第110話 追記~後日談 その5~



□■□



「どうかなさいましたか、アキト様?」


一瞬、色々と回想していた僕は、ディアーナさんの言葉に意識を引き戻された。


「失礼。少し考え事をしていました。そういえば、話は変わるのですが、ディアーナさんは今後どうされる予定なのですか?」


僕は、その己の軽い失態を誤魔化す様に、そう話題を切り替える。


「今後・・・。そうですわね。とりあえず、グスターク兄上を含めた『主戦派貴族』達の『処遇』を『貴族院』にて決めた上で、『ロマリア王国』とは、すでに『交渉』の準備が整った訳ですから、もはや『派閥』は関係ありませんよね。父上とドルフォロ兄上が後は主導するでしょうから、わたくしはお役御免、でしょうか?」

「いやいや、むしろこれからではありませんか。今後は、それこそ忙しくなりますよ?確かに国同士の話し合いでは、アンブリオさんとドルフォロさんが主導される事になるでしょうが、『農作業用大型重機製作プロジェクトチーム』に関しては、『政治家』としてはディアーナさんが『ヒーバラエウス公国この国』の『第一人者』ではありませんか。僕が言うのも何ですが、これからは『農作業用大型重機製作プロジェクト』は大きな広がりを見せる分野でしょうから、ディアーナさんのお仕事は益々と増えると思いますが・・・。」


それに、慌ててフォローを入れる僕に、ディアーナさんも悪戯っぽく微笑んでみせた。

これは・・・、からかわれたかな?


「うふふ、失礼。それはもちろんわたくしも分かっておりますわ。ただ、数ヵ月前まではわたくしの『夢想』でしかなかった事が、今正に現実味を帯びた話になって、わたくしとしても今だに信じられませんの。本当にアキト様達と出会ってから、わたくしの、いえ、『ヒーバラエウス公国この国』の全てが変わってしまったかの様ですわっ!」


少々興奮気味にそう述べるディアーナさんに、僕はただただ苦笑してしまうのだった。

と、言うのも、これは僕らの都合で動いた結果に過ぎないからである。



もちろん、その一連の行動が、ディナーナさんにとっては良い結果をもたらしたかもしれないが、その一方で、グスタークさん達の様に、その『立場』を追われた人達もいるのは事実である。

客観的に見たら、『主戦派貴族』達彼らは『ヒーバラエウス公国この国』にとっては『危険分子』であったかもしれないが、また、その一方で、『主戦派貴族』達彼らによって生活が成り立っていた人達もいるのだ。

物事は『良い』・『悪い』では単純に判断出来ない。

『相対的』に『多面的』に判断しなければならないのである。

故に、僕の中では、『正義』も『悪』もないし、『主戦派貴族』達彼らをただ単純に悪しきモノとして排除したのではなく、ただ己の都合の為に、『ヒーバラエウス公国この国』の“形”を変えただけなのである。


ただ、別にそれを後悔している訳ではない。

残念だが、人によって『主義』や『主張』は異なる訳だから、永遠に『妥協点』が交わらない事もあるだろう。

それ故に、最終的にはぶつかり合うのはある種必然であり、“勝った”か“負けた”かはその結果でしかない。

『歴史』の上では、“勝った”方がある意味『正義』となるが、僕の『信条』としては、『正義』を名乗りたくないのである。

『良い』・『悪い』はともかく、僕はただ僕の都合の為に動くのみである。

それを究極的には僕の身勝手であり、『正義』を名乗る事で、自分の中で『正義それ』を『免罪符言い訳』にしたくないのである。

それは、一種の『思考停止』であるし、また、己の『心』を誤魔化す行為に他ならないからである。



「失礼、少し興奮してしまった様ですわね?」

「いえ、そんな事はありませんよ。」


僕の苦笑反応を、ディナーナさんは引いていると感じたのか、少し恥ずかしそうに謝った。

・・・少しリアクションを失敗してしまったかな?


