第十五章 【レイカとヒビキ】(4/6)

 風、涼しい。風にあたったら、なんか落ち着いた。

しばらーくそうしてたら、ゆっくりゆっくりカリンの紫キャベツが近づいて来た。

ウイィー。窓が開いて、

「レイカ、正気に戻った?」

 カリンが声を掛けてくれた。

「もう大丈夫だよ」

 後ろドアが開いて中に入れてもらった。

セイラがゴリゴリゴリ。

セイラがゴリゴリ。

セイラがゴリ。

最大級のアウェー感。


「レイカ。ココロにも会って」

 カリンがバックミラーを覗き込んで言った。

モチロンだよ。ココロにこの間のこと謝りたいもん。

「多分頷いてくれてんだろーけど、ミラー映ってないから声でお願い」

「あ、はい。いいよ」

 セイラ、ワラウな。さっきはゴメンね。

「ついたよ。ココロんち」

 お化け出そう。って、いまさらか。

「ここにいたんだ」

「そうだよ。ほとんど出てこない」

「何でこのあいだウチとこ来たんだろ」

「はっきりとは分かんないけど、血が欲しいのとは違う理由の気がする」

 どうしてそれがわかるの?


「この子は休んでてもらうから、レイカ行こう」

「カリン。ゴマスリは? セイラがやらなきゃでしょ」

「そうか。さっきのことあるか。でも大丈夫? 顔色悪いよ」

「セイラは大丈夫だから。白ごまだったよね」

「そう。ココロは白ごまが好き」

 暗いね。なんか変な臭いする。段ボールの腐ったような。でもココロのとはちがう。ココロは日向の香りだもんね。

「レイカ。ホントに大丈夫だよね。さっきみたいなのは、やだよ」

「ごめんねセイラ。もうしない」

 鼻つまんどくね。こーやって。やっぱ血の匂い嗅ぐと出ちゃうみたい。次は大丈夫。多分。自信ないけど。

「この奥だよ」

 台所だ。窓目張りしてある。昼も暗いんだな。しかし、何もないね。テーブルも椅子も。ジュータンだけ敷いてあって。カリンがジュータン剥いだら床に扉が。地下室なんだ。

「ここだよ。レイカ扉持ち上げるの手伝ってくれる? すごく重いんだ」

 重いの? 扉。そんなでもない。片手でいける。コンクリの階段。

「天井低い」

「コンクリート、厚いから」

 檻がある。それと真ん中に椅子が一脚と隅に古ぼけたロッカータンスが一つ。

「子ネコのパパとママが最愛の娘を閉じ込めておくために作った檻」

 子ネコって?

「ぶっとい柵だね」

「かわいい一人娘でも、やっぱり怖かったんだよ」

「しばらくは、子ネコのママ、子ネコに血をあげてたんだよ。でも、自殺しちゃったんだ。耐えられなかったみたい。そのあとすぐパパが逃げ出して、子ネコは取り残された」

「そのころから、セイラたちが子ネコにミルクあげだしたのは。あ、セイラは1、2回だけだけど」

 そうだったんだ。女バス仲間なのに今まで何にも知らなくてゴメンね。

「帰ってくるの待ってるの?」

「ううん。もうここにいるよ」

 どこ? 檻にはいない。

「ちょっと気持ちの準備させて」

 カリンが息をゆっくりと吐いた。そして深呼吸をして、

「ココロ」


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