18.双子がやってきた

 夏を迎える頃、我が家の裏にあった空き家に誰かが引っ越してきた。


 挨拶だろうか、我が家にその住人が顔を出していったが、ちらりと見た限りはウチの両親と大差の無い年齢の夫婦だな、という印象だった。

 その後ろから、俺と同年代といった感じの子供二人が顔を覗かせる。

 少々気になったので、ミューリナを伴って応対している母親の背後に立って、様子を伺うことにした。


 話を聞くに、どうやら二人の子供は俺と同い年の双子の男女らしい。親子ともども、金髪で顔立ちの整った、言うなれば美男美女家族。娘はやや目つきがキツいが、俺のストライクーゾーンにはバッチリ入っている。

「兄様、鼻の下がのびています」

 ミューリナは背伸びをして耳元でささやくと、俺の尻をつねった。

「んぐっ!」

 思わず、うなるように声を上げてしまったので、皆の注目を集めてしまった。

「ふふっ……」

 双子の娘の方が微かに笑い声を漏らした。その笑顔に思わず負けそうになる。

「ユーキアです。よろしく……」

 俺の尻をつねる手に力が入る。

「ぃって……で、妹のミューリナ」

 怖いから顔は見ないが、どうせ営業スマイルでも向けているんだろう。俺の尻をつねったままで。

「私はエミララ、こっちが弟のカイルード。よろしくね」

 紹介され、男の方も軽く頭を下げる。一見するに、悪い奴ではなさそうだ。興味津々にミューリナを見ているのが少々気になるが、本人も気にしていないようなのでまあ許そう。


 そんなやりとりをしていると。

「こんにちはー」

 面倒事を増やしそうな奴が現れた。

「あら、リリシェラちゃん、いらっしゃい」

 母親が来訪者に笑顔を向ける。

「すみません。お取り込み中」

 気遣いするようなオトナっぽい台詞は、色々バレそうで危険だからやめてほしい。というか、そんな気遣いするくらいなら、このタイミングで混ざろうと思うなよ。


「この娘はお隣のリリシェラちゃん。可愛いでしょ? ウチの娘みたいなものよ」

 母親の紹介に若干照れつつも、頭を下げて来客に笑顔を振りまく。昔からそういう外面はいいんだよな。だが、その笑顔の裏で考えている事は、兄だった俺でも良く分からない。


「彼、リリシェラ姉様をガン見してますよ……」

 再びミューリナの声が耳元で聞こえた。若干、吐息がかかり、耳がくすぐったい。これを可愛い子がやるもんだから、ちょっとイケナイ気分になりそうで怖い。

 見ると、ミューリナの言葉通り、確かに弟の方はリリシェラを見て鼻の下を伸ばしている。まあ、誰が見ても彼女は美少女なんだから仕方ないところではある。が、元兄としては、少々気分が悪い。

 いや……、俺が彼の姉に対して鼻の下を伸ばしていた事を、棚に上げるつもりはない。従って、俺が実妹ですらないリリシェラについて、彼に何かを言う権利も無いだろう。とはいえ、そのままにしたくないので、視線に割って入るような位置に何気ない素振りで移動して遮った。俺、大人気ないな。


 そうこうするうちに子供の話も一段落し、親同士の会話に戻ったところで、俺はリリシェラに視線を移す。彼女が双子の姉に送る視線は、あまり褒められたものではないような、厳しいものに見える。

「ところで、何しに来たんだ?」

 俺の言葉に彼女は少し驚いたような反応をし、一瞬視線を合わせたが、すぐに顔を背けた。

「ユーキアに用事があって来た訳じゃないんだからねっ! ミューリナちゃんと話がしたかったの!」

 小声だが機嫌が悪そうな雰囲気に、あまり触れてはいけないのだろうか、という気になる。彼女はその言葉通り、ミューリナを連れてさっさと家の中へと入っていった。


 残念そうに二人の後姿を視線で追う弟の方は気にせず、俺は姉の方に視線を送る。彼女は笑顔で俺の視線に応えると、こっそりと手を振ってみせた。キツめの顔も笑うと、やっぱり美少女だ。幼馴染はというには年齢的にギリギリかもしれないが、せっかく出来た縁だけに大事にしたい。

 どうやら、双子も学舎に通うらしいので、話す機会があれば、仲良くなれるかもしれない訳だし。

 実のところ、あの嵐の夜以降、リリシェラとミューリナのマークがきつくなって、可愛い女の子ゲットどころか、女の子と会話をする機会さえも削られている気がする。悲しいかな、ここ数日、リリシェラとミューリナ以外の女の子と話していないのだ。

 監視の目をかいくぐって、女のもとに行くのも、男のロマンというやつか。そう考えると、ちょっと燃えてきた。


 双子の姉エミララと視線が合ったとき、俺はふと思った。

 同じ日に死に同じ日に生まれた俺とリリシェラだが、何かが少し違っていれば、彼らのように双子に生まれていたかもしれない。そうやって再び兄妹として生まれてきていれば、家族として一緒に生活し、違和感を抱かずにいられただろう。その方が幸せだったろうか。

 そう考えた時、なぜか俺の胸にモヤモヤしたものが残った。

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