第77話

「黒炎くん、それってどういう意味……?」


「わ、わからないのか。お前はどこまで鈍感なんだ。……つまり妬いてんだよ。こんなにも可愛い恋人をこれ以上、誰かに見せるのは嫌だ」


次は私でもわかるようにはっきりと告げられる言葉。え、つまりヤキモチを妬いてるから私を外に連れ出したってこと? すごく嬉しい。でも、黒炎くんがいうほど私は可愛くないのに。


「それにここなら2人だし、気兼ねなくダンスも出来ると思っただけだ」


「か、可愛いのは黒炎くんのほうだよ!」


「俺、男だぞ」


それはわかってるよといいながら、私は黒炎くんに抱きついた。そこまで私のことを好きでいてくれたなんて、とても嬉しくてたまらない。胸のあたりがこうキュンとなる感じがする。あたたかい気持ちになって、だけどヤキモチ妬いてる黒炎くんが愛しく思えて……そんな感情。


「急に抱きついてどうしたんだよ、朱里」


「ううん、なんでもないの」


あぁ、どうして黒炎くんはこんなにも私を大切にしてくれるの。一途な気持ちが伝わってきて、どうしていいかわからなくなるよ。


「私、やっぱり黒炎くんのことが好きだなって思っただけ」


「いきなりどうしたんだ? 俺も好きだぞ、朱里のこと」


「ありがとう。さてと、踊りますか。黒炎くんが拗ねちゃう前に」


私はクスクスと笑いながら立ち上がった。私が好きっていったら、ちゃんと好きって言ってくれる。私はそんな黒炎くんが大好きだ。


「俺は拗ねてないし、そんなに子供じゃないぞ。それと朱里、さっきは3回も俺の足を踏んでたぞ」


「えぇ!? ってダンス経験なんてないんだから仕方ないじゃん。むしろ3回で済んだんだから褒めてほしい」


「開き直るなよ。まぁ、今から踊るのは誰も見てないから気にしなくていい」


そういって手を差し出す黒炎くん。


私たちは踊りだす。ステップは順番通りじゃない、自由にだ。

ここには、BGMも美味しい料理もない。だけど、いいの。2人きりの空間が私をドキドキさせるから。


だけどその日、私たちを見ていた怪しい影は黒炎くんの存在を決して見逃してはいなかった。


こんな楽しい日々がいつまでも続く、そう思っていた。

……この日までは。

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