1/流転の森 -6 西へ
今度は四択か。
黄色は初めてだが、あまり良い印象は受けない。
赤枠ほど危険な感じはしないから、〈注意〉が妥当なところだろう。
対して、青枠にはどこか安心感すら覚える。
暗闇を歩いている最中、不意に光が射したときのような感覚だ。
信号機に見立てたのは正解だったかもしれない。
白枠からは何も感じないため、現状維持の選択だろうか。
基本的に、青枠の選択肢があれば、それ以外を選ぶ意味はなさそうだ。
そう決意すると、すぐに世界が色づいた。
「──方角がわかれば、森を抜けることはできるか?」
「わ、わ、わかれば。うん」
「流転の森は南北に長い。我々の目的地はザイファス伯領の西端だからな。西へ西へと向かえばいい。西日が射しているあいだはそれを目印にすればいいが、夕刻を過ぎればまたわからなくなる。ここが普通の森であれば、そのまままっすぐ進めばいいのだが……」
「迷いの森となれば、そうもいかないか」
スマホで時刻を確認しようとして、意味がないことに気付く。
ここは異世界だ。
時計もずれていて当然だろう。
「今の時間はわかるか? つーか、この世界の一日って、二十四時間で合ってるか?」
ヘレジナが胸元から懐中時計を取り出す。
「ああ、一日は二十四時間だ。現在の時刻は午後三時をすこし回ったところだな。出立前に時計を合わせたばかりだから、ずれていても三十分ほどだろう」
「この世界では太陽はどう動く? 東から昇って西へ沈むのはわかったけど、通るのは南か? それとも北か?」
「み、南でっす……」
北方と聞いて推測はしていたが、確認が取れた。
ここは北半球だ。
「常識の擦り合わせが面倒だな……」
「俺もそう思う」
ヘレジナが薪として集めてきた木の枝のうち、比較的まっすぐな一本を手に取る。
そして、陽光の降り注ぐ一角に、それをぐさりと突き立てた。
「時計を貸してくれ」
「? ああ……」
ヘレジナから懐中時計を受け取る。
文字盤には十二個の数字と思しき文字が刻まれており、短針と長針の二本の針がある。
秒針は存在しないが、時刻の見方は同じようだ。
「これなら行けるな」
影の方向に時計の短針を合わせ、文字盤の十二時方向と二等分した方角を指差す。
「こっちが南。だから、向こうが西だ」
「──…………」
「──……」
プルとヘレジナが顔を見合わせる。
「理屈を説明したほうがいいか?」
子供の頃、ボーイスカウトで得た知識だ。
まさか、こんなところで役に立つとは思わなかった。
「あ、その、いえ。……ほ、ほんとに?」
「嘘をついたら迷って死ぬかもしれないだろ。なんの得もない」
「……そうだな。最初はパラキストリの刺客かもしれんと警戒していたが、聞けば聞くほど無関係だ。私は、お前を信用しても構わないと思っている」
「わ、わ、わたしも、でっす……」
プルが、ぎこちない笑みを浮かべる。
「さ、最初は、のぞきかと思ったけど。へ、ふへ……」
「年下はあんまり好みじゃないんだよ」
「そ、それはそれで失礼……!」
「ほら、日が高いうちに森を出るぞ。こんな場所で夜を迎えたくない」
ヘレジナが慌てたように言う。
「ま、待て! 方角がわかったとて、師匠を置いては行けん!」
「……あー」
どーすっかな。
逡巡していると、また選択肢が現れた。
【青】自分の考えを話す
【黄】口をつぐむ
【白】話を逸らす
青枠を見て納得する。
それが無難だろうな。
世界が色づくのを待ち、口を開く。
「大丈夫だ。方角を求めてるあいだに、いいこと思いついたんだよ」
「いいこと……?」
プルが小首をかしげる。
「ああ。でも、ひとつだけ確認したいことがある」
「なんだ、なんでも言え」
「プルでもヘレジナでもいい。こんな魔法を使えないか? もし使えたら、なんとかしてやる」
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