第175話 ダルケネス族
◇◆◇
その後、アルカード家の食堂にて、アラニグラ達は豪華な夕食を振る舞われる事となった。
しかも、一人一人に給仕がつく贅沢振りである。
メイドさん、と呼んで良いものかどうか微妙なところではあるが、アルカード家の家人の女性達にカル達は接待を受けていたのである。
彼女達の対応が上手いのか、あるいはカル達も何らかのストレスが募っていたのか、出された酒がみるみる内に消化されていった。
「いやぁ~、正直舐めてたっすけど、飯も酒もウマイっすねぇ~!帝国の一流どころにも引けを取らないっすよっ!」
「この地は水が良いのですよ、カル様。お口に合ったのならば、良かったですわ。」
「いやいや、カルさぁ~。お前、一流のレストランなんか行った事ねぇ~だろ?変な見栄を張るなよぉ~!」
「ばっ、おまっ、そこは空気読めよ、ルークッ!」
「フフフ、良いではありませんか。我々のお料理が、カル様のお口に合ったと言う事なのですから。・・・それとも、ルーク様は我々のお料理がお気に召しませんでしたか?」
「い、いえいえとんでもないっ!カルの言う事は大袈裟ではありますが、確かに人気の食堂なんかとも引けを取らない品ばかりだと俺も思いますっ!」
「そうですかっ!」ニッコリ
「っ・・・!」///
カルとルークは、若さもあるのか、傷を負ったとは思えない元気さで、実に楽しそうに夕食を楽しんでいる。
一方のお兄さん組のレヴァン達は、カルとルークの様にはしゃいだ感じではないものの、出された料理に舌鼓を打っていた。
「レヴァン、身体は大丈夫なのか?」
「ああ、正直その時の事は良く覚えてないんだが、とりあえずそれぐらいで身体には問題ないよ。」
「うむ、まぁ、多少記憶が混濁しているのだろう。かなり悲惨な事になっていたからなぁ~。」
病み上がりで酒を嗜むのはマズいと思ったのか、レイはそうレヴァンに尋ねたのだが、レヴァンの体調に問題はなさそうだった。
今も、モリモリと夕食を平らげている。
それならばと、レヴァン達も酒を飲む事にしたのである。
正直、カル達の様子から、酒の味が気になっていたのだ。
「大丈夫ですよね、アラニグラさん?」
「あ、ああ。レヴァンは普段と変わらない(と思う)。まぁ、いずれにせよ、栄養を取る事は問題とはならないだろうよ。」
「よっしゃっ!お姉さん、俺らにもお酒を頼むよ。」
「はい、かしこまりました。」
一応、治療を施したアラニグラの意見も聞いた上で、レヴァン達も酒盛りを始める。
アラニグラは、自信がなさげながらも、【
逆に、その状態に戻したからこそ、レヴァンの記憶に混濁が出た訳なのだが、何せ、レヴァンは
けど、まぁ、何かしら大きな事故なんかを経験した者達ならば理解出来るかもしれないが、その場面をよく覚えない、なんて事もよくある話なので、レヴァン達もそこら辺はあまり気にしていなかった様だ。
そういうアラニグラは、酒を嗜んでいなかった。
いや、彼が下戸という訳ではない。
単純に、この後サイファスとの約束があるので、酒を遠慮しているのだった。
アラニグラと一緒に飲めない事を、カル達も少し気にしていた様だが、アラニグラに何か考えがあるのだろうとスルーし、賑やかな時間が流れていったーーー。
・・・
良い感じに酔っぱらったカル達は、疲れもあったのか、夕食の後メイドさん、アルカード家の家人に連れられて部屋へと戻っていった。
それを見届けると、サイファスとアラニグラは、連れ立ってアルカード家を後にする。
「・・・あからさまに酔わそうとしてたな。アイツらに見られるとマズいものでもあんのか?」
「うむ、まぁ、そういう意図もあるが、単純に今日の彼らの功績を称えての事だよ。長老達にも、正式に客人として認められていたし、我々も精一杯のもてなしをしたに過ぎないさ。」
「ふぅ~ん・・・?」
アラニグラは豪華な夕食に裏の意図があったと察するが、サイファスもそれは否定しないまでも、それだけではないと言葉を添える。
まぁ、これはアラニグラにも当てはまる事だが、人には言えない事の一つや二つはあるものだ。
それ故、アラニグラもその話は一旦忘れる事とした。
