第38話 『ノヴェール家』との『交渉』



◇◆◇



「『掃除人ワーカー』、ですか?」

〈ああ、ガスパールの旦那のトコのフェルマンさんからの『情報』で、どうやら凄腕の『掃除人ワーカー』チームを御曹司が差し向けたみてーでよ。アキトも注意してくれや。〉


『冒険者ギルド』を出て、『鍛冶職人』の方達の所に向かっている時に、ドロテオさんから『通信石つうしんせき』に連絡が入った。

それに気付いた僕は、『携帯電話』や『スマートフォン』の着信時の様に、皆から距離を置いてそれに応答する。

ちなみに、ダールトンさんにも『通信石つうしんせき』を渡してある。

ドロテオさんは、そちらにも連絡した様子だ。


「てか、『掃除人ワーカー』って何ですか?」

〈おおっ?そう言えばそうか。時々アキトがまだ10歳なのを忘れちまうからよ。えっと、『掃除人ワーカー』ってのは、『冒険者』からのドロップアウト組の連中でよ。まぁ、大抵そういうヤツらは、盗賊とかに堕ちちまうんだが、中には、『ギルド』を通せない様な『汚れ仕事』や『裏の仕事』を高額で請け負う『裏の冒険者』みたいな連中も出て来る訳よ。で、そいつらの事を『冒険者』と区別する為に便宜上『掃除人ワーカー』って俺らは呼んでるのよ。〉

「はぁ、なるほど。つまり『殺し屋』みたいな人達って事ですか?」

〈そういう連中もいるぜ?まぁ、『掃除人ワーカー』も“ピンキリ”だから、一概には言えないがな。既存の『ルール』や、『ギルド』に馴染めなかった腕の良い連中もいるし、それこそトラブルばかり起こすイカれた連中もいる。中にゃ、『殺人』に『快感』を感じちまったアブナイ連中もいるしなぁ~。〉


どこの『社会』にも『アウトロー』はいるからなぁ・・・。

しかし、まさか『殺し屋』に狙われる事になるとはねぇ。

普通なら、狼狽したり不安に思ったりするのだろうが、は自分でもびっくりするくらい冷静である。

ふ~ん、くらいの感覚だ。

これでも、それなりに『修羅場』を潜って来ているし、『レベル』的にも『スキル』的にも、その『掃除人ワーカー』チームがそれこそ『S級冒険者』クラスでなければ、『脅威』にすらならない。

確かに、その『殺人』を平気で犯す心理は怖いとは思うけど。


「分かりました。それとなく注意しますよ。『情報』ありがとうございました。」

〈おうっ!ま、アキト達なら大丈夫だとは思うが、一応な。しかし、御曹司にも困ったモンだな。〉

「そうですねぇ・・・。確かにこちらも、多少は『脅し』も含んでいましたが、『交渉』ですから当然だと思うのですけどねぇ。ま、フェルマンさんの言う通り、ジュリアンさんが正確に『情報』を理解していない可能性もありますけどね。彼は今、王都『ヘドス』にいる訳ですし。」

〈そーだなー。ま、そっちはガスパールの旦那に任せようや。俺らの『管轄』じゃねぇしよ。〉

「それが良いでしょう。介入するのは容易いですが、僕らも『ノヴェール家』をツブしたい訳じゃありませんしね~。」

〈そうだな。ま、そんな訳だ。んじゃ、気を付けろよ。〉

「はい。ではまた。」


通信を終え、僕は『通信石つうしんせき』を切る。

そこに、アイシャさんとティーネが近付いて来た。


「なんだったの~?」

「ちょっと、ドロテオさんからの連絡でね。どうやら、僕は『掃除人ワーカー』って人達から狙われてるらしいよ?」

「狙われてるって、主様あるじさまのお命を、って事ですかっ!?」

「シッー!声が大きいっ!ドニさん達に聞こえちゃうでしょ?」


驚きの声を上げるティーネに、僕はヒソヒソ声で注意する。


「こ、これは、失礼しました。しかし、主様あるじさま、なぜその様な事に・・・?」

「『ノヴェール家』のジュリアンさんが雇ったみたいだね~。それを察知したガスパールさんが、フェルマンさんを通して、ドロテオさんに『情報』を提供した様だ。で、それが今僕にも連絡が入った。」

