7 悪役令嬢、自分の絵を売る
「パパ……私の絵はどうだった? みんな、なんて言ってた?」
ゴクリと唾を飲みこみ、恐る恐る尋ねる。
自分の絵の評価が気になった私はいつの間にかパパの書斎に足を運んでいた。
先日、パパにお願いした絵の売り込み。
やはり写真よりも実際に見てもらうことがよいと考え、ステラート家の一室で展覧会を行うことになった。
私の絵をアトリエから移動させ、展覧会では貴族の方々に集まってもらった。
どうやら星光騎士の方々も何人か来たみたい。
ひょっとしたら来ているかもしれない乙女ゲームのキャラたちに会いたくなかったから、下手に顔を出すような事はしなかったけど。
私の作品は1枚しかなかったため、パパの力で他の売れている画家の作品も展示してもらっていた。
それはつまりこの世界でのプロの人たちと自分の作品が並んだってこと。
公爵家の力、凄い!
パパの権力、万歳!
「エステルの絵かい? それは……」
「それは……?」
どうだったの?
ダメだったの?
「変な絵を出すんじゃない」とか言われた?
真剣な顔のパパはなぜか溜めを作り、無言が続く。
早く言って…………心臓に悪いから。
「それはもうすごかったよ! もちろん、エステルの絵を気に食わない人もいたようだけど、でも、ほとんどの人が面白いと言ってくれていたよ」
「ほんとっ!?」
やったわ!
この世界にも印象派のような絵も通じるってことね!
私はおもむろに両手を天井へ上げる。嬉しくて仕方なかった。
「それでね」
指を組むパパは話を続ける。私は嬉しさのあまり暴れそうになった気持ちを抑え、頷いた。
「うん」
「買いたいと言ってきた人がいるんだけど……売るかい?」
それはもう答えが決まってるじゃない! パパ!
「ええ! ぜひ、売ってちょうだい!」
私は思わずパパの机に乗り出す。
そんでもってその貴族の方に他の人に自慢してほしいわ! “エドワード”の名前が上がるもの!
私は最高の気分で心が躍りそうだった。
★★★★★★★★
「えっ!? 姉さんの絵が売れることになったのっ!?」
「そうよ!」
午後からアトリエで次の作品に取り掛かっていた私だが、体に疲れが出だした頃にデインがやってきたので、休憩がてらお茶をしていた。
食堂にいたメイドたちに用意してもらったお茶とお菓子を乗せたワゴンをアトリエの窓際に持っていく。
デインは丸テーブルに真っ白なテーブルクロスを乗せ、2つの椅子を用意して待っていた。
ベランダに繋がる扉も開き、爽やかな風が吹きこむ。
準備ができると、私たちは向かい合って座った。
「姉さん! 画家になったんだっ!」
デインは透明なピンクの瞳を輝かせる。
「売れたと言っても1枚だけだから、まだ有名な画家になったとは言えないわ」
「そっかぁ。でも。すごいよ! 姉さんの絵が貴族の人に気に入ってもらったんだから!」
「そうね。私にとって大きな1歩だわ」
まだ全然“エドワード”は世間に知られていない。この世界でも名前は大切。
だから、売れるためにももっともっと絵を描いていかなきゃ。
それに描いた分だけ自分の技術が上がることは知ってるから。
スカッとした爽やかな香りを漂わせるカモミールティーのティーカップを手に取る。
私の夢は少しだけ進み始めたけど、デインの夢はどうなんだろう?
「デインの方はどうなの? 剣術とか……魔法の練習はしてる?」
「うん! してるよ! 父さんの騎士団に混ぜ貰ってる!」
星光騎士を目指しているデインは最近パパの騎士団に混ざって稽古に励んでいた。
デインは元々ステラート家の遠い親戚の子だったらしいのだが、彼の両親がなぜか失踪。
デインには魔法の才能があると知ったパパがデインを養子にしようと決めたんだとか。
もしかしたら、パパは将来デインをステラート家の当主にしようと考えているのかも。それならお互いウィンウィンな関係ね。
私は可愛いデインが当主と想像すると、1人でくすりと笑ってしまう。デインは私が笑ったのを見て首を傾げていた。
「姉さん? 急に笑ってどうしたの?」
「なんでもないわ」
「でも、僕を見てクスクス笑ってるよ。……もしかして、僕の髪に変な寝ぐせでもあった?」
「大丈夫、ないわよ」
あっても全然おかしくないわ。デインはどんな髪型であっても可愛い。スキンヘッドにしない限りね。
「さ、このプディングを食べちゃいましょ」
「うん、そうだね!」
前世でよく食べていたカスタードプディングが入った小さなカップを手に取る。プディングの上にはちょこんと鮮やかな緑のミントが乗っていた。ミントを避けつつ、プディングをスプーンですくう。
「姉さん、これ美味しいね!」
プディングはデインの大好物。
確か、ゲーム内でもヒロインちゃんとデインが一緒に食べるなんてシーンがあったけ?
目の前でプディングを満面の笑みで食べるデインはとても幸せそう。よかった。
琥珀のような光沢のあるカラメルは少し苦味があったが、淡い黄色のカスタードはとても甘く感じた。
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