「と、ところで、アキト様達こそ、今後はどうされるのですか?」


慌てて話題を切り替えたディナーナさんは、今度は僕に質問を返してきた。


「今後・・・。そうですね。僕らの『ヒーバラエウス公国この国』での『』は概ね終わりました。『ロマリア王国』側からの『外交使節団』・『』との『引き継ぎ』が済めば、そう遠くない内に『ヒーバラエウス公国この国』を引き上げると思います。まぁ、正直、『ヒーバラエウス公国この国』に多数存在する『古代魔道文明』時代のモノと思わしき『遺跡類』を調査・研究したいという思いもあるのですがね?」

「・・・それほどの『知識』をお持ちでも、まだ『知識』を求めるのですわね。」

「いえいえ、僕などまだまだですよ。それに、この世界アクエラはまだまだ未知で溢れています。それを調査・発掘、発見する事は、もはや僕の『ライフワーク』ですからね。」

「そ、そうですか。・・・しかし、やはり、そう遠くない内に、アキト様達は『ヒーバラエウス公国この国』を離れるのですわね・・・。」

「まぁ、そうですね。今はまだ、そう多くを語れませんが、僕にはとある『』があるので、ひとつところに落ち着いてもいられないのですよ。まぁ、それが落ち着いたとしても、僕としては未知を求めて旅を続けるでしょうが・・・。」


別れの予感を察してか、ディナーナさんはさびしげにそう呟いた。

まぁ、ディナーナさんは、少々特殊な『立場』の人だからな。

せっかく、あまり『世間体』を気にせずに付き合えるアイシャさん達と仲良くなったのに、もうお別れとなると、さびしくもなるだろう。


「それでは、これはちょうど良い、と評するべきなのでしょうか・・・?少々複雑ではありますが、アキト様が『ヒーバラエウス公国この国』を離れる前に、少し『助言アドバイス』を頂きたいのですが・・・。」

「『助言アドバイス』、ですか?まぁ、僕に出来る事でしたら、喜んで協力しますが・・・?」

「それは良かった。もうすぐ到着する頃だとは思いますが・・・。」


本題に入る前に、ディナーナさんはそう呟いた。

ふむ、どうやら、この『お茶会ティーパーティー』には、他に『ゲスト』がいる様だ。

そんな事を考えていると、ディナーナさんの私室のドアをノックする音が鳴り響く。

それに反応して、ディナーナさんの後ろに静かに控えていた侍女メイドさんが、素早く対応していた。

それをボーッと眺めていると、二言三言話した末に、新たな登場人物が顔を見せる。


「やあ、我が妹よ。本日は、『お茶会ティーパーティー』にお招き頂いて非常に嬉しく思っているよ。これまでは、中々こうした機会を設ける事が出来なかったからね。」

「失礼いたします、ディナーナ公女殿下。わたくしの様な者をお招き頂きまして、大変光栄であります。少々、場違いな感は否めませんが・・・。」

「なに、己を卑下する事はないさ、モルゴナガル卿。とりあえず、貴公の『処遇』は『保留』されている訳だし、それに、これは我が妹が主催する私的な『会合』だ。誰かに文句を言われる筋合いはないさ。」


入ってきたのは、ディナーナさんの兄であるドルフォロさんと、『ザルティス伯爵家』の現・当主であるモルゴナガルさんであった。

奇しくも、今回の『ヒーバラエウス公国この国』の『政変クーデター騒動』における、重要な『役割』に担った方々が顔を揃えた訳である。

まぁ、多分ディナーナさんが画策したんだろうけどね。

流石に、君主であるアンブリオさんはまでは呼べなかった様だがな。


「ようこそお越し下さいました、ドルフォロ兄上、モルゴナガル卿。本日は、わたくしの我が儘を聞いてくださり、感謝の念に堪えませんわ。」

「何、私とお前の仲ではないか。そう水くさい事を言うものではない。」

「いえいえ、滅相も御座いません。」


流石に淑女然とした“立ち居振舞い”で、ドルフォロさんとモルゴナガルさんを迎え入れるディナーナさん。

それに紳士然とした“立ち居振舞い”で返礼を返すドルフォロさんとモルゴナガルさん。

う~ん、どっちかと言うと、場違いなのは僕の方じゃなかろうか?