「ジュリアン?ああっ、あの下衆ゲス跡取り息子ですかっ!?では、すぐに抹殺に向かいますねっ!!」

「まてまてまてっ!ティーネ達の気持ちを考えると分からない発言じゃないけど、頼むから自重してくれよ。折角『リベラシオン同盟』なんて面倒な『組織』を立ち上げたのに、全てパーになっちゃうじゃないか。」

「しかしっ!」

「まぁ、聞いて。ジュリアンさんは王都『ヘドス』にいるから『情報』が正確に伝わってない可能性もある。いずれにせよ、確認するのも処罰するのも『ノヴェール家』の仕事だ。僕らが介入するのは簡単な話だけど、それじゃあ“この関係”も破綻してしまうし、そうなると『ロマリア王国この国』に根強く残る『奴隷制度』を一掃する事も難しくなる。もう少しで『エルギア列島』の『エルフ族』達や『ハレシオン大陸この大陸』の『エルフ族』達に朗報を届けられるんだからさ。」


怒りの表情に綺麗な銀髪まで逆立てたティーネも、徐々に冷静さを取り戻した。

エルフ族ティーネ達』の気持ちを考えると心苦しいが、事は『』の話にまで発展する問題だからな。

それに、ティーネ達には穏やかに過ごして貰いたい。

これまで『仲間』として過ごして来たので、もはや『情』も湧いている。

美男美女揃いの彼らには、出来れば笑顔でいて貰いたいモノだ。

特にティーネの顔立ちは僕の好みだし、凛とした表情も良いが笑顔が可愛くて良いよねぇ~。

おや、先程まで怒りの表情をしていたティーネの『エルフ耳』が垂れ下がり、恥ずかしげに赤面している。

どうしたのだろうか?」

「・・・///。」

「アキト、アキト、考えが声に出てるよ?」

「おおっ!?つい昔の『癖』がっ!?」

「・・・昔?」

「あっ、いえ、ナンデモナイデスヨ?」


いかんいかん。

『前世』で散々やらかした『癖』が出るとは・・・。

よく分からんが、最近『アキト・ストレリチア『この身体』』と『西嶋明人『魂』』が妙な所で馴染んだのか、出なくても良い昔の『癖』なんかも出る様になった。

これも何かの『前触れ』なんだろうか?


「ま、まぁ、そんな訳(どんな訳だ?)だから、ね?いずれにせよ、フロレンツ侯は『処罰』を受ける事は確定しているのだし、それで良しとしてくれないかな?」

「わ、分かりました。主様あるじさまのお心のままに・・・。それと、仰って下されば、ゴニョゴニョ・・・。」

「んっ?」

「ストーップ!アキト、ちょっとタイム。」

「えっ?う、うん。」


恥ずかしがりながらも、何やらゴニョゴニョと言っていたティーネの様子に、アイシャさんがストップを掛けた。

ニッコリと微笑みながら、ティーネを連れて僕のそばから離れた。

何か、怖いんだけど・・・。


「ティーネっ!ちょっとズルくない?抜け駆けはダメだよっ!」

「い、いや、アイシャ殿。そんなつもりは・・・。」

「いや、別にアプローチするのは全然良いんだけど、アキト、まだ10歳だからさぁ。今の内からポイントを稼ぐのは良いけど、直接的なのはダメだよ?に行ってもアレだし・・・。まぁ、アキトがどうしてもって言うなら、私も考えるけど・・・。」

「アイシャ殿、アイシャ殿。話がずれています。しかし、そうでしたね。油断しておりました。不意討ち気味に主様あるじさまからお言葉を頂いたので、少し暴走してしまった様です。最近の主様あるじさまの『雰囲気オーラ』はちょっと危ないですね。」

「そ~だね~。折角『仮面』の件を(無理矢理)了承させたけど、焼け石に水かもしれないね~。何もしないよりかは、大分マシだけど・・・。」

「リーゼロッテ殿もかなりアヤシイですし、我々ももう少し注意する必要があるかもしれませんね。」


ヒソヒソと、アイシャさんとティーネは話し込んでいる。

その様子に、訝しげな表情をしながらリーゼロッテさん達が近付いて来た。


。アイシャちゃんと、ティーネさんはどうしたの?」

「さぁ、何でしょうね?」

「なぁ、早く行こうぜ~!?」


待ちくたびれたアランくんが不満気にそう言った。

エレオノールちゃんに至っては、シモーヌさんに抱かれながらウツラウツラしているし・・・。

う~ん、どうしたモンか。

てか、『掃除人ワーカー』の件は、僕らは良いが、ドニさん達には被害が出ない様にしないとなぁ~。

アイシャさんとティーネの『相談』が終わるまで、僕はそんな事を考えていた。



□■□



『リベラシオン同盟』とは、僕・ダールトンさん・ドロテオさんが『中心』となって発足した『組織』である。

『ダガの街』駐在の『騎士団』・団長、クロヴィエさんへの『メッセージ』にも記した通り、


1、ロマリア王国の腐敗の根絶

2、『人身売買』の根絶


を掲げ活動をしているが、それは表向きの事で、本当の目的はロマリア王国の『後ろ楯』を得る事である。

と、言うのも、『リベラシオン同盟』の『最終目的』は、『ライアド教・ハイドラス派』の壊滅、は流石に現実的ではないが、その『力』を削ぐ事にある。

しかし、残念ながら、ニルと『失われし神器ロストテクノロジー』・『召喚者の軍勢』を取り逃がした僕は、『ハイドラス派』が庇護を求めて『ロンベリダム帝国』へと撤退したと予測している。

それを裏付ける形で、『ロマリア王国この国』から『ライアド教』の『影響力』は、徐々に低下している様子である。

その一方で、どうやら『ロンベリダム帝国』は最近キナ臭い政治情勢の様で、風の噂でそうした『情報』も漏れ聞こえてくる。

もはやのんびりと構えている事も出来ないので、ここらで積極的に介入すべく、『リベラシオン同盟』発足とあいなったのだった。

しかし、そうなると『実績』と『橋渡し』役が必要になってくる。

『実績』に関しては、僕・アイシャさん・ティーネ達の『武力』・『技術』があればどうとでもなるが、『橋渡し』役となると、どうしても『貴族』の『協力』は必要不可欠であった。

いくら『発言力』や『力』があるとは言え、ダールトンさんもドロテオさんも『平民』である。

そうした者達『平民』が、『ロマリア王家』に対して『建議』した所で、軽くスルーされる事は目に見えている。

そこで『白羽の矢』が立ったのが、フロレンツ侯であった。

フロレンツ侯は、『ロマリア王国この国』でもかなり『影響力』のある『貴族』であるらしい。

まぁ、ティーネ達からしたら『同胞』を苦しめていた『元凶』の様な存在なので、嫌悪感がモロに出てしまうのは否めないし、僕の印象でも、言うほどの『人物』ではないと思うのだが、一般的には『利用価値』がある様だ。

ダールトンさんとドロテオさんには諸々の事情で隠していたが、僕はフロレンツ侯の『罪』を二人に明かし、それを『利用』する事を提案した。

と、言ってもフロレンツ侯は既に『隷属の首輪』により、僕の『支配下』に置かれている。

言うなれば、彼を思いのままに操る事は可能なのだが、それだと僕らだけでは『貴族社会』に疎い為、ボロも出てしまうだろう。

そうして『相談』の末、フロレンツ侯の母体たる『ノヴェール家』と『交渉』する事としたのだった。



『ノヴェール家』は、フロレンツの生家であり、ロマリア王家とも遠縁の親戚関係にある『名家』である。

『トラクス領』をのが『ノヴェール家』であり、フロレンツも、『現領主』ではあるが、王都『ヘドス』にて『中央政治』にも関与していた関係で、実際の『領地運営』をしていたのは、彼の甥であり、弟子でもあった『代官』・ガスパールだった。

