第113話
「だって、黒炎くんと春休みにたくさんデート出来るって想像したら、それだけで嬉しくて……」
「俺の恋人は本当に可愛いな」
「……!?」
頬にキスをされた。やっぱり、黒炎くんには敵わない。
「不意打ちの上目遣いには少しクラっときたが、今の朱里のほうがお前らしいかもしれないな。余裕ない朱里のほうが俺は好きだぞ」
「むぅ……」
いつか、黒炎くんが驚くような綺麗な女性になってみせる! とひそかな決意をする私。
「って、悠長に歩いてると遅刻だな。走るぞ、朱里!」
グイッと腕を引っ張られた。
「うん!」
さすがに三年生の卒業式に遅刻はまずい。しかも、紅蓮会長の卒業なら尚更。
「穏やかな日差しが差し込み、桜が咲き、春の訪れを感じる季節となりました」
卒業生代表が在校生とお世話になった先生に答辞を読み上げる。もちろん、代表は紅蓮会長だ。噛むことはなく、答辞の紙も下に置いて見ることはない。完璧な答辞にさすがとしか言葉が出てこない。
(紅蓮会長、おめでとうございます)
私は心のなかで呟いた。色々あったけど、お世話になったし。
そして、長い卒業式が終わった。
「紅蓮会長、卒業おめでとうございます!」
「霧姫朱里。ありがとうございます」
生徒会室。私と黒炎くんは紅蓮会長にあらかじめ用意しておいた花束を渡す。
「これは俺たちからの気持ちです。署名活動のときもそうですけど、俺は小学生の頃からお世話になったし、それも含めて」
「黒炎もありがとうございます。それは今更、気にしないでください。僕は親じゃないから言う資格なんてないかもしれませんが……貴方は成長しましたよ、黒炎」
「そんなこと……それに会長のお陰です」
「っ……」
私は目頭があつくなる。今にも泣いてしまいそう。黒炎君と紅蓮会長の過去を聞いたから、それはなおさら。
「霧姫朱里。これからは黒炎と高校生活を楽しんでください。だけど、最後に一つだけ」
「なんですか?」
「僕はさらなる高みにいきます。もし、黒炎が貴方を傷つけるようなことがあったなら、いつでも駆けつけます。そして、隙あらば貴方を奪います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます