第103話 タルブ政変~『破滅』をもたらす者~



◇◆◇



周囲からの視線に、バツの悪い表情を浮かべるグスタークさんとシュタインさん。

ニコラウスさんには悪びれた表情は浮かんでいないが、その顔は何処か青ざめている様に見える

いよいよ、自分達が追い詰められている事を自覚したんだろうか?


「あいや、しばし。グスターク公太子殿下とシュタイン候は私も存じ上げておりますが、そのニコラウス?、とは、一体ですかな?」


と、そこへ、“この場”の『議員貴族』の一人が、もっともな疑問を呈した。

まぁ、ニコラウスさんは『』に非常に長けた人だからな。

裏を返せば、それだけ『』であると言う事でもあるが、それ故に、『貴族』達の『情報網』を持ってしても、ニコラウスであるか掴めていなくとも不思議はなかった。


「ニコラウスは、あそこにいる男がそうなのですが、この一連の騒動の真の『黒幕』であり、『ヒーバラエウス公国この国』の『裏社会』を牛耳っている男です。一つの『組織』ではなく、『、をね。言うなれば、『ヒーバラエウス公国この国』を“”から操っていた、とも言えますな。」

「あの男がっ・・・!!!???」

「・・・そんな大層な男には見えませんがっ・・・?」

「得てしてそういうモノですよ。『歴史』を良い方向に導くのが、『偉人』や『英雄』と呼ばれる存在ならば、彼は『歴史』を悪い方向に導く存在。言うなれば『反英雄』ですからね。『才能』の使い道を完全に誤った、『偉人』や『英雄』にの末路ですよ。」

「っ・・・!!!」


ドルフォロさんが侮蔑する様に、ニコラウスさんを斬って捨てた。

ニコラウスさんはカッとなって、物凄い形相を浮かべドルフォロさんを睨み付けるが、ドルフォロさんの冷たい視線の前に、思わず口をつぐんだ。

これは、冷たい様だが、ドルフォロさんの意見が正しい。



すでに『神性』の域に達している僕は、ではあるが、『世界の記憶アカシックレコード』にアクセスする事が可能であり、その『力』を頼りにニコラウスさんの“生い立ち”を調

世界の記憶アカシックレコード』は、言うなれば人々の『霊魂』や『精神』の『根源』が、僕らは便宜上『普遍的無意識』と呼んでいるが、であり、そこでは『』を受けないので、すでにこの世界アクエラに存在しない『資料』や『文献』であっても、人々に『』が残っている限り、そこから『情報』を引っ張り出す事が可能であった。

まぁ、眉唾な話かもしれないが、向こうの世界現代地球においても、『現代科学』では『証明』出来ない『事象』を可能とする者は確かに存在する。

あるいは

それが、『魔術』やら『霊能力』やら『超能力』と呼ばれるモノの『正体』であるが、『技術』が進歩すれば、遠い未来には、『科学』でもそれらを『』する事は可能かもしれない。

まぁ、それはともかく。


しかし、一見『チート』染みた『能力』ではあるが、これは非常に危険な『リスク』が存在する。

それが、使い方を一度ひとたび誤れば、『精神の死』が待っている事である。


考えても見て欲しい。

人々の『』とも言える『世界の記憶アカシックレコード』、あるいは『普遍的無意識』は、とてつもない量の『情報量』を持っている。

『パソコン』や『スマホ』などの『デバイス』ならば、その『情報量』を処理しきれずに、所謂『フリーズ状態』や『パンク』で済むかもしれないが、生身の人間がそんな『情報』の奔流に晒されたら、とてもじゃないが『精神』が耐えられないだろう。

結果、『自我』や『人格』が飲み込まれて、『精神の死』を迎えるのである。


それ故に、『世界の記憶アカシックレコード』のアクセスには『資格』や『適性』が必要であり、また、強固な『精神防壁』も必要になってくるのである。

『魔術』では『魔方陣』、『霊能力』ならば長い『精神修養』、『超能力』ならば『脳波コントロール』や『リミッター』などの様に、それぞれ『』を付ける事で、初めてに行使する事が可能なのであった。

まぁ、アクセスする方法さえ分かれば、これは全ての『霊魂』や『精神』を持つ存在と『根源的』にので、ぶっちゃけ誰にでもアクセス自体は可能だ。

ただし、先程の『リスク』を鑑みば、下手に関わらない方が無難だろう。



さて、それではニコラウスさんの事だが、一言で言えば、彼は『

これは、ニコラウスさんが生来、非常に優れた『魔法使い』、『魔道師』になれる『素質』を持っていて、それ故に『』と言う『能力』にまで目覚めたのであるが、運が悪かったのか、タイミングが悪かったのか、『魔法技術』の『失伝』に伴う影響によって、ニコラウスさんはその『力』が原因で、家族や友人を失う事となってしまったからである。

当初は、ニコラウスさんも自身の持つ『力』を忌み嫌った事だろう。


そして、その後は『ライアド教』に拾われ、様々な“”はあったかもしれないが、ニコラウスさんに救いの手を差し伸べた人々も確かに存在した。

しかし、ニコラウスさんはその手を取らなかった。

ここら辺は、人の心が持つ複雑なところで、壊れた『精神』によって、ニコラウスさんは、自分を苦しめた、あるいは受け入れなかった『世界』や『社会』に対する『憎悪』や『猜疑心』を募らせていたからだった。

のほほんと平和に暮らしている(様に見えた)人々に対する、ほの暗い『嫉妬心』もあったのかもしれない。

そして、ニコラウスさんは忌み嫌っていた『力』を逆に利用して、『世界』への『復讐』を開始した。


初めは、些細な“”から始まった。

平和に暮らしている人々が、一時でも自分と同じ『不幸』な『境遇』になる事で、それを眺める事によってニコラウスさん自身の『精神』の『均衡』を保とうとしたのかもしれない。

しかし、それが次第にエスカレートするのは時間の問題だった。

最終的には、ニコラウスさんは自分の手によって、『を恍惚として見る様になったのである。

自分を受け入れなかった『世界』や『社会』が、“”に変わる様は、ニコラウスさんにしてみれば、得も言われぬ『快感』だったのかもしれない。


しかし、当然ながら、やられた方としては堪ったモノではない。

ニコラウスさんの行為は、結局は『負のスパイラル』を増す結果しかもたらさなかった。

『悪意』が『悪意』を呼び、『社会』が『世界』が負の方向へ向かっていったのである。

まさしく、ニコラウスさんは『悪意』の『伝道師』だったのである。


しかし、ニコラウスさんは、ついにはその自身を苦しめた、また自身の拠り所ともなった『』を失う事となった。

遠因は僕の『事象起点フラグメイカー』の『力』もあったかもしれないが、直接的な要因はヴァニタスという謎の少年との接触であった。

このヴァニタスという謎の少年も、ハイドラス同様に警戒すべき相手の様だが、ここでは割愛しておこう。

とりあえず、どうやら直接的に僕らと接触するつもりはない様だしな。


これは、ある意味、ニコラウスさんが悔い改める事の出来た絶好の、そして最終的な機会であった。

しかし、ニコラウスさんは、四肢を失いながらも、己の『悪意』を手放す事はなかった。

その末での、エイルとの邂逅と、『ヒーバラエウス公国この国』をも巻き込んだ歪んだ『舞台劇』を引き起こしたのである。


『復讐』は何ももたらさない、などと綺麗事を今更言うつもりはないが、やるならニコラウスさん自身を裏切った(まぁ、ここら辺は認識の違いもあるかもしれないが)彼の家族や友人をターゲットにすれば良かったのである。

ところが、ニコラウスさんはそこに手を出す事はしなかった。

その心情は分からないが、おそらくは自身の『ルーツ』を完全に失う事を恐れたのかもしれないが、その代償行為として、無関係な人々を巻き込んだ事は擁護出来る事ではない。

まぁ、いずれにせよ、ニコラウスさん自身はそれ相応の『罰』を受ける事となるのだが、それも致し方ない事だ。

それは、ニコラウスさん自身が『選択』した結果なのだから。


「客観的事実としまして、ニコラウスは、その『人間性』や『性質』はともかくとして、非常に優秀な『能力』を有する男でしょう。短期間に『ヒーバラエウス公国この国』の『裏社会』を牛耳った手腕といい、『ヒーバラエウス公国この国』を“”から操っていた事を含めて、ね。全うに生きていれば、それこそ後に『偉人』や『英雄』と呼ばれていたかもしれません。まぁ、あくまで仮定の話ですかね?」


うん、ドルフォロさんも僕と同じ意見か。

何でもそうだが、『力』ってのは使い方次第だからな。

僕らとしては、非常に迷惑な存在であるところの、『ライアド教』にしても、『至高神ハイドラス』にしても、は悪しき存在ではないからな。

まぁ、だからこそ厄介なのだが。


「それに、それはある意味不可能な話です。何故ならニコラウスには、“”、『目的』がない。あるいは、『手段』が『目的』とも言えますが・・・。極論を言えば、彼の“”は『虚無』なのです。そうした意味では、我が弟グスタークやシュタイン候の方が、まだ分かりやすい『目的』を持っているでしょう。」

「「「「「っ・・・!?」」」」」


議員貴族』達の表情は、そんな存在モノがいるのか、って感じだな。

『貴族』達は、『欲』と『損得勘定』とは切っても切り離せない存在だからな。


「もちろん、ニコラウスとて『無欲』ではありません。しかし、彼の『欲』は、究極的には『破滅』や『虚無』が占めており、そうして“何か”が『崩壊』していく様を眺める事が、彼の中での『快感』であり『目的』なのです。我が弟グスタークの様に、己の『力』を認めさせたいと言う『承認欲求』も、シュタイン候の様に自身の『権力』を増大させたいと言う『権力欲』もないのです。まぁ、端から見れば、他者に迷惑をかけると言う意味では、そう違いはないのですがね?」

「「っ・・・!?」」


グスタークさんとシュタインさんも、ニコラウスさんの『異常性』に気付いた様だ。

彼らも『ヒーバラエウス公国この国』の情勢を引っ掻き回したが、さりとて、そこには彼らなりの『目的』が存在した。

しかし、ニコラウスさんにはそれすらない。

ヒーバラエウス公国この国』がどうなろうと、全く持って興味がないのだ。

せいぜい、派手に争ってくれよ、ってところだろうか?

そんな者とも知らずに手を組んだのだろうが、最悪の場合は、『ヒーバラエウス公国この国』をも巻き込んで、盛大に『自爆』していたかもしれないのだ。

それは、うすら寒いモノを感じた事だろう。



「では、この三名が何をしたのか。順を追って説明しましょう。」


そう言って一息吐くと、ドルフォロさんは辺りを見回して説明を始めた。


「皆さんも御承知の通り、『ヒーバラエウス公国この国』では、昨今、『食糧問題』に端を発し、『意見』が割れていました。その中で、とりわけ、『ロマリア王国』の持つ肥沃な土壌と自然豊かな国土を『武力』を持って制圧しようとする『主戦派』と、『軍事的衝突』ではなく、『経済的』・『文化的』交流によって、長らく『国家間』の交流が途絶えぎみだった『ヒーバラエウス公国我が国』と『ロマリア王国彼の国』の国交を正常化させようとする『反戦派』に大別されます。まぁ、その中でも更に細かく細分化されていますので、一概にも言えないのですがね。それに、喫緊きっきんの課題である『食糧問題』の他にも、『歴史問題』や『国土問題』、『地下資源』を巡る問題なども存在します。しかし、先程も述べた通り、モルゴナカル卿や『ザルティス伯爵家』が骨を折ってくれたお陰で、『ヒーバラエウス公国この国』の『国内バランス』は、決定的に一つの『派閥』に傾く事はありません。しかし、そこに“”したのが、誰あろうニコラウスなのです。」

「「「「「・・・。」」」」」


すでに“この場”の者達には、ニコラウスが何かした事は疑問を挟む余地はなかった。

しかし、続くドルフォロさんの言葉に、衝撃が走る。


「もちろん、ニコラウスは『主戦派』を陰ながら支援していたのは言うまでもないのですが、そもそも『主戦派』が声高に『主張』する『武力行使』も、もとをただせば彼が“”事なのです。いつの間にやら、自分達の『主張』であったかの様に『』していますがね?」

「「「「「っ!!!???」」」」」

「えっ・・・!?」

「・・・はぁっ!?」


その言葉に、グスタークさんからは表情が抜け落ち、シュタインさんは呆れた顔をしてドルフォロさんを見やる。

何をバカげた事をコイツは言ってるのだろう?、と言った表情だ。

しかし、ドルフォロさんは気にした風もなく説明を続ける。


「そもそもの『前提条件』として、いくら『ヒーバラエウス公国我が国』の独自に発展した『魔法技術』の優位性があったとしても、局地的な争いならばともかく、『戦争』となると、話は変わって来ます。『戦争』となると、『国力』・『軍事力』・『技術力』等々、様々な『要素』が複雑に絡み合うのですから。歴史的な観点からいっても、非常に優れた『精霊魔法』を持っている『エルフ族』ですら、『ロマリア王国彼の国』の前に破れ去りました。その末で、『奴隷』となったり、『ハレシオン大陸この大陸』から姿を消した経緯があります。これは、『エルフ族』が『国』を持たなかった、すなわち、人口総数が圧倒的に少なかった事が一因に挙げられます。『エルフ族彼ら』の名誉の為に明言しておきますが、『エルフ族彼ら』一人一人が持つ『武力』は、我々『人間族』一人一人が持つ『武力』を圧倒していたにも関わらず、です。それほど、『国力』と言うモノは、重要な意味を持っているのですよ。」


言って、チラッとティーネの様子を窺うドルフォロさん。

ティーネは、それを特段気にした風もなく穏やかな表情を浮かべていた。

彼女は、すでにその『』を受け入れているので、心配は御無用ですよ、ドルフォロさん?


しかし、それは当たり前の話だが、時としてその『』に気付かずに、目を曇らせてしまう事も往々にしてある。


もちろん、『戦術』や『戦略』と言う『概念』も存在するので、一概に言えないのだが、『国力』はやはり重要な意味合いを持ってくる。

『短期戦』ならばその限りではないが、『中~長期戦』となると、どうしても『補給』の問題が出てくるからだ。

『補給』、すなわち、『物資』や『人員』の『補給』である。


生物である以上、栄養の摂取は欠かせない行為だ。

もちろん、病気や怪我によって、戦線離脱せざるを得ない者達も出てくるだろう。

そうした時に、スムーズな『物資』や『人員』の『補給』が出来るか出来ないかで、その後の『戦況』は大きく変わってくる。

『国力』とは、すなわち、『総合的』な『力』の事だ。

『戦争』は、何も『戦場』にいる者達で行われている事ではないのだ。

『食糧』の『生産』に、『武器類』、『医療物資』の『生産』、『人材』の『教育』なんかも非常に重要になってくる。

それが劣る方が、当然ながら不利になるのは道理だろう。


では、『ヒーバラエウス公国この国』と『ロマリア王国』の『国力差』はいかほどのモノだろうか?