また、フロレンツはで、まだ『家督』を息子のジュリアンに譲ってはいないが、フロレンツに代わりジュリアンも既に『中央政治』にて頭角を現しており、『世代交代』を内外に印象付けている。

その日も、フロレンツは『別宅』のある『シャントの街』の屋敷にて半ば隠居生活の様な形であり、『トラクス領』の中央都市・『ルベルジュ』の『本家』に詰めていたのはガスパールであった。


「ガスパール様、『ルダ村』の村長、ダールトン・トーラスが面会を求めていますが、いかがいたしますか?」

「ダールトンが?今日は面会の予定はなかったハズだが・・・。」


ガスパールの秘書兼執事であるフェルマンにそう切り出され、ガスパールは訝しげな表情をしていた。

ガスパール、フェルマン、そしてダールトンは同世代である。

ダールトンは『平民』であるが、その政治手腕はガスパールも高く評価している。

特に、『ルダ村』は『トラクス領』一番の『稼ぎ』のある村だ。

そうした関係で、『貴族』・『平民』の壁を越えて、多少なりとも付き合いがあった。

しかし、ダールトンが『出来る男』である事を知るガスパールは、彼がアポもなしに訪ねて来た事に違和感があった。

それ故、ガスパールは訝しげな表情をしたのだった。


「門番に『コレ』をガスパール様に渡す様に、と。それと、オレリーヌ様も出来れば同席してほしいとも。」

「何をバカな事を・・・。ダールトンめ、働きすぎで頭がおかしくなったのか?彼に倒れられると私も大変なんだがねぇ~。」


フェルマンを介したダールトンの主張を一笑に付しつつ、フェルマンから『封蝋ふうろう』された『書簡』を受け取るガスパール。

手慣れた様子で開封し、ガスパールはサッと流し読みしていたのだが、徐々に顔色が青ざめていった。

姿勢を正し、『書簡』を熟読するガスパールの様子に、今度はフェルマンが訝しげな表情をする。


「ガスパール様?どうされたのですか・・・?」

「フェルマン・・・。『コレ』は開封して中身をあらためてはいないな?」

「はっ?え、ええ。『封蝋ふうろう』もされておりましたし、『門番』にもガスパール様が直接開封する様にと念押ししておりましたから・・・。何か、問題が御座いましたか?」


フウッと一息吐き、ガスパールは安堵の表情をする。


「いや、それで問題ない。すぐにダールトンと会おう。伯母上にも最優先でこちらに来て頂ける様取り計らえ。それと、私兵を詰めさせておけ。『』の方にな。」

「はっ・・・!?か、畏まりましたっ!!」


フェルマンは驚いた表情になったが、ガスパールの様子にすぐさま執務室を出て行った。


「ダールトンめ、どういうつもりだ・・・?いや、それよりも、どの様にしてを手に入れたのか・・・。場合によっては、惜しい男を失う事になるな・・・。」


フェルマンが出て行き、ガスパールは椅子に深く腰掛けながら考え込む。

机の上には、アキトがフロレンツから諸々の『重要資料』の『写し』が広がっていたーーー。



「アキトくんも大胆な手段に出るよねぇ・・・。」

「俺ぁ、オメーが恐ろしいわ。『敵』でなくて、ほっんと良かったぜっ!」

「残念ですが、『権力者』なら誰でも『後ろ暗い』事の一つや二つはあるモノですからね。僕としても、あまりこういう手段は取りたくないのですが・・・。」

「まぁ、君の言いたい事は分かるがね?本来ならそんな『重要』な『証拠』自体入手するのは極めて困難な話だ。ほとんど不可能に近い話なんだよ?」

「まぁ、普通ならそうでしょうね~。」

「『S級冒険者』クラスの連中なら何とか出来るだろーが、そもそも『冒険者ギルド俺ら』も『貴族』連中に喧嘩売るつもりはないし、そもそも『メリット』がない。それに、基本的に『冒険者』の連中は『政治』にゃあまり関心がないしなぁ~。」

「僕だって本来なら『政治』に関わるのは遠慮したいんですよ?面倒事が多いですからねぇ~。しかし、今回の場合は仕方ありませんよ。『ハイドラス派』の事もありますが、まずは『』を回避しなければなりませんからね。」

「まぁ、そうだね・・・。」

「しかも、『人間族』側がやらかした事が『発端』なんてのは確かに恥ずかしーわな。俺も自由な身だったら、『エルフ族』側に加担してぇくれーだからな。」


『ルベルジュ』の『ノヴェール家』の屋敷の前で、僕らはガスパール氏からの返答を待っていた。

まぁ、ガスパール氏もダールトンさんを介した僕の『書簡』を無視する事は出来ないだろうけど。

向こうとしたら、『脅し』の様に感じるだろうが、まずは『交渉』のテーブルにつかせる事が大事である。

やってる事は、ある意味『脅迫』であるし、ニルがフロレンツ侯にした事に似ているが、使える手段は使うのが僕のスタイルである。


「お待たせ致しました。ガスパール様がお会いになるそうです。」


そうこうしている内に現れたのは、立派な身形の四十代ほどの紳士だった。

確か、ダールトンさんの『情報』によれば、フェルマンさんと言った筈だ。


「おお、それはありがたい。突然の来訪を快く迎え入れて頂き、ガスパール様に感謝を。」


先程とは打って変わって、ダールトンさんは真面目な顔でそうのたまった。

流石にこういう『腹芸』は上手いモノだ。


「それでは、こちらへどうぞ。」

「フェルマン殿、少しお待ちを。私のはどちらで待機させればよろしいですかな?」

「おおっ、そうでしたなっ!では、お連れの方達は、『中庭』でお待ち下さい。お茶も用意させますので・・・。」

「重ね重ねありがとうございます。聞いての通りだ。君達は、『中庭』で待機している様に。」

「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」


馬車を『中庭』に移動して、をそこに待機させる。

フェルマンさんは、ダールトンさんを伴い、屋敷の奥へと向かって行った。

もちろん、僕とドロテオさんも一緒だが、フェルマンさんや他の警備兵達には


「いやぁ~、すげぇモンだな、『魔法』と『結界術』の応用技術ってのは・・・。」

「ドロテオさん、事前にも言いましたけど、あんまり大きな声は出さないで下さいね?」

「大丈夫だ。流石の俺も、状況は弁えるっつーの。」


ヒソヒソと話しながら、ダールトンさんの後ろに続く僕とドロテオさん。

ダールトンさんには僕らの『存在』は知覚出来るが、彼は一切反応しない。

なかなかの『演技力』である。


「さてはて、向こうはどう出る事やら。」

「まぁ、大方予想は付きますけどね?そうなる様に『仕向けた』のは僕らですが・・・。」


豪華な屋敷の中で、一際『権威』を誇示している部屋にダールトンさんは通された。

おそらく、『応接室』だろう。

ここに来るまでにも、『ダンスホール』やら『ラウンジ』やらが多数あったが・・・。

シュプールウチ』もそれなりに広いが、ここは『シュプールウチ』の比ではない。

どこの『超高級ホテル』だろうか?

いや、行った事も泊まった事もないんだけどねっ!


