第128話 知られざる偉人達の模倣



◇◆◇



「無知ってのは恐ろしいモンやなぁ~。いや、ウチが言えた義理はないんやけど、アンタはん方は旦那はんの影響力を甘く見すぎやでぇ~?旦那はんの恐ろしいところは、その武勇が優れているだけではありまへん。先程のマルセルムはんの言葉でも分かる通り、その政治的手腕もさる事ながら、その資産家・実業家としての価値も無視でけへんのやで?そんな御仁に、『爵位』を与える?まぁ、分からんくはないが、まだまだ見積もりが甘いわ。本気で『ロマリア王国この国』に縛り付けたかったら、『王位』を差し出してもまだ足りんくらいや。」

「あ、いや、ヴィーシャさん。僕は王様にも貴族にも、別に成りたくないんですけど・・・。」

「あ、いや、旦那はん。これは、ただの例えですから・・・。しかし、今の事からも分かる通り、旦那はんはそんなモンですら縛れんほどの御方や。これほど御しがたい御仁も珍しいで~。」


いや、確かに、『権力』に魅力を感じる者達も多いだろうが、僕はそうではないからなぁ~。

むしろ、面倒事ばかり増えるのが目に見えているから、敬遠してるくらいだし。

それに、僕のから考えても、比較的自由に動ける『冒険者』の立場でいる事がベストだと考えている。

故に、『騎士ナイト』の称号をお断りした訳だが。


「先程から、余は全く話についていけてないのだが・・・。」

やで、マルク王。自体が、もうあきまへんわ。少なくとも、アンタはんは、『リベラシオン同盟』に賛同した貴族家の方々ぐらいの見識を持っていなければなりまへんでしたわ。一国の王なんやからな。もちろん、様々な理由で貴族家の方々が秘密裏に動いていたとしても、それを朧気ながらにも把握しておかなければなりまへんでしたわ。ま、その事からも、身も蓋もない言い方をするならば、アンタはんは、全く持って人心を、国内を掌握出来てへんっちゅうこっちゃな。」

「なっ・・・!?」

「「「「「ぶ、無礼なっ!!!」」」」」


・・・うん、いや、本当の事だしなぁ~。

まぁ、流石にヴィーシャさんは言い過ぎだとは思うが、それ自体は間違いではない。

っつか、ヴィーシャさんは御自身の立場から考えれば、今そんな『政権』批判をするのは明らかな悪手だ。

う~ん、しかし、この流れを考えると、もしやマルセルムさんは・・・。


「いえ、ヴィーシャ殿のおっしゃる事は間違っておりませんよ。」

「な、何っ!?」

「マ、マルセルム公っ!?何をおっしゃっているのですかっ!!??」


うむ、やはりそのつもりの様だな。

まぁ、僕も一瞬その事は考えたが、って事で、見逃していたところだったが・・・。

しかし、『ノヴェール家』の例もあるし、つい最近『ヒーバラエウス公国』で、アンブリオさんやドルフォロさん、ディアーナさんに半ば強要した僕としては、そこから目を逸らすのもちょっと格好悪いかもしれないな。


「まだお分かりではありませんか?私は、マルク王の退を求めているのですよ。」

「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」


やっぱり、そう来ましたか・・・。



・・・



マルク・ロマリアは、“王”としては、可のもなく不可もない程度の凡庸な男であった。

しかし、これはマルクが必ずしも悪い訳ではない。

彼は、彼の時代の『継承者争い』のおりに、様々な思惑が絡み合った結果として、偶然にも“王”の座に就いたからである。

その頃には、すでに『王派閥(王家派閥)』と『貴族派閥』の対立はあった訳で、『貴族派閥』側からしたら、“王”が優秀で、なおかつ自分達の意向が反映されなければ困った事になる訳だ。

一方の『王派閥(王家派閥)』からしたら、むしろ“王”となる者は優秀であればあるほど、自分達の有利となる。

そうしたせめぎ合いが水面下であり、マルクが皇太子時代より、様々な謀略があったのである。


マルク王には、二人の兄弟がいた。

いや、より正式に言うと、四人の兄弟なのだが、『ロマリア王国この国』では、男子が“王”となる伝統があった為に、女性王族の『王位継承権』は下位になってしまうのである。

実質的には女性王族の将来の進路としては、『王位継承権』を破棄し他国に嫁ぐか、国内の有力貴族との繋がりの強化を図る為にされるのが常だ。

所謂、『政略結婚』である。

まぁ、現代の向こう地球の先進国においては奇妙に映るかもしれないが(もっとも、形は違えどそうした風習が残っている事もある。『玉の輿』や『逆玉』はそうした婚姻の一例である。)、こうした“しきたり”は、存外珍しいモノでもないのである。

まぁ、それはともかくとして。


マルク王は、先代の“王”の四番目の息子で、兄二人と、姉一人、妹一人が兄弟に存在していた。

つまり、『王位継承権』としては、第四位。

実質的には、第三位であったのである。


(ちなみに、先代の“王”にも、もちろん兄弟が存在したが、『ヒーバラエウス公国』の『大公家』との歴史から教訓を得て、先代の“王”が即位した時点で、“王”の兄弟の『王位継承権』は消滅する事となっていた。

もちろん、当初は様々な反発があったのだが、『継承者争い』は場合によっては国が傾く可能性もあるので、次第に沈静化していった。

それに、もちろん『序列』はあるのだが、実際にはより優秀な『王位継承者』が選抜されて次代の“王”となるシステムへと移行した結果、お互い競い合う事で“王”の質を一定に保つ事も出来る様になっていったのだった。)


第三位とは言え、“王”となるチャンスはあったのだが、マルク王の兄二人は、非常に優秀だった。

と、言うよりも、元より『ロマリア王家』の血筋はかなり優秀な血筋なのだ。

アキトは別格としても(それに、アキトの場合は、血筋よりもむしろの方が異常なのだが)、ティオネロもこの齢にして、その経験不足や若さ故に感情の制御がまだ上手くコントロール出来ない点を除けば、すでに相当に優秀である。

マルク王の二人の兄も、このティオネロに負けず劣らず優秀であったのだ。

それ故、マルクは早々に『継承者レース』から降りて、兄の内どちらかが“王”となった場合にサポート出来る様にと、考えていたのである。

マルクは、“王”としては凡庸ではあるが、一般的には優秀の部類に入る男であるし、その人格的なところや資質的には、むしろサポートそちらが向いていたのである。

故に、彼のその選択肢は、ある種正解だった訳なのである。


ところが、そう上手く行かないのが世の常だ。

先程も言及したが、その頃にはすでに『王派閥(王家派閥)』と『貴族派閥』の対立はあった訳で、『ヒーバラエウス公国お隣』のドルフォロ、グスターク同様に、この兄二人にはそれぞれの『派閥』の思惑が介入していたのである。

長男で、『王位継承権』第一位のマルティロは、『貴族派閥』の影響を色濃く受けていて、優秀だが、何処か冷たい印象を受ける青年へと成長していった。

次男で、『王位継承権』第二位のルクールは、『王派閥(王家派閥)』の影響を色濃く受けていて、兄マルティロには一歩譲るが、やはり優秀で温和な性質を持っていた。


しかし、これも実際はどちらが良いと言う訳でもない。

時代や風潮によっても左右されるが、時に『指導者』と言うのは、強力なリーダーシップを発揮して、時に冷たいと揶揄されながらも次々と改革を推し進めていくべきタイミングやそれを求められる事があり、また、時には、民衆に寄り添った政策を推し進めるタイミングやそれが求められる事もあるからだ。

故に、『指導者』のタイプにおけるはないのだが、時代や風潮から考えると、『ロマリア王国この国』が長い歴史を持っていた事からも、民衆の間では、言い知れぬ閉塞感みたいなモノが蔓延していたので、やはりマルティロの様なタイプが求められていた。