人口総数は、圧倒的に『ロマリア王国』の方が上。

これは、元々『ヒーバラエウス公国この国』は『ロマリア王国』から独立した『国』であるから、ある意味当然であると言えるだろう。

『技術力』の観点からは、やや『ヒーバラエウス公国この国』が優勢だが、それも圧倒的な差ではない。

それに、『食糧』に関しては、散々問題視されているほど切迫しているのは周知の通りだ。

そんな状態で『戦争』を仕掛けようなど、すでに正気の沙汰ではないのである。


そうした観点からも、『主戦派』の『主張』は破綻しているのだ。

いくら焦りによる『視野競作しやきょうさく』を起こそうとも、冷静な『反戦派』や『中立派』がいる以上、『主戦派』の“暴走”は止められる、

しかし、結果は『主戦派』の勢力が増大している。

普通に考えれば、何か『特殊』な『力』が作用した事を疑うのが道理であろう。


「不思議に思われませんか?これほどしているにも関わらず、『主戦派』の『主義』・『主張』を信じてやまない人達がいる。『主戦派』の勢力が、ありえないほど増大している。“何か”の『力』が作用したと疑うのが普通でしょう。もちろん、歴史的観点から見ても、後世の人達が鼻で笑うほど愚かな『選択肢』を取る事はあります。しかし、それは『情報』不足がもたらした弊害であり、一概には愚かな『選択肢』であったとも言い難いのです。しかし、この件は違います。明確に『情報』が存在します。『反戦派』や『中立派』、そしてモルゴナガル卿や『ザルティス伯爵家』まで存在します。いくら『影響力』や『資金力』、『情報操作』や『印象工作』を駆使したとしても、ここまで『主戦派』が台頭する事はなのです。しかし、実際には異常なほど『主戦派』に片寄ってしまっています。これは、ニコラウスが持つ、とある『特殊』な『力』によるところが大きいのです。」

「その、『特殊』な『力』とはっ・・・!?」

「それは、『』と呼ばれる『力』です。信じられないかもしれないですが、その『』と呼ばれる『力』は、人々の『精神性』、あるいは“考え方”や“思考の方向性”と言い換えても良いですが、を、操る事が可能なのです。その『力』を使えば、極端な話、非常に善良な人を、次の瞬間には冷徹な殺人鬼に変える事すら可能です。まぁ、これにも色々と『制限』がありますので、これは極端な例ですが、しかし、逆に言うと、『条件』さえ整えば、元々の“考え方”や“思考の方向性”すら変える事が比較的容易なのですよ。」

「ふっ、黙って聞いておればツラツラとデタラメをよく思い付くモノですな、ドルフォロ公太子殿下。そんな都合の良い『力』など存在する訳がっ・・・!!!」

「勉強不足ですよ、シュタイン候?『精神操作系』の『魔法技術』は存在します。『失伝』する以前の『魔法技術』はもちろんですが、『現代魔法』においても、ね。それに、『魔法』に限らず、人々の『精神性』をとある方向にならば、比較的容易です。と、言うか、貴方自身私やグスタークに散々やった事ではありませんか?そう、『』や『』ですよ。」

「っ!!!???」

「っ!!!」

「「「「「っ!!!???」」」」」


そのドルフォロさんの反撃に、グスタークさんは目を見開いてシュタインさんを見やり、図星を突かれて冷や汗を浮かべるシュタインさん。

他の『議員貴族』の人達も、シュタインさんを遠巻きに睨み付けていた。


「な、なんの事だかっ・・・。」

「いえ、言い訳は良いのですよ。『証拠』はすでに上がっているのでね。しかし、そうした普通の『精神操作』や『情報操作』、『思想誘導』に『印象工作』以上に、『』の『力』は強力です。『ヒーバラエウス公国この国』の『主戦派』の台頭も、これが最大の要因となったのです。」

「あぁ~、盛り上がっているところ申し訳ないのですがねぇ?確かに私にはかつて『』と言う『力』をこの身に宿していましたが、この“姿”からも想像出来るかもしれませんが、とっくにその『力』を失っているのですよぉ~。だから、単純に『ヒーバラエウス公国この国』の『主戦派』の台頭も、多少後押しはしましたが、『ヒーバラエウス公国この国』の者達の中には、そうした“愚か者”が一定数いたって事だと思いますがねぇ~?」


ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべるニコラウスさんは、人を小馬鹿にした様な発言で“この場”の人達を煽った。

やれやれ、この人は本当に気付いていないんだなぁ~。

あるいは、都合の悪い事からは、目を逸らすタチなのかもしれないが。

チラリッとドルフォロさんは僕を見やる。

コクリッと僕は頷いた。


「ニコラウスさん、それは違いますよ?確かに貴方の『力』はヴァニタスと言う少年の手によって、が、『』は『アストラル』と密接な関係にありますので、表面上は失われた様に見えても、貴方の『アストラル』に、“残滓”として残っていました。それが、エイルとの『仮契約』を結んだ事で、『限定的』ではありますが『復活』していたのです。確かに貴方は中々優秀な方の様ですが、さりとて、貴方の“手腕”で、『ヒーバラエウス公国この国』をここまで引っ掻き回すのは不可能な事ですからね。」

