第27話 クロとヤミの『国盗り物語』 5 ~灰色の決着と、動き出した歯車~
◇◆◇
「・・・お久しぶりですね、シルウァ。息災でしたか?」
「・・・女神アルメリアよ。
「フフッ、そうでしたね。」
『シュプール』の『封印』された秘密の地下の一角。
アキトも知らない、『古代魔道文明』の『遺跡』にて、アルメリアは、ぼやけた幽霊の様な『白狼』の影と対面していた。
彼女達の前には、『
「・・・それにしても、素晴らしい『強さ』を持った若者達を育てたモノですね。現在の『ボス』・ジンも歴代では1・2を争う『猛者』ですが、この
「別に
「何、それは、
彼女達の会話の最中も、クロとヤミの『高レベル』の戦闘は続いている。
『魔獣種』ならではの、ハイスピードの攻防。
50m四方の『
それが絶え間無く続き、見る者によっては、それは『戦闘』と言うより、『舞い』の様な優雅で美しさすら感じるモノだっただろう。
『白狼』達は、その『舞い』にすっかり魅了されていた。
「ええ、分かっていますわ。『白狼』達の社会性は高い。『群れ』を率いるのは、まだ
「ご理解頂けて何よりです。将来的には、そうですね、2・3年の間には、彼ら
彼女達の会話の間に、『スクリーン』は別の画面に切り替わった。
映し出されたのは、アキトとその仲間達だ。
「『彼』が『
「ええ。『彼』の出現で、『神々』の動きも活発になりましたからね・・・。
「・・・ほう。」
画面の向こうのアキトは、クロとヤミの対戦を詳しく仲間達に解説していた。
アルメリアは、そんな彼を慈しむ様に眺め、シルウァに向き直った。
「それと・・・。」
「?」
「『彼』は『あの方』と
「なるほど。・・・女神アルメリアも、『彼』に惹かれているのですね?」
アキトを語るアルメリアの様子に、シルウァは『魔獣種』ゆえに率直な私見を述べた。
すると、急に顔を赤らめたアルメリアは、慌てふためき言葉を紡ぐ。
「うぇっ///!?い、いえ、
「そうですか・・・。女性が『強者』に惹かれるのは『自然』の摂理。何も難しく考える事はありますまい。『彼』が『全て』に終止符を打てるのなら、『彼』はそれ程の『存在』と言う事なのですから。」
シルウァは、大きく頷き、アルメリアは赤面しつつも、小さく頷いた。
「さて、それでは私はそろそろ『白狼』達に『介入』せねばなりません。今回は『力』もかなり『消耗』してしまいましたから、次はいつお会いできるか分かりませんが・・・。まぁ、将来的な『布石』を打てたのですから、意義のある『消耗』ですが・・・。」
「やはり、また『眠り』につくのですね・・・。
「ええ、いずれまた・・・。」
『アストラル体』であるシルウァには、無用な心配だが、アルメリアの言葉に今度は突っ込む事はなかった。
シルウァは、小さな笑い声を上げ、その場から
「・・・さて、これで『魔獣の森』は大丈夫っスかね~?アキトさんの後顧の憂いは消しておかないと、心優しい彼は前に進めないっスからね~。これからも
アルメリアは、『スクリーン』に映るアキトに向けて、そう呟いたのだったーーー。
◇◆◇
クロとヤミの戦闘は、すでに10分以上経過していた。
本来なら、いくら『強者同士』の対決でも、もっと早く決着が着く。
しかし、『魔獣種』特有の『持久力』に加え、
「ワンッ、ワンワンッ(す、凄ぇ・・・。『白狼』とは、ここまで強くなれるモノなのか・・・?)」
ノルド達各『グループ』の『リーダー』も、2匹の対決を固唾を飲んで見守っていた。
「ワウッ、ワウワウッ(今の所、お互いに膠着状態の様だな。ワシらではとても防げない攻撃の応酬なのに、まだまだ余裕すら感じる。)」
「ガウッ、ガウガウッ(お互いに相手の動きを知り尽くしているのだろう。・・・切り崩す隙を窺っているのではないか?)」
「ワォーンッ、ガウガウッ(とは言え、とんでもない『集中力』と『持久力』だぞ?普通ならそのバランスが崩れ、ミスが出るから、これほど長時間戦う事は、例え『訓練』であってもありえない事だぞ?)」
