するつもりは毛頭ないのだが。


 そして明日からは国立のシーノア学園に通う事になっている。

 共に行く事になったのは、学舎の仲間十数名。その中には、リリシェラだけでなく、エミララとカイルードの双子も含まれている。俺とリリシェラが行くという話を聞いたエミララが行動を起こした結果だ。見知った人々が近くに居るというのは有難いのだが……。

 王都に着いてある出来事が有った。



 俺たちは年齢的に言えば中学一年生。中身が高校生だった俺やリリシェラ、ミューリナは別として、本来であれば親元を離れるのにはまだ若干の不安がある年頃のはず。だが、地元を発つ時のエミララとカイルードは他の面々と比べ、やけに堂々として見えた。親の仕事の都合で各地を転々とした経緯があるからだろうか。と思っていたのだが、その理由を俺たちはすぐに知ることになる。


 王都に着いた直後、目飛び込んできたのは俺たちの住んでいた場所とは全く異なる多くの建造物と大きな居住区だった。

「さすが王都だねえ」

 リリシェラが感嘆したように声を漏らした。

 遠くに見える城も立派で、俺も映画で目にしたような中世の都というのはこんな感じだったのかと思い、感慨深く見ていた。リリシェラも隣で興味深そうに周囲を見回していたし、ミューリナもまんざらでもない表情だった。

 そんな時。


『渋谷どころか地方都市以下かぁ』


 そうそう。……って!

 聞こえてきた日本語に思わず同意するように首を振ってしまったが、俺は慌ててリリシェラの顔を見た。

 彼女も驚いたようで、自分じゃないとばかりに首を横に振る。続けて二人でミューリナの顔を見たが彼女は黙って首を振り、小さく隠すようにエミララを指さした。


 エミララも?


 今まで知らなかった意外な事実。さりげなくカイルードを見たが、彼は馬車酔いが酷く途中から寝ており、今も全く反応が無く動く様子も無い。

 問題はここからだった。いや、エミララの事も十分に問題なのだが……。


「どうする?」目でリリシェラに尋ねる。

 俺の腕を掴んで耳元でささやくように小さな声で答えが返ってきた。

「どうもこうも。彼女に聞くってことは、こっちの事情も話すってことだよ?」

 正論だ。特に俺とリリシェラの前世の話なんかはあまりオープンにしたくない。兄妹だったと知られるのは色々と面倒だ……。

「む!」

 その行動を何かと勘違いしたのか、ミューリナが俺の反対の腕を掴んで、自分の胸元に引き寄せる。

「いや、まだ……話は」

 今度はリリシェラに腕に抱き付かれ、引き寄せられた。


 むに。


 リリシェラの膨らみかけた胸がちょうど腕にあたる。腕から伝わってくるミューリナのまな板とは違う、いけない感触。

 意識してしまった瞬間、俺の息子さんが反応してしまった。


 マズイマズイ!


 必死に隠そうとしたのが逆に怪しかったのか、リリシェラに感付かれた。流石は血を分けた元妹である。俺の顔を見ていたその視線は下へ下へと行き、そして股間に。彼女は何かを見つけたと言わんばかりにニヤリと笑い、再び俺の顔を見てさらに胸を押し付けた。

 まだ大人用の女性物下着をつけている訳ではないので、その感触はかなりダイレクトである。


「ほれほれ、どっちがいい?」

 分かってて聞く小悪魔。

「二人ともやめてくれ、みんなが見てる」

「どうしようかなー」

 最終的には二人とも離れてくれたので良かったが……。

 元妹だと思いつつも、半分以上は異性として意識しているだけに、俺の理性も吹っ飛ぶ寸前だった。


「ふふ……」

 三人の騒ぎを見て妖しく笑うエミララ。

 結局この騒ぎのおかげで、エミララに事情を聞くという話もうやむやになってしまった。

 先が思いやられる新生活のスタートである。

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