2/魔術大学校 -22 測る
「では、手のサイズを詳細に測る。机の上に右手を出してくれ」
「はい」
言われた通りに手を机に乗せ、サイズを測定する。
「そう言えば、素材はどうなるんですか?」
「防炎術式を刻み込んだ、革だ。湿気が篭もらないよう指ぬきにする」
ユラが驚く。
「革に、防炎術式を? しかも、灰燼術の術式まで刻み込むのですよね」
「ああ。素材を二重にし、外側に防炎術式を、内側に灰燼術の術式を刻む。中からは燃えるが、そういった状況はまずあるまい」
たしかに。
「防炎術式に必要な
「あ、
ヤーエルヘルの言葉に、ベディルスが反駁する。
「多いと言っても限度があるだろう。無理に
「その
「──…………」
ベディルスが、呆れたように口を開く。
「君たちは、本当に何者なのだ。聞くまい聞くまいとは思っていたが、ここまで人間離れしていると、さすがに尋ねたくもなる」
俺は、微笑んで答えた。
「ワンダラスト・テイル、です。奇跡級の剣術士二人に、奇跡級の治癒術士。そして、徒弟級の魔術士のパーティですよ」
「ワンダラスト・テイル……」
戸惑うベディルスに、イオタが注釈を入れてくれる。
「遺物三都でのパーティ名なんだって。財宝、見つけたって言ってたよ」
「それは、また」
ベディルスが苦笑する。
「だが、君たちなら、財宝くらいは掘り当てるだろう。それくらいでは驚かんよ」
「ぼくが思うに、もっととんでもないことにも巻き込まれてるっぽいんだけど、教えてくれないんだよね……」
「ははは」
正解。
「しかし、なんだな」
ベディルスが、イオタへと向き直る。
「随分と元気になった。視線が、下ではなく、前を向いている」
「うん。カナトさんの弟子になったんだ。剣術も教えてもらってる」
「そうか」
ベディルスが、俺に頭を下げる。
「孫を、頼む。昔から気弱な子でな。シィしか友達がいなかった」
「今は大丈夫ですよ」
イオタと顔を見合わせる。
彼は、はにかんだように笑ってみせた。
「学校にも、ちゃんと友達がいます。このあと合流して、ネウロパニエを案内してもらう予定なんです」
「それはいい。君たちには、護衛以上のことをしてもらっているな。この礼は、最高の義術具で以てするとしよう」
「ええ、お願いします。その
「ならば、その期待には応えねばならんな」
きっと、素晴らしい作品が出来上がる。
その確信があった。
「ところで、ツィゴニアさんは大丈夫なのですか?」
ユラが、心配そうに尋ねる。
「イオタさんの安全が確保できたのなら、デイコスがツィゴニアさんの暗殺に注力するかもしれません。今、そちらはどうなっているのでしょう」
「ああ。そちらも並行して調査はしている。息子が雇った護衛の他にも、数名の知人に守らせてもいる。ただ、この数日、デイコスの動きがぴたりと止んでいてな。パドロ=デイコスの話が真実であれば、依頼の完遂は不可能として、引き上げた可能性もなくはない」
ヘレジナが頷く。
「なるほど。だが、ツィゴニアが首都カラスカへ帰還するまでは気が抜けんな」
逆に言えば、首都カラスカへ帰り着くことができれば安全ということだ。
それは、デイコスがツィゴニアの暗殺場所として、カラスカから遠く離れたネウロパニエを選んだことからも明らかである。
「そう言えば、ツィゴニアさん、息子の参観会を見に来たって言ってたな。イオタ、参観会って何?」
「あ、言ってませんでしたっけ。全優科の門戸がネウロパニエの市民に開放される唯一の日です。クラス単位で出し物を行って、市民に投票してもらう。そして、その年の最優等クラスを決めるんです。他にもさまざまなイベントが用意されていて、ちょっとしたお祭りみたいなんですよ」
「へえー、学園祭みたいなものか」
「カナトの地元にも、同じような催しがあったんだね」
ユラの言葉に、高校の頃を思い出しつつ答える。
「ああ。お化け屋敷とか、模擬店とか、なんならメイド喫茶とか……」
「ほう、いろいろあるのだな」
「銀組は何をするか決まってるの?」
「いえ、まだですね。来週決めて、再来週はまるまる準備です」
「何をするのか、楽しみでしね!」
「だな」
頷き、答える。
「ヤーエルヘルたちの教室にも、絶対行くから」
「はい!」
「ぼ、ぼくも行きますよ!」
「お待ちしておりましー」
「あらあら」
「ほほう」
ユラとヘレジナが、楽しそうに笑う。
「な、なんですか……」
「我々も同じクラスであることを忘れてはならんぞ」
「忘れてませんよ!」
そのとき、
「──くッ」
黙って話を聞いていたベディルスが、吹き出した。
「ははははっ! 頑張れよ、イオタ。壁は高いぞ」
「そんなんじゃないってば!」
「……?」
ヤーエルヘルが、不思議そうに小首をかしげる。
知らぬは本人ばかりなり。
「さ、そろそろ行こうか。ドズマとシオニアが待ちくたびれてるかも」
「ああ。孫のこと、よろしく頼む」
「はい。義術具、楽しみにしています」
「任せておけ」
不敵に笑うベディルスに会釈して、俺たちはベディ術具店を後にした。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
面白いと思った方は、是非高評価をお願い致します
左上の×マークをクリックしたのち、
目次下のおすすめレビュー欄から【+☆☆☆】を【+★★★】にするだけです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます