第十章 ヒビキは会社の裏を知る
第十章 【ヒビキ】(1/2)
とは言うものの。何から手を付ければいいか? 位置情報が駄々洩れになってるのは最近になって会長に気付かれて行動追えなくなったらしいし。会長の案件は、町長と繋がってる。町長の案件は、お師匠さんの案件に繋がってるっポイ。どれも闇の匂いプンプンさせて。どうしよ。とりあえず、子ネコちゃんにミルクあげに行こ。
仕事のこと考えながらミルクあげてたら、子ネコちゃんにミルクたんまりこぼされた。ミルク飲みながらげっぷするから着てるものドロドロになった。
セイラから電話だ。
「はい。いいよ。大通りのヤオマンに行くところ。うん、行けそうにない。え、そうなんだ。『出会い系蛭人間祭』? エンカウント率がいつもの3倍。わかった。女子会終わった頃合流しよう。うん。じゃ」
合流するにしても、この格好はちょっとまずいな。
着替え買うつもりで遅くまで開いてるカイシャの系列ショップ来てみたら、なんなのこのコーナー。コスプレ充実度の異常さ。カイシャもいろいろ手出してるんだな。どれがいいかな。おっと、セーラー服だ。たまにこんなの着るのもいいか。辻女っぽいのはないかな。あった、まんま辻女の夏服じゃん。あれ? 何これ、血がプリントされてる、べっとりと。ま、いっか。今着てるのよりはちょっとはましだし。
「これください」
「『血塗られたJK』ですね。サイズはMでいいですか? 3400円になります。お支払いは?」
「これで、お願いします」
ゴリゴリーン。
さすがプラチナカード。店員さん受け取るとき一瞬のけぞった。
えっと、どこで着替えようか。トイレはあっちか。
「お客さん。スレーヤさんですよね」(ささやき声)
「え? あ、はい。そーです」(ささやき声)
うそこいた。
細かいこと言って悪いが、スレーヤでなくスレイヤーな。大丈夫か? この店員。
「なら、奥の別室に専用のショップありますから、見て行かれませんか?」(ささやき声)
「そうなんですか? 行ってみたいです」(ささやき声)
「ではお連れします。あの、スレーヤカードを一応」(ささやき声)
財布探すふり。
「忘れました。また出直します」(大声)
「いえ、いいです、いいです。どうぞ、こちらへ」
こんなところに通路ある。いったん裏に出て、外からまた戻るとまた通路か。
「ケッコーそういう方多くって、ここに来る人だいたいスレーヤさんじゃないですか? わざわざご提示いただくこともないなーって、スタッフの間でも言ってるよーな……」
一番奥にアルミの扉。
「あ、こちらになります」(小声)
扉のところで他の店員に引き継いで帰って行った。
カイシャ系列の店でこんな隠しショップ、いったい誰主導でやってるんだ。
売ってるモノはサバイバルショップとあんまり変わりないけど。
必需品コーナーか。
スリコギ、すり鉢。セット価格、7000円。タケーな。駅の売店で買えば、5000円くらいだぞ。
「そちら、軽量タイプになりまして、こうやって被りますと……」
あ、これ被るんだ。アゴ紐ついてるし。なるほど、でプラス2000円か。こっちのは、ウエアラブルカメラ。
「スレイヤー公式のゴリプロです。それ以外のウエアラブルカメラの持ち込みは規約違反になりますので、皆さん必ずお買い上げになられます」
「他社のじゃだめなんだ」
「だめみたいです」
あんま詳しくないな、この店員。
蛭人間クリアファイルか。表が改・ドラキュラで、裏がカーミラ・亜種。裏のがセーラー服着てるだけであんまり変わんない。弱点はどちらも銀。基本はマダラハゲのメタボバラか。そうだ、あれはどこだ。
「ARグラスどこですか?」
「AR?」
「ARグラス。拡張現実映すメガネ」
「いえ、ありませんよ。何に使うか知りませんが、そういうのはビックヤマダセンターとかの量販店に行っていただかないと」
『スレイヤー・R』では使わないってこと? なら、どうやってターゲット見てるんだろ。野外で3D照射は技術的には無理っぽいし。そもそもホログラムなら動画通してもターゲット見えるよな。
こっちは一般的なサバイバルグッズが置いてあってと。この壁は武器だな。スリコギ各種、ショートからロングまで。辻沢産山椒製。さすまたもある。学校の職員室の前に掛けてあったやつだ。どうしてここに水平リーベ棒あるんだろ? あれは?
「この木刀は?」
「お客さんのカレントステージは蛭人間殲滅ですかね。これは妓鬼討伐ステージで役立つグッズらしくって」
やっぱ、この店員さんよく知らないのか。誰か……。
「それ、山椒の古木で出来た木刀だよ」
お、語りたがり屋。赤いバンダナにミラーのサングラスって、80年代の人? さっきまで誰もいなかったのに、さては湧いて出たな。
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