第76話
「さっきのおじさん、ちょっとお酒臭かったね」
「朱里、2人きりのときくらい気を使わなくていいぞ。あれはかなり臭かっただろ? 酔ってたみたいだし。未成年が参加するパーティーで酒置くのは良くないだろ……」
黒炎くんはブツブツと文句を言っていた。
「ふふっ」
「朱里、なんで笑ってるんだ」
「なんでもないよ」
愚痴を言ってるほうが黒炎くんらしいなと思ったら自然と笑みがこぼれてしまった。堅苦しく着飾ってる黒炎くんはなんだか知らない人みたいだし。
「そういえば柊家のお坊ちゃまって言ってたけど、黒炎くんの知り合い?」
「……柊なんて名字、いくらでもいるだろ。俺はあんなおじさんは知らない」
「そ、そうだよね」
やっぱり、これは聞いてはいけなかった。気を使わなくていいと言われたから気軽に聞いてみたけれど。
黒炎くんが暗い表情になっているのは、たんに本当に知らないから怒っているだけなのか、図星を言われて不快になっているのか私にはわからなかった。
そう、黒炎くんは私に優しい嘘をつくのだ。本当は一人だと寂しくて辛いはずなのに大丈夫と普段通り接してくれる。会長さんとの関係も私に上手く隠してきた。黒炎くんはそういう人なのだ。人を傷つけないようにといつも気を使う。
私はそんな優しい黒炎くんが好き。だけど、それで自分自身を傷つけて嘘を吐いていたら、自身を傷つけることにはならないの? 私はそれだけが心配だよ。
「せっかく2人きりになれたんだし……」
「え?」
甘い言葉をかけられそうになる。でも、またアカリちゃん関係だってわかってるよ。2度も騙されないもん! って身構えていたけれど。
「ここで踊らないか?」
「今、なんて……」
「だから、ここで朱里と踊りたいんだ。駄目か?」
そんな子犬のような眼差しでこっちを見てくるのはズルい。だって、いつもならゲームしようぜ! とか言ってくるところなのに。今日はどうしたんだろ。
「だめじゃない。けど、なんで?」
「あんな派手な場所、俺には似合わない。俺はお前と2人きりで過ごしたいんだ。でも、せっかくのパーティーっていうならダンスをするのも悪くないだろ?」
とても男らしい表情。月明かりに照らされて、黒炎くんがキラキラしてる。って、その場の空気に流されそうになった。
「私、最初は不参加でいいって言ったのに……」
そう、最初の私はダンスパーティーなんてお金持ちでもないのに行けない! って黒炎くんに伝えていたはずだ。だけど、黒炎くんがどうしてもっていうから。
「ドレス姿を見たかったのは本当だから。だけど、いざ目の当たりにすると似合いすぎてどうしていいかわからなくなる。会長とも話してるし……」
口元をおさえているから、よく聞こえない。さっきから黒炎くんの様子がおかしい……?
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