「ワォーンッ、ワンワンッ(それほど、彼らの『実力』は『高レベル』かつ『拮抗』していると言う事だろう。)」
一方、当の本人達は、ひたすら『機』を窺っていた。
『リーダー』達の指摘通り、2匹の『実力』は『拮抗』している。
しかし、いくらクロとヤミが双子とは言え、その時の状況によってその『力』は変動するので、当然微妙な『実力差』が出てくる。
なので、かつて対戦した時は、もっと早く決着が着いた。
しかし、今回は、かつてないほど彼らの『力』に差が無く、双子ゆえにお互いのクセも知り尽くしているので、決着が中々着かないでいた。
そうなると、持久戦かつ我慢比べの様相を呈してくる。
どちらが先にミスをするか。
そう言った勝負になってきた。
しかし、そこへ、突如として『降臨』した存在があった。
『祖霊』・シルウァである。
ーそこまで。クロ、ヤミ、対戦を
『ボス』・ジンが語った様に、シルウァは光輝く『白狼』の姿をしていた。
いつの間にか、『
「ワォーンッ、ワウワウッ(『祖霊』よ。まだ『選定の儀』は終わっておりませんが・・・。)」
ーええ。分かっています。しかし、ここでこの
「ワォーンッ、ワウワウッ(はっ?と申しますと?)」
この中で、唯一『祖霊』との面会経験のあるジンが会話を繰り広げていた。
他の者達は、ただ黙ってその経緯を見守っている。
ー今回の『異変』により、私は将来的に『
「ワォーンッ、ワウワウッ(それは存じております。その一環として、『追放』したクロとヤミを呼び戻したのはわたくしですから・・・。)」
ーええ。他の者達も素晴らしい『強者』でしたが、クロとヤミの『強さ』はまさしく桁違いでした。私に取っても、嬉しい誤算です。他の者達も、いまさらこの
各『グループ』の『リーダー』を始め、『白狼』達は次々に頷いた。
「ワォーンッ、ワウワウッ(それはそうでしょう。わたくしの『全盛期』すら越えておりますよ、この2匹は。それに、何の問題が・・・?)」
ジンは、クロとヤミの『実力』を正確に理解していた。
彼らのどちらかが自分の後を継ぎ、新たな『ボス』になるのは、確定事項だと感じていた。
ー確かに『強さ』は申し分ありません。しかし、
「ワォーンッ、ワウワウッ(仰る事は分かりますが、それは『ボス』となってから学んでも良いのでは・・・?)」
ー・・・いえ、それではやはり困ります。
「ワォーンッ、ワウワウッ(な、なるほどっ!確かに、あるかもしれませんな・・・。)」
ー大抵の事はこの
『祖霊』・シルウァは、一息付くと、今度はクロとヤミに向き直った。
ー故に、クロ、ヤミには、『ボス』・ジンの『後継者』として、ジンや各『グループ』の『リーダー』の元で『修行』する期間を設ける事を提案致します。と、同時に、
その発言に、『白狼』達はにわかにざわめく。
と、クロとヤミが顔を見合わせた後、言葉を発した。
「ワンッ、ワンワンッ(僕らはそれで構いません。)」
「ガウッ、ガウガウッ(正直、ジンさんの『統治能力』と『カリスマ性』には、まだまだ届かないと思いますし・・・。)」
それを受け、『祖霊』・シルウァは、またジンに向き直った。
この場の決定権は、『ボス』たるジンの手に委ねられた。
「ワォーンッ、ワウワウッ(・・・わたくしは正直年老いた『ボス』です。クロやヤミは元より、各『グループ』の『リーダー』にも今現在は敵わないかもしれません。・・・しかし、皆が認めてくれるなら、この偉大なる2匹の『王』を育てる栄誉を賜れるなら、今しばらく『ボス』でいたいと、そう感じております。)」
ー・・・では、その様に。私の提案を承けて頂き、感謝します。ー
その決定に、『白狼』達の『遠吠え』による歓声が響き渡った。
皆が、その決定を支持している証である。
ジンは、『ボス』として、皆の前に立つと、力強い『遠吠え』を発し、皆を鎮めた。
「ワォーンッ、ワウワウッ(聞けっ、我が『同胞』達よっ!ワシは、今この時より、この偉大なる2匹の『王』を育てる栄誉を賜ったっ!しかしっ、皆に取ってもこれは良い機会だっ!
