17 遠征一日目

 アンナプルナへの移動中、車内での話だが、アリスとミナサが睨み合っていた。


 白馬はアリスの隣りで、広い車内の隅に縮こまっている。


「ぷくぅーっ」


 ミナサは頬を膨らませて、むすっとした。


「白馬!何なのこの娘。どうして白馬とそんなに距離が近いの?」


 ミナサの矛先は白馬へと向いた。


 白馬は及び腰になりながら、疑問系でかくかくしかじかと、昨日のことを話した。


 その話を聞いたミナサは顔を真っ赤にして、ちょっと涙目になった。


「何でビッチを拾ってくるのさ、僕じゃ不満なのかい」


 ビッチじゃなければいいのだろうか?という突っ込みは火に油を注ぐだけだろう。


 ミナサは大変ご立腹だ。


 しかし今のミナサの発言に、アリスも引っ掛かるところがあったようで。


「失礼ですね!私はビッチじゃありません。私は処女ですし、キスだってまだ未経験なので。何でしたら確認されますか?」


 そう言ってアリスは、スカートをたくし上げようとする。


 白馬は驚き、アリスを制止した。


 現在アリスは、防寒着にスカートを身に付けている。


 薄汚れた布を着ているアリスを見かねたハルさんが、服を用意してくれたのだ。


「私は幻覚系の能力を所持してますので、それを利用していただけです」


 幻覚系?そんな能力もあるのか。


「白馬君、凄い娘を拾ってきたね」


 傭推さんは和やかに距離を取っている。助けてと、目で合図するがスルーされた。


「むぅーっ」


 話し半分にアリスの胸と、自分の胸を比べるミナサ。


「たゆんたゆん」


「スカッスカッ」


「…」


「…」


「ぴえん」


「!?」


 ミナサは悔し泣きをする。


「イジっイジっ」


 ミナサはいじけている。


 そして車は目的地に到着し、非戦闘員やリナとアリスを残し、アンナプルナ第一峰を目指して登山することになった。


 ミナサは僕に腕を絡ませて、アリスにべーっと舌を出していた。


 これから縮地を使い登山をする。もちろん、普通の縮地ではなく、改良が施された歩法だ。


 白馬が散々トレーニングを積んで、何とか取得した能力である。


 僕達はアンナプルナへの登山を開始した。


 しかし何て言うか、歩きにくい。いつも以上に疲れるな。


 山は天気が変わりやすいそうだし、不安だな。


 だが、心配とは裏腹に、特に何もなく。縮地による登山を始めて、一時間が経過した。


 疲れが見える僕に、ハルさんは僕の隣に来ると問いかける。


「白馬君には、夢は御座いますか?」


「夢ですか?」


 思わず素っ頓狂な声を上げる。夢?考えたこともなかった。


「いきなり夢なんて聞かれても、どう答えれば良いかわからないですよね」


「すいません」


「謝らなくて大丈夫ですよ。質問を変えます。白馬君が目指したいモノは何ですか?」


 目指したいもの?今までは、言葉には出来なかったが、一つ一つのピースが白馬をその答えと導く。


「僕の目指したいモノは、弱い人を守るヒーローになりたいです」


 ハルさんは驚いた顔で、僕の顔をマジマジと見つめる。


「男の子だね、カッコいい」


 と頭を撫でてくれた。


 白馬は恥ずかしさから、顔を赤くしてそっぽを向いた。


 ハルは優しく微笑み、語りだした。


「私は昔どうしてそんなに努力が出来るのか、ボスに聞いたことが御座いまして」


「そしたら何て答えたと思います?」


「強くなりたいからですかね?」


 白馬の答えに、ハルは首を振る。


「努力はしていない、夢の為のプロセスを一つずつクリアしてるだけに過ぎないって言われまして」


「ボスの凄さは言葉では伝えきれないです」


「白馬君も君なりの道を進むと良いと思います。道は進むから出来るモノです」


「もし止まってしまった場合は、悩み何て全部忘れてしばらく休むと良いですよ」


「それくらいのワガママは許してあげますから、ではそろそろボスの所に戻りますね」


 ハルさんは優しく笑い、速度を上げ一瞬で見えなくなった。


 白馬は、自分の世界の解像度は、とても低いことを思い知らされた。


 ただ強くなるだけでは駄目なのだ。考えなければ前には進めない。


 半日が過ぎ、開けた場所で休息をとることになった。凪沙さんが小さなキューブを皆に配る。


「白馬さんは初めてでしたね」


 ハルさんがキューブを手に取り、地面に落とす。


 するとキューブはみるみる大きくなり立方体の建物に変わる。


「これは小型シェルターだけど、私達はテントとして使ってます」


「雪崩が起きても壊れることが無く、雪に埋もれても雪を溶かす機能が備わっています」


「だから安心して休息をとる事が出来ます」


 白馬はテントの中に入り驚く。


 お風呂にテレビ、トイレやエアコンが備わっている。


 しばらくすると、凪沙さんが晩御飯を持って来てくれた。


 僕は、部屋に遊びに来ていたミナサと一緒に晩御飯を済ませた。


 テレビを見ながら、ミナサと他愛もないお喋りをする。


 そしてもう夜遅いからと、お休みの挨拶をして、ミナサは自分のシェルターに帰った。


 僕は日課の腹筋をして、お風呂に入り、床に就いた。

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