【番外編】七夕の日に
「そういえば七夕って短冊に書いたら願いが叶う日なんだよね……七海ってなんかお願い事ある?」
「どうせ七海の事だからあれだろ、
「七海はけっこう分かりやすいもんねぇ~。ちなみに簾舞だったらどんなお願いするつもりなの?」
「ん? 僕なら……七海とずっと一緒にいられますようにって願うかなぁ」
僕の一言に
「小学生じゃないんだから……もうちょっと大人っぽいお願いにしなよ?」
その言い方にちょっとだけ憮然としつつも、まぁ確かに子供っぽかったかなとも思う。
「じゃあ二人は、どんなお願いするのさ?」
「……お兄ちゃ……いや……えっと……彼氏との時間がもっと増えますようにかな……」
「私は~……彼氏の家族に結婚が認めてもらえますように……かなぁ~……」
二人とも僕と大差な……いや待って、神恵内さんのお願いってなんか重くない? え? 彼氏と上手くいってないの?
「彼氏とは上手くいってるよ~……でもねぇ……『うちの息子でいいの?! 本当に良いの?!』って向こうのお母さん方に言われちゃってるんだよねぇ~」
僕の顔を見た神恵内さんが手をひらひらとさせながら心配無用と言わんばかりにヘラリと笑う。
……なんだろうか、実はこの子が一番なんか闇深いんじゃないかと思ったけど、そういうわけではなさそう……かな?
ちなみに僕等が何をしているかと言うと……学校で飾り付ける七夕飾りと、学校の笹に飾る短冊作りをしている所だったりする。
生徒会が七夕イベントを開催して、割とみんなノリノリでそれに参加している……と言う状況だ。だから今日は放課後に割と人が残っていたりする。
……数名の男子がちょっとうなだれているのは、あれかな? 音更さんと神恵内さんに彼氏がいることを知らなかった人達かな?
思わぬ流れ弾である。
そしてここまで僕と二人が喋っているのに……ずっと黙っている七海がちょっとだけ不思議だ。七海は七夕飾りのノルマを終わらせて、今はピンク色の短冊とにらめっこしている。
いや……なんでそんなに考え込んでるんだろう?
「七海ー? 何考えこんでるんだよ~? 七海なら簾舞一択じゃないのか?」
そこで初めて七海は話しかけられたことに気づいたように顔を上げた。そして……神妙な表情で口を開く。
「七夕ってさ……一年に一回しか会えないんだよね……恋人同士なのに……」
「あぁ、うん。そうだね。いや、恋人同士じゃなくて確か夫婦じゃ無かったっけ? 夫婦になってイチャイチャし過ぎてお父さんに引き離されたとか、そんな話だったような?」
僕はうろ覚えの知識で七海に七夕の事をざっくりと説明する。そう外れてはいないはずだ。音更さん達も「確かそんな感じだよなー」とか相槌をうっている。
でもそれが何か関係あるんだろうか?
「短冊ってその二人にお願いすることなんだよね……? 恋人同士の事をお願いして……大丈夫なのかな? 一年に一回しか会えなくなったりしないよね?!」
その一言に音更さんも神恵内さんも動きが止まった。
あー……その辺どうなんだろ? そうだよね、神社とかそう言うのでもしない方が良い願い事とかあるよね。七夕もそうなんだろうか?
確かにそう言われると、ちょっと不安になってきた。
「ちょっと調べて見ようか」
僕の一言を皮切りに、四人で一斉にスマホを操作して七夕の事を検索する。
それから少しの間、七夕飾りを作るのを中断して全員でスマホを見るという光景が展開される。
そして出た結論は……。
「なんか、調べる限りは大丈夫っぽいね」
「そうだね、何か夫婦でイチャイチャして引き離された話と、願い事は無関係みたいだね……」
「むしろ~……一年に一回って長いようで頻繁に会ってるみたいなもんらしいね~……」
「……まぁ、日本の行事らしく結構ごちゃまぜっぽいなー。まぁ、願い事は何でも大丈夫だな?」
僕等四人は、それぞれが調べた結果に安堵する。特に願いに制限はなさそうだ。
「むしろカップルのマンネリを打破する……それだけ長く続いている夫婦って考えられるよな」
「会えない時間が~愛を育てるって言うしね~……育ってるかな~……私達の愛……」
少しでも前向きなことを考えながら、音更さんも神恵内さんも当初の予定通りに短冊に願い事を書いていく。
短冊の色は……二人とも黄色だった。
七海も目の前に置いていたピンク色の短冊を脇によけて、黄色の短冊を2枚改めて持ってきた。そして、片方を僕に手渡す。
「……会えない時間が育てるってのもいいけどさ……どうせなら私は会って育てたいな」
僕に短冊を渡す時に、七海はそっと僕の耳元に近づいてきて呟いた。その声は僕にだけ届く声で……それはなかなか彼氏に会えない神恵内さんに気を使いつつも、本音を僕にだけ打ち明けてくれたのだろう。
僕がちょっとだけ目を見開いて驚くと、七海は頬を染めてそっと顔を逸らす。
言って照れるなら言わなきゃいいのに……。まぁ、これも七海らしいか。
「それで? 陽信は……何を書くか決めた?」
顔を逸らしたままの七海は僕に七夕の願い事を聞いてくる。なので僕は、あえて七海に質問を質問で返してみた。
「そうだねぇ……黄色を渡してきたってことは……書いて欲しいことがあるんじゃないかな?」
「それはー……陽信の想像にお任せかな。でも、陽信が考えてることが私と一緒だと嬉しいかな」
そう言って僕等は互いに微笑み合う。
「おふたりさーん……通じ合うのは結構ですけどねぇ……学校だからほどほどにねぇ」
「まぁまぁ~……この二人のやり取りはもう定番化してるからねぇ~……。今更でしょ~……」
二人からのツッコミもいただいて、僕等は改めて短冊を書き始めた。
短冊の内容は……あえて僕等は見せ合うことはしなかった。なんとなく、見せたら台無しになりそうだったからだ。
「それじゃ、飾りも作り終わったし……。僕等も短冊を飾りに行きましょうか」
「うん、いこっか」
僕等はそのまま生徒会が用意した大きな飾り用の笹のところまで移動すると、それぞれが内容を見ないようにして飾っていく。
新たに飾られた黄色い四つの短冊は、穏やかな風に吹かれてゆらゆらと揺れるのだった。
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