「「「「「「「「「「ワォーンッ、アォーンッ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
ジンの『遠吠え』の後、『白狼』達の『遠吠え』が重なる。
ここに、広大な『魔獣の森』、その深部の『森の主』たる『白狼』達に、新たなる歴史の幕が上がった。
後に、『偉大なる白狼の黒双王』と呼ばれるクロとヤミ、そして、盟友にして高弟となる『四天王』・ノルド、ヴェスト、オスト、メディオ、『魔獣王』・ジンとその『懐刀』・ズュードと言った『猛者』達が今集結したのだったーーー。
◇◆◇
「・・・ふむ、なるほど・・・。」
僕達は、クロとヤミの対戦中に、突如として『降臨』した『祖霊』を目撃していた。
「っ!あ、あれは何者なのでしょうかっ!?」
ティーネは、『祖霊』を視認し、そう声を上げた。
他の皆も、一様に驚きの表情を浮かべている。
その中で、僕だけは、何か
「・・・おそらく、今回の『ボス』争いは一種の『パフォーマンス』だったのだろう。追放した『黒狼』であるクロとヤミを『白狼社会』に受け入れさせる為、また、
ー・・・それで概ね間違いではありませんよ。ー
僕が、皆に自分の考えを述べていると、いつの間にか『祖霊』が僕達の近くに顕れた。
アイシャさんと、『
「何者かっ!」
「「「「「「っ!」」」」」」
「皆、大丈夫だよ。
ーいえ、良いのです。『
「いえ、『
ー私は、シルウァ。突然の来訪、ご容赦下さいね。ー
「いえ、勝手に覗いていたのは僕達の方ですから。それに、
ー・・・その事にもお気付きでしたか。ー
「ええ、『アストラル体』である『神々』は、本来『実像』を持たないハズ。『
ーそこまでお分かりならば話が早い。私が『顕現』していられる時は短いので、手短に用件を済ませましょう。ー
「・・・何か
ー・・・それを私の口から伝える事は出来ません。『
「ふむ、どうやら『神々』も思ったより『不自由』なのですね。」
ー
「・・・分かりました。」
まぁ、
『交渉』に置ける『
僕自身も、実はよく分かってないのだが、この間の『
今回のクロとヤミ、そして、『白狼』達と『祖霊』もその一環なのだろうか?
ーそもそも、今回、『
閉塞しがちな『白狼社会』に、『同族』だが、『黒狼』であり、かつ桁違いの『強さ』を持つ
その試みはある意味成功しました。
多くの『白狼』達は、すでに
しかし、私の想定以上の『強さ』故に、今回は『ボス』とする事を見送りました。
絶大な効果と共に、
故に、『ボス』としての『群れ』合流ではなく、『後継者』としての『群れ』合流とする事としました。
これにより、クロとヤミは『白狼社会』を学び、他の『白狼』達は
ふむ、ここまでは僕の想定内の内容だな。
ただ、その『
クロとヤミを『群れ』に加え、『白狼』全体の『レベル』の底上げをするなど、
と、言う事は、『
『祖霊』の眠る大樹に『像』、ニルが持ち去った『召喚者の軍勢』に、それが発掘された『遺跡』・・・。
それらの事を考えると、『
まぁ、『祖霊』は質問を受付けられないと言ったので、答えてくれはしないだろうが・・・。
やはり、ニルとフロレンツ候が発掘させた『遺跡』を詳しく調べる必要がありそうだな。
ー・・・聞きたい事は色々あるでしょうが、私の『
「っ!!・・・分かりました。謹んでお受けしましょう。」
まるで僕の考えを読んだ様な答えで、僕の『仮説』は正しいのだと理解した。
しかし、いずれにせよ、『真実』とやらには、自力で到達しなければならないらしいが・・・。
ぼんやりとそんな事を考えていると、『祖霊』の『身体』が光の粒となり、薄れていった。
ーさて、もう時間の様です。私が言った『
最後に
アイシャさんや、『
「・・・アキト・・・。」
「・・・
やはり、『
昔、アルメリア様が僕に語った様に、『英雄』が平穏無事には過ごせないのだろう。
しかし、今はそれも
これも『英雄の因子』の影響なのだろうか・・・?
・・・いや・・・。
不安そうな表情の皆に笑顔で答え、僕は振り返った。
「何、無事にクロとヤミが『白狼』達に合流出来たんだ。ここから先は彼らの領分だから、僕らは引き上げよう。また、日を改めて『選定の像』は調べさせて貰おうか?その時は、皆の『力』を貸してくれよ?」
「っ!うんっ!!」
「「「「「「はっ!!!!!!」」」」」」
それは、こんな僕にも信じて着いてきてくれる『仲間』がいるからかもしれないな・・・。
僕は頷くと、後片付けをして、『シュプール』へと戻るのだった。
こうして、僕と『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます