a38 禁じられた遊び
時刻通りにホームに到着した電車に乗ると、車内は静まり返っていた。つり革が揺れる電車の車内は冷房が利いているはずなのにことさら熱苦しく感じる。
座った席が電車の四人対面のボックスシートではなく、入り口ドア近くの二人ほどが座れるロングシートになったのは自然の成り行きだった。まるで連行されるように女子四人プラス妹一人の無言の圧力によって集う場所を指定された哀れな囚人。
「階段下の収納スペースに女の子と二人で閉じこもってたってどういう事なの?」
いつもダブルベッドで一緒に眠っているシオリが訊いてくる。
「みんな、そんな記憶ある?」
シオリが他の三人に訊ねると残りの幼馴染み三人全員も首を振る。それを確認すると詩織は一人だけ座席の前で立たされている百色に目を向けた。
「ここで吐いて。洗いざらい全部」
詩織の据わった目が怖い。睨む視線は間違いなく笑っていない。
「……保育園の……年長の時だったと思う」
背後から差し込んでくる帰りの西日の陽射しに背中を当てられながら百色は俯いて口を開く。
「保育園の年長……てことは、五歳ぐらい?」
「そう。……だと思う。たしか小学校に上がる前の年だった。その時にその子と会ったんだ」
「誰?」
目の前の席に座る詩織の視線から目を背けて、更に背後のロングシートへと振り返ると、他の幼馴染み達も百色を問い詰めるような不安気な視線で見つめている。
「……シオちゃんたちの……知らない子だよ……」
たぶん知らないだろう。百色は保育園の年長に上がると同時に詩織たちとは別の保育園に転園したのだ。理由はよく憶えていない。たしかやはり詩織が関わっていたような記憶があるが、今の百色がよりはっきりと強く覚えているのは目の前の詩織たちとの思い出よりも、その件の女子との思い出のほうだった。
「同じ
些細なことがきっかけでエスカレートしていったのだと思う。特に百色は女子の身体に触れることには慣れていた。異性との肌と肌が触れ合うことに拒否感が無かったのだ。
自分の股についてるモノが無いカラダの子と裸同士でいる事に、何も抵抗を感じることがなかった。それが普通なのだと思っていた……。
だから、詩織たちと同じようにその子にも接してしまった。裸で一緒にお風呂に入り、昼寝の時間に布団の中で一緒に眠った時には服と服とを触り合いながら瞼を閉じた。
百色の母親がその子の母親と談笑に夢中になっている時には空気を読んでその子と二人でママゴトだってした。お医者さんゴッコだってしたかもしれない。
そして一番やってはいけなかったのは……結婚式ごっこだった
ママゴトだけでは飽き足らず。お医者さんごっこでも飽き足らず。鬼ごっこでもかくれんぼでも二人の幼い身体の違いの距離の隙間を埋める事が出来なくなっていた。
〝こんどはなにする?〟
〝結婚式ごっこまだやってないよね〟
幼い男女は結婚なる響きに永遠を感じた。まだよく分からない〝愛〟という物を誓い合う儀式。幼児の女児は男児が触れたいと思うほど憧れながら笑った。それが決定打だった。指に填める結婚指輪を選ぶ。ドレスらしいものを着る。それらしいセリフを考える。
指環はありきたりだったかもしれない輪ゴムかなにかだったような気がする。ドレスもいつもより余所行きっぽい服を着ていた時で満足した。
そして、その時までに考えていた『誓いのセリフ』と……、
誓いの
親たちから隠れた場所で始まった……幼児たちの何気ない
遊びで終わる筈の唇の感触は、いつの間にか互いの歯の感触に変わり、瞬く間に舌の感触や動きまで確認し合う様になったのは無垢な子供としては自然の成り行きだったように思う。
その過程で知った……唾と
昼寝の時間に、互いの服を脱ぎだすようになったのは、それから間もなくの頃だった。布団の時間に、親たちが昼寝だと思って安心して離れた裏側で、幼児たちは相手の体の違いを手で触れて確認し合った。股と股を見ながら、結婚式ごっこの続きをし、ママゴトの一歩手前の母親たちがいつも隠す大人の営みを『それとは意識せず』に模倣してしまったのだ。
気付いた時には……男児と女児は……大人の目を盗んでは夜の大人の真似事をするようになっていた。
「……キスを……したの……?」
次々と吐き出される思い出を突きつけられながら、呆然とした目で詩織は百色に訊いた……。
その言葉に百色は頷く。
「……ディープキスも……?」
百色は頷く。詩織たちはこの事実に愕然とする。
自分たち四人の幼馴染みの知らない間に、自分たちの知らない経験を済ませていた男の浮気。
「……ま、まさかCまで?」
「Cはしてないっ!」
即座に否定する今の百色を、一体誰が信用するだろう。周囲の女子たちは既に、疑いの視線で百色を見ていた。
「だったら、どこまでヤったのよッ!」
詰問してくる、目の色が変わった幼馴染みたちの嫉妬の色。
「……ビ、Bまで……だよ」
諦めて、大人しく洗いざらいを告白する。項垂れた視線で詩織たちを見た。
「その子の乳首を……舐めたの?」
百色は頷く。
「ほ、保育園児の裸同士でおっぱいも吸ったの?」
百色は頷く。
「ま、股も舐めて……?」
それには慎重によく思い出してから首を振った。
「おっぱいとディープキス……だけ……?」
百色は頷く。
「じゃあ、わたしたちとも今夜はBをっ」
「それはしないっ!」
「なんでよッ?」
「おれはもう……Bじゃ終われない……っ」
少年は既にCの方法を知っている。もう無知な『あの頃』とは違うのだ。
「お前たちとAをすれば……、おれはもう
少年は既にR15を経験していたから……。
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