11章 困難の先に待っているもの

第91話

「これが……俺の過去の全てだ」


「……」


言葉が出なかった。黒炎くんが勇気を振り絞って、私に話してくれたのに。この話をするのに相当な覚悟があったはずなのに。……引いているからじゃない、嫌いにもなっていない。むしろ、過去のことを聞いたら、より黒炎くんの側にいて支えてあげないといけないという気持ちになった。けど、言葉が出ないのはなんて声をかけていいか迷っているから。


こんなにも辛くて、悲しい過去を話されたらどうしていいかわからない。


「……朱里が小さい頃に泊まりに来ていたときは親父も仕事だったし、兄貴はその仕事を手伝っていた。母親は病弱だったから、出来るだけ他人とは接触しないようにしていたから、朱里が俺の家族と会った記憶がないのはそもそも会っていないからなんだ」


「そう、なんだね」


「黒炎。何故、僕が君に一度も連絡をしなかったかわかるかい?」


「……」


黒炎くんは睨みつけるな形で紅炎さんを見る。


「それはね? 連絡なんかしなくてもすぐに連れ戻せるからさ。今まで息子の居場所を知らないわけがないだろう。だって、お前は僕にとって大事な子供なのだから。焔ほどじゃないけど、お前のことも大切に思っているんだよ?」


こんな過去を聞いても、まだ紅炎さんは笑っていられるのか。

なんて薄っぺらい言葉。大事だとか大切って言ってるけど、気持ちがこもっていない。紅炎さんにとって、黒炎くんはただの所有物に過ぎない。それは、さっきの会話で嫌というほど伝わった。


「親父……それはわかっていた。あんたみたいな有名な社長が俺を見逃すはずないってな。見つけようと思えば、どんな手を使ってでもすぐに見つけられる。だけど、それをしなかったのは俺が一人で生きていけるか、柊家という名前ではなく、俺自身に存在価値があるか試したかったんだろ」


「さすが、僕の子供だ。そのとおりだよ。ただ残念だよ、一人で生きていくどころか家を出たその日に如月家に拾われるなんてね。でも、君が何故、中学生まで如月家にいられたとおもう?」


「なんだと?」


「黒炎くん。これ以上、聞いちゃだめ!」


黒炎くんは気付かなかったのかもしれないけれど、私にはわかった。一瞬だが、紅炎さんの口元が緩んでいたことを。きっと今から黒炎くんが傷つくような言葉をたくさん吐くに違いない。


私は黒炎くんの耳を抑えようとしたけど、すでに遅かった。

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