「こんにちは、ドルフォロ公太子殿下、モルゴナガル卿。お先にお邪魔しております。」

「おお、これはアキト英雄殿っ!今回の件では、大変お世話になりましたっ!!忙しさにかまけてご挨拶が遅れた事を、まずは謝罪させて頂こう。」

「いえいえ、次期君主であるドルフォロ公太子殿下がお忙しいのは存じております。それに、僕は『外交使節団』の『先遣隊』の長ですからね。ご挨拶は、僕の方が赴くのが筋と言うモノでしょう?」

「そう言って貰えるのはありがたいが、私としては貴殿とは対等の『立場』でありたいと思っているよ。まぁ、お互いに表向きの『立場』もあるから、中々難しいとは思うがね?」

「恐縮です。」


う~ん、ドルフォロさんは“”はこんなフランクな人なんだなぁ~。

いや、こちらの都合ではあったが、彼に施されたある種の『暗示呪縛』、『洗脳教育』や『思想教育』の末に歪められた『人格』をした結果なのであろうが。

ドルフォロさんは、彼が本来持つ筈だった、誰もがアンブリオさんの『後継者』として認めるだろう、『知性』と『カリスマ性』に満ち溢れた青年に立ち返っている。

まぁ、想像以上にフランクな人だったし、ここまで『精神安定系ポーション』が効果を発揮するとは思わなかったが。

あるいは、僕の持つ『英雄の因子』の『能力』の影響かもしれないがな。


「こんにちは、アキト殿。今回の件では、本当にお世話になりました。『ザルティス伯爵家』を代表して、お礼申し上げます。」

「これは、モルゴナガル卿。いえいえ、こちらこそ。それに、感謝を受ける事でもないでしょう。僕らは僕らの都合の為に動いただけに過ぎません。結果的には、貴方の邪魔をする事にもなりましたしね。」

「いえ、それを含めた上でも、私は貴方様ほどの結果は出せなかった事でしょう。まさか、『ヒーバラエウス公国この国』の“在り方”を根本から変えてしまうなどと・・・。」

「それも、最終的には皆さんの存在あっての事。もし褒められる事や誇る事があるとしたら、それは皆さん自身の存在に他ならない。僕らは、その後押しをしたに過ぎませんよ。」

「なんと寛大な・・・。『英雄』の御心に感謝します。」


感動にうち震えたモルゴナガルさんは、僕に深々とお辞儀をした。

いや、マジでそんなんじゃないんだけどなぁ~。


「まあまあ、モルゴナガル卿。積もる話もあるでしょうが、まずはお掛けになって下さいな。」

「そうだね。せっかくの『お茶会ティーパーティー』だ。我が宮殿が誇る侍女メイド達の淹れるお茶を楽しもうじゃないか。」

「え、ええ、これは失礼しました。」


若干変な方向に行きかけていた話を軌道修正して、ディナーナさんとドルフォロさんがそう声を掛けた。

ふぅ、モルゴナガルさんには、具体的に何かした訳ではないのだが、ある意味では彼の『ヒーバラエウス公国この国』への『忠誠心』が強固である事から、それを解決に導いた(様に見える)僕に対して、異常に感謝しているのかもしれないなぁ~。

いや、僕の『徳を積む事修行』の上では、ある種の『信仰』は望むべき事なのだろうが・・・。

過剰に感謝されても、何となく居心地が悪いよねぇ~。



・・・



その後、しばらくはお茶を楽しみながら、先程の繰り返しにはなるが、『リベラシオン同盟僕ら』の今後の予定を話すのだった。


「そうか・・・。やはり戻られてしまうか・・・。」

「そうですね。いずれにせよ、まとめなければならない案件もありますから、一旦は『ロマリア王国』には戻ると思います。」


ディナーナさんと同じく、さびしげに呟くドルフォロさんに僕はそう答える。


「・・・なればこそ、今の内にアキト英雄殿のお知恵を拝借せねばならんか。」

「ドルフォロ兄上、わたくしも、先程アキト様に軽くそのお話を触れていたところでして・・・。もっとも、ドルフォロ兄上とモルゴナガル卿がお越しになるまでは、詳しく話しておりませんでしたが・・・。」

「そうであったか。いや、確かに顔を揃えてから話した方が、行き違いが無くて済むだろう。」

「・・・。」


ふむ、どうやら、先程の『助言アドバイス』云々の話だろうか?

ドルフォロさんとディナーナさん、モルゴナガルさんはお互いに目配せをし合いながら、誰が切り出すかを窺っている様だった。

短い攻防の末に、結局、この場はドルフォロさんが取り仕切る事にした様だ。

まぁ、『立場』的には順当だよね。


「お知恵を拝借したいのは他でもない、モルゴナガル卿、いや、『ザルティス伯爵家』の『処遇』についてなのだ。」

「・・・ふむ。」


その言葉で、何となく先の展開が読めた僕だったが、とりあえず話を全て聞いてから判断する事にした。

目線で先を促した僕のリアクション反応を見て、ドルフォロさんは静かに語り始めた。


「もちろんアキト殿もご存知だとは思うが、『ヒーバラエウス公国この国』の一連の騒動は、一応の決着をみた。何よりも、アキト殿の狙い通り、父上を保護した事がやはり大きい。君主の『特権』が使える訳だからね。」

「そうですね。曲がりなりにもアンブリオ大公は、『ヒーバラエウス公国この国』の『トップ』ですから、多少『求心力』が落ちていたとしても、その『権限』は絶大でしょう。それもあって、アンブリオ大公をお救いした“狙い”もありましたしね。」

「言いにくい事をハッキリおっしゃるのですね・・・。」

「ここに来て、誤魔化しても仕方ないでしょう。むしろ僕の『持論』ではありますが、ただの『善意』や『好意』からではなく、『損得勘定』で動いてくれた方が、まだ『信頼』が置けます。『信用』や『信頼関係』と言うのは、積み重ねる事でしか得る事は出来ませんからね。その“入口”としては、『善意』や『好意』も、『損得勘定』も何ら違いはありません。特にこれらの件に関しては、『個人』の事ではありませんでしたからね。」

「うむ。アキト殿のおっしゃる事はもっともであろう。『国』やら『組織』やらを背負っている者が、『個人的』な『感情』では動くべきではない。アキト殿の“思惑”はどうであれ、結果的に父上や『ヒーバラエウス公国この国』が救われた事は事実なのだ。もちろん、私も含めて、な。」

「それは理解しております。わたくしもその一人ですからね。」

「・・・。」

「まぁ、それも蓋を開けてみれば僕らの早合点でしたけどね?ドルフォロ公太子殿下が御説明した通り、あれはモルゴナガル卿の『自作自演』だった訳ですから。」

「そう、正になのだよ、アキト殿っ!」


我が意を得たり、という風に、ドルフォロさんは大袈裟なジェスチャーをした。

ふむ、やはり僕の予想通りと言ったところか・・・。

目線で僕は更に先を促した。


「他の者達、我が弟グスタークやシュタイン候、彼らを始めとした一連の騒動に加担した『主戦派貴族』達の『処遇』については問題ないのだ。もちろん、父上個人、私個人、ディナーナ個人の『考え方』はあるものの、『ヒーバラエウス公国この国』の『法』に基づけば、彼らは『処罰』されなければならないからな。むしろ我が弟グスタークが『大公家』の人間であるからこそ、しっかり罰さねばならんだろう。でなければ、民衆の『信頼』が得られんし、顔向けが出来ん。もちろん、その『量刑』に関しては『貴族院』にて議論する事になるだろうがね。」

「それはそうですね。『身内』に甘い様では、それこそ示しがつかないでしょう。それは、ともすれば更なる『大公家』の『求心力』低下を招くでしょうし、『貴族』達の背信に繋がるでしょう。『恐怖政治』を推奨するつもりはありませんが、一定の『緊張感』はやはり必要ですからね。」

「その通りだとも。しかし、そこで困った事が起こる。」

「ふむ、それでモルゴナガル卿や『ザルティス伯爵家』の『処遇』に困りあぐねている訳ですね?」


僕が確認する様に問い掛けると、ドルフォロさんは静かに頷いた。

ディナーナさんは目を伏せ、モルゴナガルさんも困った様な表情を浮かべている。


「うむ。アキト殿に今さら言う事ではないだろうが、客観的に見ると、モルゴナガル卿が我が妹ディナーナの(偽の)『暗殺計画』を画策し実行した事はだ。もちろん、これは我が妹ディナーナ、ひいては『ヒーバラエウス公国我が国』の行く末を憂慮した上での、モルゴナガル卿の『自作自演演技』だった訳だが、それがおおやけになったとしても、我が妹ディナーナの命を狙ったと言うは消えない。その事からも、先程も述べた通り、『ヒーバラエウス公国我が国』の『法』に基づけば、重い『処罰』を与えなければならないだろう。でなければ、皆の納得を得られないだろうからな。」

「そうですねぇ~。『法』と言うのは、時に融通の効かないモノですし、しかし、その『国』の『秩序』を一定に保つ上では必要ですしねぇ~。他との“兼ね合い”を鑑みれば、モルゴナガル卿や『ザルティス伯爵家』は、『処罰』されてしかるべきでしょうね。もちろん、情状酌量の余地はあるでしょうが・・・。」

「その通りなのだが、それは私やディナーナ、父上も望むべきモノではないのだ。もちろん、我らの『個人的』な『心情』がある事は否定しないが、『ヒーバラエウス公国我が国』の今後を見据えれば、モルゴナガル卿や『ザルティス伯爵家』の『力』が重要になってくる局面もあるだろう。そこで、それを何とかする為に、アキト殿のお知恵を拝借したいのだ。まぁ、『他国』の人間であるアキト殿に聞くのも、変な話ではあるのだがな・・・。」

「いえ、それは別に良いのですが・・・。今更ですしね。それに、『ヒーバラエウス公国この国』との良好な関係は、『リベラシオン同盟僕ら』としても望むべきモノですからね。」


しかし、そうは言ったものの・・・、さて、どうするか?

いや、所謂“抜け道”は存在する。

しかし、それは『ザルティス伯爵家』の“在り方”を変えてしまう事だ。

もっとも、何も対策を打たねば、『ザルティス伯爵家』の『解体』は、ほぼ確定的な訳だが・・・。

ここは、やはりモルゴナガルさん自身の判断に委ねるべきだろう。


「・・・一応の『解決策』はあります。」

「おおっ・・・!!!」

「まぁっ・・・!!!」

「しかし、これはかなり酷な『プラン』になりますので、それを受け入れるか否かは最終的にはモルゴナガル卿の判断にお任せしますが・・・。」

「お気になさらずに、アキト殿。私個人としては、いかなる『処罰』を受ける事も覚悟の上での事でしたので。それは、『ザルティス家』も同様です。もっとも、アンブリオ大公やドルフォロ公太子殿下、ディナーナ公女殿下の『恩情』により、私共の『処罰』は一旦『保留』されている状態ですが・・・。」


