第十五章 【レイカとヒビキ】(5/6)
ギー。
ロッカータンスが開く音。そこから出て来たのは通学靴。グレイのプリーツのスカート。赤黒い血のついた辻女の夏服。顔面蒼白で金色の瞳、四本の銀牙が唇を突き破ってその先から血の色のよだれが滴っている。でもそれは、たしかにココロだった。「子ネコ」は名前を口にしないためだったかも。屍人は名前を呼ぶと襲って来るから。
「カリン。ココロだよ。ウチのことすき?」
「すきだよ。生きてるとき言ってあげなくてゴメンね」
ココロがカリンに近づいて、少し体をかがめてカリンの首筋にゆっくりと口を持って行く。歯を立てているように見えないのはなぜかな。カリンが鼻をすすった。
カリンがココロの制服の襟首を少し開いて、二つの穴を見せてくれる。シオンのと同じ二つの穴。ココロがくねくねしだした。
「ココロ、脇の下弱点だったでしょ。今は他の場所は何しても感じないんだけど、脇の下だけはこうなんだ。かわいいでしょ」
うん。ココロかわいい。喉が小さく上下してるのも赤ちゃんみたい。
「おかしいな。いつもはこれくらいで自分から放すんだけどな」
「カリン。ココロってこんなミルクの飲み方?」
そういえばシオネの時とずいぶん違うように見えた。
「ほんとだ。目を開けてる。今までこんなことなかった」
ココロは焦点の定まらない目できょろきょろと、あちらこちらに視線を飛ばして落ち着かない様子。
「入口に何かいる? 音がするみたい。レイカ見える?」
うん。いるよ。改・ドラキュラが。ココロあいつが分かったんだ。改・ドラキュラ、近づいてきた。こっち降りて来る。くそ、ウチだって、ザ・デイ・ウォーカー。って、何ができるんだっけ。いいや、適当に戦えば、何とかなるっしょ。あれ、逃げてくよ。この間は、ぐいぐい迫ってきたのに。変なの。カーミラ・亜種じゃないから?
「セイラ、ゴマすって」
セイラがゴリ……。
え? セイラ倒れた。限界だったんだ。
「レイカお願い。ウチもたないかも」
スリ鉢、割れちゃってる。どうしよう。そうだ、スマフォ。セイラのスマフォにゴマスリの音が。どこ? ポケット。カバン。あった。あれ? このスマフォも反応しない。どぃうこと? ひょっとしてヴァンパイアってスマフォ使えないの? それはないっしょ。女子の必須アイテムなんだよ。
「カリン。大丈夫?」
「そろそろ、ムリ」
どうしたらいい? このままじゃカリンまでやられちゃうよ。ココロお願い放してあげて、ほら、口を開けて。はやく開けてって。そうだ、ウチのゴマスリストラップ。カバン。どこ? 車の中だ。急いで取りに。うわ、改・ドラキュラ戻ってきた。今度は大量。カーミラ・亜種と混合軍。階段下りてくる。ワッシワッシ降りて来る。くっそ、カリンたちに近づけちゃいけない。とにかく外に。うおー。ウチだって、みんなの役に立つんだ! テメーら、いい加減にしやがれ! くっそ。邪魔だっての。重いな。どんだけまとわりついてんだよ。出口狭い。マダラハゲが壁に擦れてんぞ。そのメタボバラが邪魔なんだって。ダイエットしねーと娘さんに嫌われっぞ。あ、なんか端っこのやつちょっとハラ引っ込めた。おかげでとーれるよ。よっしゃ、出たー。扉締めんぞ。だめだ、届かねー。足でなんとか。届けー。よっしゃ、出来たぞっと。扉に挟まって潰れたやつ。ま、いっか。締まったから。くっそ、テメーらどきやがれ、まとわりついてんじゃねーんだ。ウチを誰だと思ってやがんだ! くそー。アッツいなー。こいつら、すごい体温。苦しくなってきた。離れろよ。離れろって。手足いうこと利かない。苦しいよ。死ぬ。ウチは死ぬんだ。ここで、お終いだ。
イッテーナ。だれだ、ビン投げつけやがったのはよ。割れちゃったじゃねーか。アッツー。お! この味。うめーぞ。どっから飛んで来たんだ。しかし、うめーな。ミワのスムージー。ミワがいんのか? どこだ? うまいミワはどこだ? 邪魔だっての。カス。どきやがれ。すり潰すぞ。どけや、コラ。どけつってんだろーが!
あー、何だ? 何が起こった? あんなにいた蛭人間はどこ行った? ま、いいか。ミワはどこだ? この扉の下か? お、いたいた。今そっち行って、食ってやっかんな。ん? ミワじゃねーな。お、人間じゃねーか。どっから食うかな。
(食べちゃダメよ)
ママ?
(食べちゃダメよ)
ママ。これもニーニーのなの?
(ちがうわ)
ママ。これもミワちゃんも、だめなんてやだよ。
(わがまま言わないって約束したでしょ)
ママ。おいしいのダメなんて、レイカやだよ。
(お約束守らない子は、抱っこしてあげません)
ママ。ごめんなさい。わがまま言わないから。
(もう寝なさい。ママのレイカはとってもいい子)
ママ。ごめんなさい。ちゃんとお約束守るからトントンしてくれる?
(ネンネ。ネンネ。トントン。トントン)
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