「あ~、いますね~。おそらく、『隠し部屋』でしょう。」

「予想通りだな。」

「ええ、特に問題はありませんよ。」


ダールトンさんと並んで、『応接室』に入る僕とドロテオさん。

僕はすぐに複数の『気配』を察知したが、その『姿』を見つける事は出来なかった。

それ故、『私兵』を『隠し部屋』に待機させていると予想した。

まぁ、『書簡』の『内容』が『内容』なだけに、当然の対策と言えるだろう。


「やあ、よく来たね。」

「こんにちは。」


四十代くらいの高級そうな身形の男性と、同じく四十代くらいの貴婦人が優雅に挨拶をしながら、ダールトンさんを迎え入れた。


「これは、ガスパール様、オレリーヌ様。ご無沙汰しております。今回は、突然の来訪にも関わらず迎え入れて頂き、感謝の念に堪えません。」

「何、私と君の仲ではないか。『友人』が訪ねて来たのを『門前払い』するほど、私は冷たい人間ではないよ?」


少し芝居がかった大袈裟な仕草をするものの、なかなか様になっている。

貴婦人の方も、ガスパールさんの様子にコロコロと笑う。

二人とも、なかなかの『役者』の様だ。


「さあさあ、座りたまえ。今回は『私的』な面会だ。本来なら侍女メイドに給仕させるのだが、伯母上が手ずから入れてくださるそうだよ。もっとも、お茶やお茶菓子は彼女達が用意してくれた物だがね?そういう訳だから、私達だけで『お茶会』を楽しもうじゃないか。」


ガスパールさんがそう言うと、フェルマンさんや侍女メイドの皆さんはサッと下がって行った。

『統率』もとれている様だな・・・。

僕はガスパールさん達の評価を上方修正する。

ちなみに、わざわざ僕が『魔法』と『結界術』を使ってまで所謂『透明人間』状態になっているのは、『ノヴェール家』、と言うか、ガスパールさんやオレリーヌさんの『人物像』を見ているのだ。

と、言うのも、僕も噂では『有能な人物』として聞いていたフロレンツ侯がだったからだ。

いや、一応フォローをしておくと、フロレンツ侯も『為政者』や『ビジネスマン』として見た場合は確かに『有能』なのだろうが、それ故に他者を見下した面があった。

『自信』を持つ事は大事だが、どれだけ『力』のある者でも、一人で出来る事はたかが知れている。

結局は、『権力者』とは『人材』をいかに使いこなすかに懸かっていると言っても過言ではない。

『ノヴェール家』を、『地球』に置ける『近代』の『企業』として考えると分かりやすいだろうか?

言うなれば、フロレンツ侯は典型的な『ワンマン経営者』タイプだった。

はそれでも良かったかもしれないが、の事を考えるとそのタイプの人とは手を組めない。

故に、『ポスト』フロレンツ侯として名の挙がっているガスパールさんの『能力』や『人となり』を直接観察しておこうと言う訳である。

一応、正式な『後継者』はジュリアンさんなのだが、『実権』を握るのは当分の間はガスパールさんになるだろうからな。


「さて、ダールトン。いったいどういうつもりだ?」


家人が立ち去った後、ガスパールさんは鋭い眼光を向け、ダールトンさんにそう告げた。


「お前が『優秀な人物』であると私は思っている。それ故に、なぜお前が『ノヴェール家』を敵に回す様な『手段』を講じたのかが分からんのだ。」

「それについては、まずは謝罪を。『お話』をさせて頂きたいが為に、いささか強引な『手段』であったと私も思っております。しかし、ガスパール様。それにオレリーヌ様。は別に『ノヴェール家』と敵対したい訳ではありません。むしろその逆。『ノヴェール家』にとっても悪くない『お話』をさせて頂きたいのですよ。」


ガスパールさんは、何かを言いたそうな表情をしたが、それを一先ず飲み込んだ。

とりあえず、ダールトンさんの『話』を聞いてみる事にした様だ。

オレリーヌさんも、先程とは打って変わって、『貴婦人』から『女傑』の顔に変わっている。

どうやら、この二人なら『交渉相手』としては申し分なさそうだな。

何はともあれ、意味もなく喚き散らすと言う事はなさそうだ。

フロレンツ侯は、『』だったからなぁ~。


「続けたまえ。」

「ありがとうございます。ですが、その前にご紹介しておきましょう。私の『友人』で『仲間』の彼らを。」


打ち合わせ通りダールトンさんが合図を送る。

それを見て、僕は『透明人間』状態を『解除』した。


「なっ!?」

「まぁっ!?」

「お初にお目に掛かります、ガスパール様、オレリーヌ様。アキト・ストレリチアと申します。」


目を丸くして驚くガスパールさんとオレリーヌさんを前に、僕とドロテオさんは出来るだけ丁寧に挨拶をしたのだったーーー。


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