サイファスの集落は、牧歌的でのどかな農村といった雰囲気である。
木製の外壁に仕切られているとは言え、その中はかなりの広さを誇っていた。
今は夜間という事もあって、外に人々は見掛けないのだが、先程も見た風景ではあるが、昼間は畑で働く者達がそこかしこに存在するのだろう。
その畑を突っ切り、奥の方には色んな家が建ち並んでいた。
長老達がいた建物や、アルカード家ほどではないにしても、かなり大きな建物も存在する。
サイファスの歩みがかすかに緩んだ。
ここが、どうやら目的の場所なのであろう。
「はじめに言っておくが、中は中々衝撃的な光景が広がっている。アラニグラ殿なら大丈夫だとは思うが、一応心の準備をしておいてくれ。」
「お、おう・・・。」
その施設の前で、サイファスは振り向き、アラニグラにそう警告した。
まぁ、確かに“治療して欲しい者達”云々と言っていた訳だから、それなりに傷を負っている人々が中に存在するのだろうが、わざわざ警告までするという事は、かなりヒドい有り様なのだろう。
アラニグラは一旦呼吸を整える。
「スーハー・・・。いいぜ。」
「うむ、では中に入ろう。」
突然だが、
もちろん、古代においても衛生という概念は存在したらしいのだが、あまり重要視されてこなかったのである。
現代の我々からしたら、不衛生であれば健康に害が及ぶ、すなわち我々に悪影響を及ぼす細菌やウイルスが蔓延してしまう恐れがある事を知識として知っているが、古代から中世の、少なくとも一般の人々にはそんな知識がなかったのである。
そして、
もちろん、
例えば、ロンベリダム帝国の首都(帝都)・ツィオーネや、ロマリア王国の首都(王都)・ヘドスなどの都市部は、割と公共インフラが整備されている。
具体的には、水洗トイレが存在したり、公衆浴場が存在したりするのである。
それ故に、アラニグラらもそうした場所で暮らしていた分には、そこまで大変な思いをする事も少なかった。
だが、それは都市部に限定された話である。
一歩都市部の外に出れば、所謂“ボットン便所”なども存在する。
もっとも、この汲み取り式トイレは、堆肥の元となるなど利用価値もあり、農村においては主流となっている形式なのだが、現代的なトイレに慣れた者達にとってはかなり抵抗があったのである。
更には、各家庭にお風呂が存在しないケースもあり、衛生面でかなり問題があったのである。
まぁ、それでも水場などで水浴びをして身体を浄めたりはするのであるが。
しかし、アラニグラら『
また、一般的にも『
そして、それはサイファスの集落も例外ではなかった。
アラニグラがその施設に踏み入れた時、一番最初に感じたのは異臭であり、思わず彼は顔をしかめる。
「うっ、スゲェ臭いだな・・・。」
「ここにいる者達は、しばらく水浴びも出来ない状況なのだよ。」
なるほどと、アラニグラは思った。
まぁもっとも、それでも定期的に衣服を替えたり、身体を拭くなどによって清潔さは保たれるのだが、先程も言及した通り、
また、所謂“看護師”という概念も存在しない。
いや、医者の様な、ライアド教所属の回復魔法使いや、所謂“薬師”という存在はいるのだが、治療行為とは別に、身の回りの世話や看病を担うのは、大抵はその家族などのごく近しい者達なのである。
故に、仮に家族などのごく近しい者達も皆病気や怪我となってしまえば、必然的に看病を担う者達がいなくなってしまうのである。
この場にいるのは、少なくない数の人々だ。
それ故に、色々と手が回らないのだろう。
そう、アラニグラは察した。
まぁ、何せ、回復魔法を使える(と誤解されているだけなのだが)とは言え、人間族で、なおかつ今日知り合ったばかりのアラニグラに頼るくらいだ。
よほど切羽詰まった状態なのだろう。
「うわぁ~・・・。」
改めて、アラニグラは施設の中を見渡した。
簡素なベッドに寝かされた人々がかなりの数確認出来る。
「・・・・・・・・・ん?」
ふと、アラニグラは違和感を感じた。
いや、まぁ、その場は非日常的な空間であるから、違和感しかないだろうが、そうではなく、その場に寝かされた人々の
