第89話

それから半年が経ち、会長が書いた小説は大賞を取り書籍化された。その後、コミカライズ(マンガ本)、中にはアニメ化されるものまであり、瞬く間に有名となった。小学生の頃から小説を書いていたらしく、元々は応募するつもりで書きためていたらしい。


美羽さんの失踪後、書き殴るようにひたすら文章を書いていたことを俺は知っている。会長は誰よりも努力をしていたんだ。


会長の言葉通り、俺を一人で養えるようにまでなったのだ。俺はそんな会長を尊敬した。ちなみに中学二年の頃から生徒会長をしていたから、今ではすっかり癖になって会長呼びだ。


それなりお金が貯まり、俺たちは別々に暮らすようになった。俺は自分になにか出来ることはないかと探し、会長のマンガの背景を描いたりアシスタントをするようになった。


手伝っているけど、会長から給料を貰ってるわけだし、これだと恩返し出来てない気がする。けど、自分でそれなりに料理を覚えた俺は会長に手料理を振る舞うようになった。


会長は一人だと、意外にも食事も服装、その他に関しても無関心だ。いつでも来ていいようにと、別々で住むときに会長の家の合鍵をもらった。


締切前なんかは、ほとんど何も口にしていないらしく、それが心配になって俺が料理を覚えたってわけだ。もちろん一人暮らしで食費を浮かせるのも理由の一つだが。


「会長が好きそうな本でも買っていくか」


俺は学校帰り、本屋に寄ろうとした。


あの日、家を出てから今まで父親が連絡をとってきたことはない。テレビにも俺の名前は報道されなかった。父親にとって、俺は結局その程度の存在だったんだろう。


俺が小学生の頃に住んでいた家はなくなり、今はどこかで暮らしていると風の噂で聞いた。きっと兄貴が仕事を手伝って、昔よりも大きな家に住んでるに違いない。


そして、この日、俺は出会ってしまったんだ。


「ギャルゲー攻略本……」


本屋でふと目に入った一冊の本。中には二次元の美少女たちがたくさん写っていた。最初は会長のマンガの参考になるかと思ったが、何故かこのときは俺自身が惹かれてしまったのだ。


俺はギャルゲーソフトを買いにゲームショップに行った。


「おや、初めて見る顔だね。なにをお探しなのかな?」


「この攻略本に載ってる……」


「あぁ、それならこのギャルゲーだよ」


「じゃあ、それをお願いします」


そして、勢いで購入したのが「〜くんのこと大好き! って簡単に言うと思った?」というタイトルのギャルゲー。それが俺が初めて購入したものであり、アカリにハマるキッカケになったものだ。


俺は家に帰るや否や、ギャルゲーを始めてみた。そこには、俺が見たこともない世界が広がっていた。みんなが笑顔で、幸せそうな世界。

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