ふむ、やはりモルゴナガルさんはかなりの『人物』の様だ。

もちろん、『ザルティス伯爵家』の人々も素晴らしい。

なればこそ、この『プラン』で説得出来れば良いが。


「まず、『ザルティス伯爵家』は『解体』させます。」

「ええっ!!!???」

「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ、アキト殿っ!!!それを回避する為にお知恵を拝借しているのだがっ・・・!!!」

「まあまあ、話は最後まで聞いて下さい。別に僕も、モルゴナガル卿や『ザルティス伯爵家』を罰する事を“提案”している訳ではありませんよ。要は、『人材』が重要なのであって、その『入れ物』はあまり意味はないでしょう?これまでの『ヒーバラエウス公国この国』では、事を成すには『貴族家』である必要があったかもしれませんが、これからの『ヒーバラエウス公国この国』を“在り方”を鑑みれば、むしろその『枠』から逸脱する必要があると僕は考えます。もちろん、これは『貴族』の『爵位』を剥奪する“提案”でもありますので、モルゴナガル卿が受け入れられなければ、話はそれで終わりですが・・・。」

「・・・とりあえずアキト殿の“提案”を最後までお聞かせ頂いても?」


僕の一見突拍子のない“提案”にディナーナさんとドルフォロさんが狼狽するが、当のモルゴナガルさんは落ち着き払って僕を見据える。


「もちろんです。そもそも、『ザルティス伯爵家』の『役割』は、『ヒーバラエウス公国この国』を“陰”から守る事にありますよね?まぁ、その『役割』上、『ヒーバラエウス公国この国』の『軍』や『治安当局』とも重なる点は存在しますが、『ザルティス伯爵家』は、『情報機関』としてや『諜報機関』としての意味合いが強い。ですから、逆に言うと、『貴族家』としての『立場』を持つ事はある種理にかなっていた訳です。」


ふむふむと、思い思いに頷くお三方。


「しかし、今回の件では、その『役割』を逸脱する行為を犯してしまった。大局的に見れば、これは“正解”だった訳ですが、『ヒーバラエウス公国この国』の『法』の観点からは、これは“アウト”です。何せ、『大公家』の人間を害そうとした訳ですからね。これを罰するのはむしろ当然で、そうでなければ君主や『大公家』に不信感や不公平を感じてしまう。“他の『貴族家』は罰せられたのに、何で彼らだけが・・・。”と、言う訳です。これは、最終的には大きな遺恨を残す事になりますから、適当な『処罰』をしてお茶を濁すのが一般的な“手法”でしょうね。幸い、『貴族院』の皆さんは、モルゴナガル卿や『ザルティス伯爵家』の行いが、情状酌量の余地がある事は御存知の筈ですからね。通常なら、せいぜい『降格』か『領地』の一部を没収する程度が妥当なところでしょう。」

「それは私も考えたが、では何故アキト殿は、『ザルティス伯爵家』を『解体』するなどと?」


その疑問はもっともだ。

『御家取り潰し』は、もっとも重い『処罰』の一つだろうからな。


「それは、『ザルティス伯爵家』を、『ヒーバラエウス公国この国』の『組織』の一部に『再編』する為です。」

「・・・と、言うと?」

「今回の事でもお分かりだとは思いますが、『大公家』と『ザルティス伯爵家』の『連携』が上手く機能しなかった事が“行き違い”を発生させてしまいました。故に、『ザルティス伯爵家』は独自の『裁量』で動いてしまった。これまでの経緯を鑑みると、それも致し方ない事だとは思いますがね?」

「確かに、私も今回の件があるまでは、『ザルティス伯爵家』の『役割』について知らずにいた。いや、父上すら知らなかったのかもしれないな。」

「その通り。これは、環境や時代の変化に対応して、その“在り方”を曖昧なままにしていた事が要因であると考えます。おそらく、『資金面』などの問題もあったのでしょうが、当初の『大公家』では、『ザルティス伯爵家』を『、と言う事情もあったのでしょう。それ故に、“外”にその『役割』を求めた。そして、それが今日まで続いていた訳ですね。」