「・・・なあ、サイファスさん。一つ、聞いてもいいかい?」
「む?何だ?」
「何でこんなところに、
「あ、ああ。その、うむ・・・。」
アラニグラの追及に、サイファスも言葉を言いよどんだ。
そう、その場に寝かされた人々は、サイファスの様に多少青白い顔をしていて、エルフ族ほどではないにしても、多少尖った耳をしてはいる
帝国と関係の悪い獣人族の、それも“
故に、アラニグラは自分でもびっくりするくらい低い声で、サイファスを問いただした。
「まさか、アンタ、この人らを奴隷として扱ってる訳じゃねぇだろうなっ!!!???」
「・・・。」
アラニグラも、別に全面的に人間族の味方という訳ではない。
そもそも、『
しかし、
もし、これが仮に迫害に対する報復であるならば、アラニグラはそれは見過ごせなかったのである。
しばしにらみ合う二人。
と、そこに、弱々しい声が仲裁に入った。
「・・・誤解されるのも仕方ないが、サイファス様を責めんでやって下され、お若いの・・・。」
「っ!?」
「エン爺っ?無理をするなっ!」
そこにいたのは、かなり御高齢の老人だった。
いや、もしかしたら、病気や環境によってそう見えるだけかもしれないが、いずれにせよ、その細い足からは、力強さは皆無であった。
「フォッフォッフォ、お聞きになりましたかな、お若いの。サイファス様のお優しい言葉を。少なくとも、奴隷に掛ける言葉ではありますまい?」
「・・・ああ、それは何となく分かったよ。しかし、それじゃ、一体全体どうしたってこんなところに人間族がいるってんだい?」
「それはですな・・・。サイファス様の口からは言いづらい事もありましょう。それ故、儂の口からご説明申し上げます・・・。」
~~~
結論から言えば、ダルケネス族は所謂“吸血種族”である。
だが、大きく違う点は、別に人間の血を食糧(主食)としていない点だ。
ダルケネス族も、その他の多くの種族と同様に、普通に穀物や野菜、肉などを食べていれば、その生命を維持する事が可能なのであった。
それならば、わざわざ危険を犯してまで他者の血を吸う必要はない様に感じるが、そう上手くいかないのが世の常である。
ダルケネス族は、少なくとも一月に一回、他者の血を吸う必要があるのだ。
そうしないと、(原因は今でも不明なのだが)理性を失い凶暴化し、まさしく獣の様になってしまうと同時に、最悪死に至ってしまう恐れがあるのである。
つまり、ダルケネス族は種族全体の特性として、生来からこの原因不明の疾患を抱えているのである。
当然ながら、これにも実は理由が存在するのだが、それは後々に語るとして、重要なのはこの一点である。
すなわち、ダルケネス族は、その種を存続する為に、食糧ではないものの他者の血を吸う必要があるのである。
しかも、どの種族の血でも良い訳ではない。
何故か、人間族の血でなければ、そうした症状を抑えられないのである。
まぁ、こうした事もあって、ルキウス曰く、ダルケネス族は(他の獣人族も一緒くたに)『悪魔』と呼ばれ、忌避される様になった要因の一つとなっている。
襲われる立場としては、それは至極当然の反応であろう。
もっとも、必要とする血はごく少量、具体的にはコップ一杯分くらいである。
それ故、血を吸われたからといって、吸われた者達がただちに死ぬ事はありえないのである。
仮に
まぁ、それはともかく。
こうした事もあって、ダルケネス族は早々に“
まぁ、人間族の立場からしたら、ダルケネス族を狩り尽くした方が安全とは言えるのだが、サイファスの例にもある通り、ダルケネス族は獣人族の中でも頭一つ抜けた
そもそも、ロンベリダム帝国は、獣人族だけでなく、他の周辺国家群や他民族とも揉めていたので、そこに割ける人員が不足していたという事情もあるのだが。
逆に、ダルケネス族が“
そうした事から、他の獣人族とダルケネス族の関係は悪くなかったのである。
さて、とは言え、ダルケネス族からしたら、追放を受けたとは言え、彼らの抱える問題の為には、どうしても人間族が必要となってくる。
それ故、当初は定期的にカランの街を襲い、人間族の血液を確保していた。