何か、この状況を変えてくれるのではないか、と言う期待感からである。

ある種、当時の『貴族派閥』の先見の明は、中々に侮れないモノであったのである。


だが、ここで思わぬアクシデントが発生した。

当時は『陰謀論』や『暗殺論』がまことしやかに囁かれたが、マルティロとルクールが相次いで不審な死を遂げたのである。

実はこれは、国内の勢力ではなく、『ライアド教(ハイドラス派)』の陰謀であった。

『ライアド教(ハイドラス派)』はマルティロとルクール、どちらが即位したとしても、その優秀さから、『ロマリア王国この国』へのが難しいと判断した。

それ故、兄二人に比べたら与しやすいマルクに、“王”となって貰った方が、『ライアド教(ハイドラス派)』からしたら、色々と都合が良かったのだ。

マルセルムも言及していたが、『ロマリア王国この国』の情勢が混乱する程に、『ライアド教(ハイドラス派)』からしたら布教しやすい環境になる。

それに、副次効果として、マルティロとルクールが不審な死を遂げれば、『王派閥(王家派閥)』と『貴族派閥』双方がお互いの介入を疑い、結果ギスギスする訳だ。

その事も計算した上での事であった。


さて、そんな事件を受けて、思わぬ形で“王”へと即位するに至ったマルクだったが、元々その事を早々に諦めていた事が災いし、マルクなりに精一杯努めてきたが、それでも国内勢力を纏め上げる事が出来ずに来ていた。

これは、先程も言及したがマルクが必ずしも悪い訳ではない。

むしろ、『ライアド教(ハイドラス派)』の謀略が優れていた事、貴族連中が権力争いに夢中になっていた事もあって、その足元に付け込まれた事が起因している。

存外珍しい事ではないのだが、先祖大人がやらかした事の“ツケ”をその子孫子供達の代まで長らく苦しめられる事となるのに似た状況であった。


まぁ、そんな事もあって、マルク王の治世の間は、『ライアド教(ハイドラス派)』の天下だった訳だ。

そこに、頭角を現したフロレンツも加わり、マルクでは手に負えない状況になっていった。


だが、マルクの存在は、全く無意味なモノでもなかった。

何を隠そう、アキトを輩出したからである。

まぁ、これも、『ライアド教(ハイドラス派)』の干渉を受けるところだったが、御存知の通り、アルメリアの介入によって事なきを得たが。


そして、その数年後、アキトらの活躍によって、ようやく『ロマリア王国この国』から、『ライアド教(ハイドラス派)』と『貴族派閥』を一掃するに至ったのである。


だがしかし、特に落ち度がないとは言え、一国を率いる者が、何の手も打てなかったのは疑い様のない事実だ。

これが、現代の向こうの世界地球のトップ達であったのなら、早々に首を切られていた事だろう。

ただ、『ロマリア王国この国』では、形式上『君主制』が採用されている事もあり、合法的にマルク王を退陣される事は、マルク王が崩御するか、自ら決断して後進に譲るかしか選択肢はなかったのである。

まぁ、もっとも、フロレンツの例にもある通り、“王”の威光が弱ければ、別に無理に“王”を引きずり下ろす必要もないが。

むしろ、様々な言い訳にも出来る事からも、マルク王を手厚くする事すらあり得る。

まぁ、どちらにせよ、マルセルムがそんな事を明言するのは、相当に特殊な事例なのであったーーー。



・・・



「ま、マルセルム公っ!!!その発言は、明らかな反逆行為ですぞっ!?マルク王に退を求めるなどとっ!!!覚悟は出来ているのでしょうなっ!!!」

「「「「「そうだそうだっ!!!」」」」」


うん、まぁ、向こう側としては、そういう反応も頷ける。

これは、ある種の『政変クーデター』だからな。


「もちろん分かっておりますとも。それに、私としても心苦しいのですよ。長らくお仕えしてきたマルク王に、そんな事を告げねばならぬ事が・・・。」


マルセルムさんの顔は、苦渋の表情に満ち溢れていた。

それには、マイレンさんらも、訝しげな表情を浮かべた。


「それならば、何故・・・!?」

「逆にお聞きしますぞ、マルク王。これからの、全てが激変する時代の中で、貴方様は『ロマリア王国この国』を率いて行けるのでしょうか?」

「な、なにっ・・・!?」

「アキト殿は、これからのこの世界アクエラにはなくてはならない存在です。それを私は、フロレンツ候の件と『ヒーバラエウス公国』の一件において確信しました。その間、私達がやって来た事は何ですか?いたずらに時間を浪費しただけで、何一つ成果を挙げられずに来ましたよね?これは、私にももちろん責任があります。しかし、『貴族派閥』という障害がなくなり、事態は好転しました。しかし、私達のは、何ら変わらなかった。当たり前ですよ。これは、。それなのに、まだアキト殿を頼ろうとする浅ましさだ。それどころか、今回の件を受けてアキト殿の足を引っ張る勢いです。マルク王、貴方様なりにお考えがあっての事でしょうが、マイレン卿をに私は完全に失望したのですよ。それ故、かねてより計画していたこの案を、私は実行させて頂きました。」


そうマルセルムさんが言うと、再び謁見の間に新たなる登場人物達が現れる。

今度は、かなりの人数に登った。

その先頭には、ジュリアンさんの姿も見える。

あれ、アンタさっき参列しとらんかったか?

いや、マルセルムさんも同様なので、今更驚かんのだが・・・。


「な、何だお前達はっ!」

「父上、申し訳ないのですが、『ロマリア王国この国』は、『世代交代』の時期に入ったと愚行致しております。」

「なっ、テ、ティオネロっ!?」


おや、これはビックリだ。

マルセルムさんが、ジュリアンさんらと通じて、『若手貴族』達を纏めている事は知っていたが、まさかティオネロ皇太子殿下までも、いつの間にか口説いていたとはなぁ~。


「どういうつもりだ・・・?」

「どういうつもりも何も、『ロマリア王国我が国』が『三国同盟』に参加出来ねば、『ロマリア王国我が国』はなのですよ?」

「そ、そんな世迷い言を信じていると言うのですかっ!?たかが、少しチカラを持った程度の者の言う事をっ!!!」


マイレンさんの言葉に、しかしティオネロ皇太子殿下は、そして『若手貴族』達は失望した様に首を降った。


「やれやれ、ホンマに認識が甘いお人達やなぁ~。さっき言いましたやろ?旦那はんは、武勇に優れているだけではなく、その政治的手腕が優れているだけでもなくて、その資産家・実業家としても非常に影響力のある御方やと。例えば、『ロマリア王国この国』では、昨今農業の生産が非常に好調や。それは、様々な要因があるんやが、一つは新たなる農業方式が確立した為やな。もうお気付きかもしれへんが、これは旦那はんが主導したモンやな。それと、これにも通ずる事やけど、『ロマリア王国この国』の『魔術師ギルド』と技術提携を果たして、『生活魔法ライフマジック』を開発したんも旦那はんや。これによって、農業の生産性が更に上がった事はもちろんの事、国民の生活水準も上がった訳や。そうなれば、当然税収もうなぎ登りやな。それだけやないで?更に旦那はんは、『ヒーバラエウス公国お隣の国』の才媛と共同で、『農作業用大型重機』なんちゅー、とんでも発明を世に送り出したばかりや。もちろん、それらの収益は旦那はんの懐に入る事になる。それによって、新たなる技術開発の資金源としてはもちろん、『リベラシオン同盟』の活動資金までをも賄われている。こう言っちゃ何やけど、旦那はんは、この場にいる誰よりも資産家なんやで?」

「「「「「っ!!!???」」」」」

「それだけではありません。それらの技術や知識のは、全てアキト殿が握っているのです。と、申しますか、我々では理解出来ないほどの高度な知識故に、それらをする事は困難なのですが・・・。つまり、アキト殿に見限られれば、『ロマリア王国我が国』の現在の国力は、経済面からも一気に衰退する事となるでしょう。」

「「「「「っ!!!!!!??????」」」」」


まぁ、元々そのつもりはなかったのだが、結果としてはそうなってしまったよねぇ~。



元・オッサンとしては、僕は何をするにしてもお金が掛かる事は理解している。

んで、その『リベラシオン同盟』のをどうするか考えた訳だ。


もちろん、『出資者スポンサー』として『ノヴェール家』や、その他多数の貴族家が後に手を挙げてくれたが、それは『リベラシオン同盟』設立からしばらく経っての事だったので、それまでは自分達でどうにか稼ぐ必要があった。

それに、嫌らしい話、より多くの資金を提供した者達が、変に発言力や影響力を行使する事も想定されたので、『リベラシオン同盟』の設立意義から考えれば、そのを他者に譲渡する訳にはいかなかった。

故に、僕がその『前世』やこの世界アクエラで得た知識や技術を総動員して、を確保をする事にしたのだ。

まぁ、この世界アクエラに来た当初は、下手に向こう地球の知識を用いる事なく目立たずに暮らす予定ではあったのだが・・・。

それも今更の話である。


で、その手始めとして、僕は旧・『ルダ村』の農業改革に着手したって訳だ。

と、言っても、そもそも旧・『ルダ村』では、『ロマリア王国この国』でも高い水準の農業生産量を誇っていた。

まぁ、これは、フロレンツ候の功績の一つだ。

色々と傍迷惑なオッサンだったが、そうした手腕には優れていたのである。

まぁ、だからこそ彼の暴走を止められなかった背景も存在するのだがね・・・。

まぁ、それはともかく。


僕自身も、この世界アクエラに来た当初は、農業に関しては素人同然であった。

故に、僕の農業関連の知識は、旧・『ルダ村』の人々から伝授されたモノであった。

とは言え、“現代人”であった僕は、個人的にはそれなりに高水準の食生活をする為に、結構必死で農業関連の知識を覚え、研究していたのであった。


当然ではあるが、農業は気象や季節によっても左右される訳で、特に冬場の農閑期は農業従事者にとってはかなり苦しい時期になる。

とは言え、耕作地の作業も全くない訳ではないので、あまり遠くに出稼ぎに行けない事もしばしばである。

当然ではあるが、その時期には収入が激減する訳で、冬場は農業従事者にとって一番大変な時期とも言えるのだ。

“現代人”である僕には当初ピンと来なかったが、“冬を越せない”なんて事は、この世界アクエラでは極普通にありふれた状況なのである。

もっとも、旧・『ルダ村』の人々と共同で農業改革に着手した為に、備蓄が無くなって餓死する事もなくなったのだが。


そこで、僕は更に、『前世』の知識とこちらアクエラに来てからの知識を総動員して、農閑期における農業従事者の方々の収入源を確保する方法を考案したのだ。

と、言っても、そんな事は皆さんも考える訳で、すでに様々な方法が存在していたが。

向こう地球においても見られたのだが、出稼ぎの他には、昆虫や植物を利用した糸の生産や、家畜を用いた乳製品や発酵食品の生産などが挙げられる。

そこに、僕はもう一歩踏み込んでアレンジを加えたのである。

それが、菌の利用方法とそれを応用した人工栽培の方法であった。


向こう地球においても、菌の利用は人類の歴史と共に古くから存在するのだが、その本格的な研究が進んだのはかなり最近の話だったりする。

何故ならば、『細菌』や『微生物』などのミクロの存在を観測する装置、つまり『顕微鏡』が発明されたのは、ここ500年ほどの事だからだ。

何故そうなのか作用原理や解明が進んでいなくとも、経験や感覚だけで利用される事は案外多い。

しかし、それが詳細に分かれば、当然ながら様々な応用も効く様になるのである。


僕は手始めに、『魔法』(『テレスコープ』)を応用して、『オリジナル魔法』・『マイクロスコープ』を開発。

機械を作れれば良かったのだが、そちらの知識に関しては自信がなかったし、『魔法』に関してはその時はすでにこちらの世界アクエラの達人レベルで習得していた事もあって、案外簡単に開発出来たのだった。

まぁ、それも、結果的には良かったのかもしれないが。


そこからは早い。

本来ならば、数々の偉人の方々が長年の研究の末、あるいは生涯を掛けて行った業績も、僕には『チート女神めがみ』たるアルメリア様の協力もあって、さほど時間を掛けずに実用化へと漕ぎ着けていたのである。

と、言っても、流石に物事のバランスも見ながらなので、あまり派手にはやらなかったが。

まぁ、そもそも、『食文化』に関する発明は、案外一般の人々にとっては知られるものでもない事は計算の上だったが。

“歴史”って言うと、案外教科書に載っている人しか知らないなんて事もザラだからな。


で、その結果として、安定的な発酵食品(チーズなど)の製造方法や菌糸類の人工栽培を可能としたのであった。

特に、菌の一種でもあり、我々日本人にもお馴染みの食材であるキノコ類の人工栽培は、日本においてはここ100年ほどで体系化されたものだったりするのである。

それまでは、農業もそうであるが、研究や解析が進んでいなかった為に、運任せ・神頼みな部分も存在したのである。

それが安定的に供給可能となれば、農閑期の農業従事者の収入源となると見込んだのである。


んで、それが大当たり。

まぁ、当然なんだけど。

他の地方では出回らない、しかも冬場の時期と言う、ある種“食糧”が高騰する時期に売り出した事もあって、大儲けする事が出来たのである。

まぁ、これは、農業従事者の方々の努力の結果だけどね。

僕は、『魔獣の森』の恩恵を存分に利用して、更には元々自分自身の食生活の為に研究していた『酵母菌』やら『人工栽培セット』を、一般用にも開発・販売しただけに過ぎないからね。


