第88話

この前、俺が美羽さんと二人きりで会話していた時、ヤキモチを妬いて大変だったし。それほど美羽さんのことを大事にしているんだろう。


それにくわえ、俺が住むことになったから尚更嫌われたらしい。不覚にも似た境遇だと思ってしまった。でも、こんなに優しい美羽さんが早くに親を亡くしているなんて思わなかった。俺は片親いるだけマシなのか?


こんな生活をいつまで続けていいのだろうか。甘えていいのか、迷惑はかかってないか、時が経つにつれ、そう思うようになった。


「黒炎。今は貴方も私達の家族よ。私はね、二人目の弟ができたみたいで本当に嬉しいの」


「黒炎、美羽姉さんの一番目の弟が僕ということは忘れないように」


多分、美羽さんは俺がいつも心に不安を抱えていることをわかっていたんだろう。だって、それに気付いたかのように励ましてくれるのだから。美羽さんの言葉一つ一つがあたたかい。会長は相変わらずだけど、それでも会長なりに俺を家族だと思ってくれている。


俺もこの二人を本当の家族だと思いたい。だけど、その願いも儚く終わりを告げた。



俺が中学生になったばかりの頃。家に帰ると会長が呆然と玄関にただ立ち尽くしていた。


「紅蓮、どうし……」


「美羽姉さんが……病院からいなくなったって」


「え?」


ある日、病状が悪化した美羽さんは病院に入院していた。入退院を繰り返していたものの、もう余命が近いと宣言され、先月からは病院での療養を余儀なくされた。だけど、そんな美羽さんは今日病院から忽然こつぜんと姿を消したそうだ。


頭を鈍器か何かで殴られたような衝撃だった。しかも、主治医と一緒にいなくなったらしい。その日から警察が動き、捜査が疑われたが、結局、美羽さんの足取りは一切掴めず、迷宮入りとなったのだ。


俺はまた家族を失った。守れなかった……命の恩人を。涙は止まらず毎日泣き続けた。母が亡くなったときのように。会長はそんな俺を抱きしめてくれた。


「黒炎、僕が君を守る。一人で養ってみせるから。……僕たちは二人で生きていくんだ。次に美羽姉さんに再会したとき、僕たちの成長した姿を見せられるようにしよう。美羽姉さんを守れるくらい強くなったよって言えるように」


「紅蓮……」


会長のほうが俺よりも辛くて悲しいはずなのに、どうしてそんなに強くいられるのだろう。それなのに俺はこんなにも弱くて非力だ。自分自身が情けなく感じた。

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