まぁ、本来ならば交渉によってどうにかするのが筋というものなのだが、先程も言及した通り、今現在の
それ故、“血を下さい。”、“いいですよ。”とはならないので、交渉の余地がなかったのである。
まぁ、そんな訳もあって、以前のこの地はかなりキナ臭い、緊張状態が続いていたのであった。
だが、ここで状況が一変する。
先程、サイファスが“エン爺”と呼んでいた人物達の一団が、“
今でこそ、ロンベリダム帝国と周辺国家群は割と安定した関係性を構築しているが、以前のロンベリダム帝国周辺は常に緊張状態にあった。
何故ならば、ロンベリダム帝国がその地盤を固める為に、周辺国家群へと侵略行為を繰り返していたからである。
まぁ、実は他部族が持っていた魔法技術(例えば、カウコネス人の『
強い国を目指すのであれば、当然ながら色々と資源を確保する必要があるのは言うまでもないだろう。
もっとも今現在では、先の『テポルヴァ事変』を受けて、周辺国家群はもちろん、ルキウスも態度を軟化させて、侵略ではなく、貿易によってそれを成す方向にシフトしている。
皮肉な事に、その要因はどちらも『
まぁ、周辺国家群は、そんな
それ故、今はロンベリダム帝国と周辺国家群は、一見平和的で対等な立場を築き上げつつあった。
まぁもっとも、以前にも言及したが、実際にはこれはルキウスの仕掛けた貿易戦争であり、着々と周辺国家群は、ロンベリダム帝国への依存度を高め、属国化への道を突き進んでいる訳であるが。
さて、だが、それは割と最近の話であり、つい数年前まではロンベリダム帝国周辺が緊張状態に包まれていたのは事実である。
で、当然ながら、戦争状態、侵略行為が止んだからといって、ただちに状況が改善する訳ではない。
そうした中で、自分達で仕掛けておいて何だが、当然、ロンベリダム帝国を悩ませる大きな問題が存在していた。
そう、言わずと知れた、戦災孤児や難民の問題である。
戦争や紛争の際には、必ず発生するこれらの人々は、故郷を追われて方々を彷徨い歩く事となる。
上手く、周辺国家群で受け入れて貰えれば良いのだが、もちろん戦火でダメージを受けている周辺国家群に、彼らを受け入れる
極論を言えば、自分達が生きていくのに精一杯だからである。
そうなれば、彼らの行き着く先は、ロンベリダム帝国しかありえない訳だ。
確かにロンベリダム帝国は大国であり強国ではあるが、
こうして、戦災孤児や難民は、ロンベリダム帝国内に流れ込んでしまったのである。
だが、そうなると、治安の悪化が問題となってしまう。
いや、一概に彼らの戦災孤児や難民が悪い訳ではない。
そもそも論を言えば、そうした人々を出してしまった原因はロンベリダム帝国側にある訳で、ある種の自業自得なのである。
戦災孤児、すなわち戦火によって親を失ってしまった子供達は言わずもがな、難民の人々の中には、手に職を持っていない人々も多い。
これは以前にも言及したが、
もちろん、これまでのノウハウや経験はあるので、農地さえ確保出来ればいくらでも働けるのだが、当然、密入国者達に国がそれを融通してくれる筈もない。
故に、彼らが生きる為に始めるのが、他者から奪う事である。
これは、
故郷や仕事を奪われた人々は、生きる為に仕方なく犯罪に手を染めるケースがしばしばある。
これを嫌って、難民を受け入れない国々も多く存在するのである。
ロンベリダム帝国でも、この難民問題が発生していたのである。
いや、以前に『
何せ、戦災孤児や難民は、元々
それ故、汚れ仕事、まぁ、政敵や邪魔者を消し去る道具として、彼らの存在を利用しようとする者達もいたのである。
使い終わったら、簡単に
だが、そうなれば治安の悪化は免れない訳で、ルキウスが実権を握ってからは、敵性貴族の粛清などを通じて、そうした密入国者達の後ろ楯は崩される事となった。
もっとも、ルキウスは合理主義者であり、なおかつ現実主義者でもある。
世の中、光があれば闇もある訳で、どれだけ優れた治世を敷いたとしても、こうした人々や、所謂裏社会の住人達がいなくなる事はない。
それ故、ルキウスは政治的パフォーマンスとして彼らの存在をある程度抑制しつつ(つまり、帝国民に仕事してますよアピールをしつつ)、実際には彼らの存在を黙認、どころか実は自分達の駒として、もちろん
これは、先程の彼らを利用していた者達と、根本的な考え方は同じである。
すなわち、情報収集や汚れ仕事、使い捨ての道具として、彼らを利用しようと考えた訳である。
ルキウスは、彼を心酔する者達も多いが、逆にその革新的な思想から、敵も多い人物だ。
故に、使える手勢はいくらあっても困る事はない。
それに、為政者側の観点から言えば、彼らの一番の敵は実は帝国民(国民)だったりする。
先程も言及したが、どれだけ優れた治世を敷いたとしても、不満などは各所に存在するものだ。
あるいは、ルキウスの政策に真っ向から対立する考えの者達もいるだろう。
それに対処する為に、彼らは利用されているのである。
(具体的には、例えばこれは
だが、それに応じない者達も一定数いる訳で、しかしそれを無理矢理どうにかするのは、為政者側からしたら他の国民の心証も悪くなるので出来ない。
故に、所謂“暴力団”などを使って、立ち退きを迫ったりさせる事が往々にしてある。
他にも、ルキウスに不満のある者達のガス抜きとして、反ルキウス派みたいな勢力を率いらせるなどもある。
自分の敵を自ら作る様で非常に滑稽な手法ではあるが、それが自分の息が掛かっていれば、ある程度コントロールが効く。
ルキウスは、所謂“マッチポンプ”すら巧みに操る事の出来る、非常に優れた政治家なのである。)
で、エン爺と呼ばれた人物の一団は、ルキウスの政治的パフォーマンスの一環として帝国内から追われた人々なのである。
彼らの選別は、実はある程度の規則性がある。
すなわち、自分の手駒として使えるかどうかだ。
具体的には、年寄りや戦災の影響によって健康面に不安があったり、手足の一部が欠損していたりと、そうした
もちろん、表向きは密入国者達の排除としてであったが。
さて、そうした訳で、裏からも表からも邪魔者扱いされた彼らに生きていく場所などもはやない訳だ。
それ故、彼は一縷の望みを懸けて、“
そしてそこで、ダルケネス族と出会った訳である。
その出会いは、ダルケネス族としてもエン爺達にとっても非常に上手く噛み合った。
ダルケネス族側からしたら、彼らに血を提供して貰えれば、わざわざ帝国を襲う必要もなくなり、エン爺達も、満足に仕事をする事も出来ない為に、ダルケネス族側から住居や生活の保護を受ける代わりに、血を提供する事に同意したのである。
こうして、ダルケネス族とエン爺達の、ある意味理想的な共存共生が成立した訳なのであったーーー。
~~~
「なるほど・・・。つまり、ここにいるのはアンタ方の意思って事かい・・・。」
「ええ、その通りですじゃ・・・。見ての通り、儂らは年寄りや身体に問題を抱えている者達ばかりですじゃ。それ故、満足に働く事はもちろん、戦う事も出来ません。ダルケネス族の保護なくしては、“
「ダルケネス族の種族特性を黙っていた事は詫びるが、アンタには誤解されたくなかったのだよ。それに、エン爺達を蔑ろに扱った事は、誓って一度もない。」
「サイファス様の言う通りですじゃ。むしろ、儂らは手厚く保護されておりますじゃ。まぁ、一月に一度、血を提供する事にはなっておりますがね?」
フォッフォッフォ、と力なく笑うエン爺。
「だが、そこで問題が生じた・・・。」
「ああ、エン爺達が次々と倒れてしまったのだ。それに加え、トロール共も大量発生してしまってな。しばらくは次の血を補給するまで時間はあるものの、それらの問題に対処する為に、俺は単独で動いていたって訳だ。他の若手達は、集落の守りを固める為にも無闇に動かせなかったし、長老達の託宣もあったからな。そして、アンタが現れたって訳だっ!」
「なるほどね・・・。」
・・・そこに繋がってくる訳か。
「そんな訳で、アラニグラ殿にはエン爺達を救う為に協力をお願いしたいのだっ!もちろん、礼ならするっ!!」
「ふぅ~む・・・。」
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