第42話

「今は一人ですけど、あとから連れが来るので……」


なんだかとても怖く感じる。会長さんも年上だけど凄く親切だし、優しいから。だけど、この人たちは違う。


「じゃあ、連れが来るまで暇なわけだ。ならオレたちと遊ばない?」


「け、結構です」


これってナンパされてるんだよね……。なんで、私なんかが?


「遠慮しなくていいーって、お金なら出すからさ」


グイッと腕を引っ張られ、無理やり連れて行かれそうになった。


「やだ……!」


「お嬢様が嫌がってるのがわからないんですか?」


大学生の肩をガシッと後ろから掴んで注意する。


「イテテテ! って、よく見たら女かよ。なんなら、お前が代わりに遊んでくれんの?」


その言葉に私は驚いた。最初は暗くてよく見えなかったが、確かに女性だ。

腰まである黒髪を一つに束ねていて、こんな場所なのにスーツ姿でビシッとキメている。


って、お嬢様ってもしかしなくても私のこと? でも、私はこの女性を知らない。


「はぁ~……どこまでも下品で汚い輩ですね。怪我をしたくないなら、このまま立ち去ることをおすすめします」


ギュっと力を入れると、一人の大学生が悲鳴をあげだす。友人が危険だとわかったのか、まわりは恐怖のあまり仲間を女性から引き剥がし去って行った。


「怪我はありませんでしたか、お嬢様」


そういって私の手をとる女性。その姿はまるで王子様みたいで……同性なはずなのになんだかドキドキしてしまった。こんなこと普段じゃされないから。


「大丈夫です。ただ、私はお嬢様じゃないですよ?」


「あぁ、つい癖で申し訳ありません。良ければお連れの方が来るまで一緒にいても宜しいでしょうか?」


「お、お願いします」


癖? えっと、これはそういう系のお店で働いてる人だったり?


「申し遅れました。私は焔(ほむら)といいます」


「ほむ……焔さん!?」


名前を聞くと、どこかで聞いたことのある名に私は驚いた。


以前、ロールスロイスでうちの学校の先輩を見送ってた人だ。珍しい名前だから一度聞いたら忘れない。けど、まさかこんな場所で会うなんて思ってもみなかった。


「私のことをご存知なのですか?」


え? といった表情を浮かべながら、私を見る焔さん。だけど、私みたいに決して感情を表には出さない。


「あ、いえ。学校で見たというか……私、星ヶ丘高校の生徒なんです」


「ああ、そうでしたか。お嬢様……ではなく、なんとお呼びすれば?」


「私は霧姫朱里っていいます。さっきはありがとうございました」


「霧姫、朱里……そうですか、貴方が。それでは朱里様とお呼びしますね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る