「「「・・・。」」」

「しかし、当然ではありますが、お互いに『連携』が機能していなければ、上手くいくものも上手くいかない。もちろん、モルゴナガル卿や『ザルティス伯爵家』の『忠誠心』は素晴らしいモノですが、それでも限界はあった。その末で、今回の様な“行き違い”が生じてしまった訳ですね。それを是正する為にも、『ザルティス伯爵家』を一度『解体』し、新たに『大公家』直属の『組織』へと生まれ変わらせるのです。表向きは、『ザルティス伯爵家』への『処罰』としての『御家取り潰し』となりますから、モルゴナガル卿が受け継いできた『爵位』や『領地』、『権限』なども消滅してしまいます。これは、他の『貴族家』に対する牽制の意味合いもありますし、これによって、失墜しつつある君主や『大公家』の『権威』を回復させる狙いもある訳ですね。先程も述べましたが、『恐怖政治』を推奨するつもりはありませんが、やはり一定の『緊張感』は必要になりますからね。」

「なるほど・・・。つまり、『ザルティス伯爵家』と言う『器』だけ壊して、実際の『人材』は、その新たに創設する『組織』にこっそりと移す、と言う訳ですな?」

「その通りです。もちろん、これはモルゴナガル卿や『ザルティス伯爵家』に負担を強いる事ですから、強制はしませんがね。先程も話した通り、多少のリスクはあるものの、何となくお茶を濁す“手法”もありますし。」

「ふむ・・・。」

「なるほど・・・。」

「・・・。」


ここまで話し終えると、お三方は思い思いに思案していた。


「とまぁ、僕が出来る事はここまでですかね。後のご判断は、皆さんにお任せしますし、実際に新たに『組織』を創設したとしても、これも『ヒーバラエウス公国この国』の内部の事ですから、僕が口出しする事でもないでしょうからね。」

「いや、非常に参考になった。やはりアキト殿のお知恵を拝借して良かった。我らだけでは、その『結論』に達する事は不可能だったかもしれん。」

「いえ、僕は皆さんより知っているだけですよ。」

「だとしても、だ。貴殿の強みは、その柔軟な『発想力』と『応用力』だと私は考えている。知っている事同士を組み合わせて、新たな『』を創造する。これは、誰にでも出来そうで、意外と出来ないモノだ。人は『固定概念』に囚われやすいモノだからね。」


そう真顔で評価されると、少しくすぐったいんですけど。


「さて、後は我らで『意見調整』すべき事柄だが・・・。」

「私としましては、“形”は変われど『大公家』や『ヒーバラエウス公国この国』の為に働く事が出来るならば、これ以上の喜びはありません。陛下や公太子殿下、公女殿下の御心に従いましょう。」

「ふむ・・・。ディナーナはどうだい?」

わたくしは、アキト様の“提案”を全面的に支持しますわ。これから『ヒーバラエウス公国この国』は、新たな『国』の“在り方”を模索する段階に入ったと考えていますからね。」

「ふむ、私も同意見だ。ただ、調整が難航しそうだがねぇ~・・・。」

「それも、産みの苦しみというものですわ、兄上。」

「そう、かもしれないね・・・。」


ハハハハッと朗らかに笑い合う僕らは、冷めつつあったお茶に手を伸ばすのだったーーー。





















と、そのタイミングで、バタンッとドアを開く音が聞こえた。

『マナー』もへったくれもないその行為は、誰あろう、アイシャさん達であった。


呆気に取られたお三方に代わり、僕がアイシャさん達を嗜める。


「ちょっ、アイシャさんっ!?何があったか知らないけど、流石に失礼だよっ!!!」

「ご、ごめんね、アキト、ディナーナさん達もっ!けど、大変なんだよっ!!!さっき『連絡』があったんだけど、王都『ヘドス』が、謎の一団から襲撃を受けてるってっ・・・!!!」

「・・・・・・・・・へっ???」


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