で、その収益を足掛かりに、旧・『ルダ村』は『ルダの街』へと発展を遂げ、『リベラシオン同盟僕ら』は『リベラシオン同盟僕ら』で、十分な活動資金を得られた訳である。

で、次に着手したのが、これは以前も言及したと思うが、『魔術師ギルド』をこちらの仲間に引き入れる目的と共に、そのお互いの知識や技術力を取り入れる為に、ヴィアーナさんを通じて『魔術師ギルド』と技術提携をしたのである。

で、その結果として、『生活魔法ライフマジック』を共同で開発。

製造、販売元は『魔術師ギルド』となるが、その開発の大部分は僕の考案・発案であるから、僕はその『パテント料』をしっかりと請求していたのである。

まぁ、技術の普及から鑑みれば、『パテント料』を放棄する選択肢もあるのだろうが、僕の目的はそこではないので、厚かましいと言われようが、その点はしっかりとしていたって訳だ。


こちらも、大当たり。

もっとも、『生活魔法ライフマジック』は、まだまだ『ロマリア王国この国』でも普及が進んでいないのが現状だ。

故に、これからの発展次第では、更なる大金を生み出す可能性が高い。

これには、『魔術師ギルド』も笑いが止まらなかった事だろう。

当初は、何処か半信半疑だった『魔術師ギルド』側も、その結果を受けて、今では『リベラシオン同盟』との関係は非常に良好となっていた。


この時点で、僕の資産家としての価値(実際は僕の懐に入る訳じゃないが)と、経済に与える影響力はかなりもモノとなっていたが、決定的なのは、やはりリリさんと共同で開発した『農作業用大型重機』の存在が大きいだろう。


『農作業用大型重機』開発時にも触れたかもしれないが、こうした『発明』の優れた点は、その効力だけでなく、その事によって、新たなる『雇用』を創出する点である。

農業改革に関しても、小麦の生産が主であった農業従事者の中から、畜産を専門とする農家やキノコ栽培に特化した農家が現れる事はもはや確定的で、その流通ルートの拡大によって商人の幅も広がる。

生活魔法ライフマジック』も、その鉱石類の必要性から、『鉱山業』が更に盛んになるだろうし、その物資を買い付ける商人、護衛となる冒険者の需要も高まる。

『農作業用大型重機』も、当然ながら様々な雇用を生み出す起爆剤になる。

そんな事からも、僕の資産家・実業家としての価値は計り知れないモノとなっている訳なのである。


それが分かっているからこそ、マルセルムさん達は僕とは友好的に接したい訳だし、それが分かってそうで分かっていないから、マルク王達は、僕の交渉を何処か軽く聞いていた訳だ。

最悪、切り捨てても良い。

そう考えていたのかもしれないが、まぁ、こちらとしてはそれでも良いが、マルセルムさん達からしたら、それは『ロマリア王国この国』の緩やかな衰退を意味する訳で、それは避けたい事態だった訳だ。


んで、それらを加味した結果、『政変クーデター』、と言うよりかは、どちらかと言うとティオネロ皇太子殿下の言う通り、『世代交代』と言う表現が適切かもしれないけどね、と言う結論に至ったのだろう。


ちなみに、これに関しては僕はノータッチである。

以前にも言及したかもしれないが、僕は戦う意思のない人までも手を差し伸べるほど親切ではない。

いや、目の前で襲われていたら、そりゃ助けるかもしれないが、その後の人生までは面倒みきれないからなぁ~。

故に、これはマルセルムさんやジュリアンさん、ティオネロ皇太子殿下が自ら起こした行動だ。

まぁ、その切っ掛けは僕が作ったかもしれないが、事ここに至れば、もはや僕の出る幕ではないだろうーーー。


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