「・・・・・・は?」

「もちろん、『リスク』も存在します。と、言うか、以前に説明した貴方の『』や『霊力』とか、『存在力』、『オーラ』、『気』とも呼ばれるモノが枯渇したのも、貴方がこの『』を知らず知らずの内に使用していたからですが・・・。その時にも言及しましたが、『力』には必ず『代償』が必要になります。以前の『』ならば、こんな事になる事はなかったのですが、一度失われた『魔眼それ』を『復活』させた為に、貴方にかかる“負荷”が増大してしまったのですよ。まぁ、元々『』は強力な『力』ですが、過去の『所持者』も同様に、しっかりとした『コントロール方法』を身に付けなければ、最終的には『所持者』自身がその『力』に飲み込まれてしまう事があったのですよ。何でもそうですが、『ノーリスク』で強大な『力』を操る事は出来ません。貴方に手を差し伸べてくれた人々の手を取っていれば、状況も変わったかもしれませんが、まぁ、今更言ったとて詮無い事ですがね。」

「う、嘘だっ・・・!!!、デタラメを言って俺を惑わせようとしているのだろうっ!?」


誰も信じられないと言った表情を浮かべるニコラウスさん。

まぁ、彼の“生い立ち”から言えば、それも無理からぬ事だけどね。

あるいは、僕に対する『警戒心』からの発言かもしれないが。


「嘘ではありませんよ?その証拠に、貴方の『眼』は“”に輝いています。これは、『資格』や『適性』が無いのにも関わらず、『世界』の“裏側”に足を踏み入れてしまったり、『世界』の『真理』を覗いてしまった者への、まぁ、『罰』とまでは言いませんが、『痕』みたいなモノです。少し難しい話になりますが、『資格』や『適性』の無い者は、強固な『精神防壁』も持っていませんので、それらへの『』となる自身の『個人的無意識』、自身の『抑圧』された『人格』、言うなれば己自身の『影』に飲み込まれてしまう事があります。まぁ、貴方の場合は、エイルとの関係もあって、そこで『死』を迎える事もありませんでしたが、本来ならば、その時に貴方の『人格』と『影』は、『立場』を入れ換わる筈でした。それもあって、貴方の一部は『影』と置き換わっているので、貴方の『眼』に影響が出たのです。しかし、悪い事でもないのですよ?『影』は貴方が生来持っていたモノを丸ごとそっくり持ち合わせています。違うのは『人格』だけですからね。それもあって、貴方の『』は『復活』したのですから。」

「っ!!!???」


僕の説明に混乱するニコラウスさん。

他の方々は、そもそも何を言ってるかすら分からないのか、疑問符を乱立させていたが、まぁ、これは分からなくとも良い事だ。


「まぁ、我々には何を言ってるか正直分かりませんが、ただ一つ確かな事は、アキト英雄殿によれば、このニコラウスの『寿命』は尽きかけている事です。故に、ある意味では、この一連の『政変クーデター』は最初から失敗に終わる事が確定していたのですよ。もっとも、『ヒーバラエウス公国この国』の『内乱』は避けられない事態だったかもしれませんがね?」

「「っ・・・!!!???」」

「「「「「っ・・・!!!」」」」」


グスタークさんとシュタインさんは、そのに唖然としていた。

彼らは彼らで動いていたのだろうが、さりとてニコラウスさんの『力』に依存している部分も多かった。

ニコラウスさんが倒れれば、少なくとも彼らの『力』は半減するだろう。


もちろん、一度勢いづいた『主戦派』の『主義』・『主張』を覆すのは容易ではないので、例えニコラウスさんが倒れようとも、先程の『悪夢幻影』の様に、グスタークさんが君主となれば、遠からず『独裁者』として君臨した事だろう。

自身の『意向』に従わない者達、『反戦派』や『中立派』の弾圧が始まり、それに反発する『反戦派』や『中立派』、はては『ヒーバラエウス公国この国』の民衆までをも巻き込んだ、泥沼の『内戦状態』に突入していた事だろう。


そうした意味では、ニコラウスさんは“死後”も『ヒーバラエウス公国この国』にある種の『呪い』をかけていたのだ。

まぁ、これは何とか事前に回避したんだけどね。


グスタークさんもシュタインさんも、付き合う人はよ~く選ぶべきですよ?

まぁ、当たり前の話で、それに今更ではあるんですがね?


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