第三章 【ヒビキ】(4/4)

 外は雨。夜にめずらしく家にいたらやっぱりおかーさんとぶつかった。泣きわめけばこっちが言うことを聞くと思ってる。中学生の頃から全然変わらない。そういうのが嫌だ。しまいにどうでもよくなってくる。


 部屋に戻って電気を消してベットに入ったはいいけど眼が冴えて眠れない。おかーさんは疾うに寝たみたいだけど。


 雨の音に耳を澄ませて心を落ち着かせる。テラスの手すりに雨水がしたたる金属的な音。雨どいを伝わって水が流れ落ちる音。風向きが変わって雨が窓をたたく音。風に揺れた木々の葉が立てる音。誰かが外の廊下を歩く音。玄関先であたしを呼ぶかすかな声。

 ベッドをぬけて玄関を開けると、目の前に子ネコが立っていた。全身雨でびしょ濡れで彼女独特のお日様の匂いはしなかった。

 これまでこんなことなかったから、嬉しいやら驚いたやらでどうしていいかわからなかった。とりあえずミルクをあげようと、いつものように襟を広げて名前を呼んだけれど、子ネコは動かず金色の目であたしを見つめるばかり。放って置くこともできず、家にも入れられないから、あたしは外で子ネコと一緒にいることにした。


 切れかけの電灯と雨の音だけの静かな玄関前の廊下。子ネコは何も話さないし、あたしも言う言葉がない。時間はゆっくり過ぎて行くけど、全然変化がないからどれだけ経ったか分からない。


 遠くで犬が鳴くのが聞こえた。すると、子ネコはあたしに背中を向け帰って行ってしまった。いつの間にか、雨も上がり東の空がほんのり赤くなっていた。

 次の夜、また来てくれるかと思って待ったけれど子ネコは来なかった。もしかしてどこかに行ってしまったかと心配になって見に行ったら、子ネコは何も変わりない様子でいつもの地下室にいた。それから夜、家に居るときは待つとはなしに過ごすようになったけれど、結局それ一度きりだった。

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