Wild

「──そうして私は、人類と人造人間どちらがこの宇宙を支配するべきか……選ぼうと思ったの」

「そんな事が……あったんですね」


 ラールもまた、母親を爆殺された身。彼が出会ってきた人間の中で、人造人間に親や知人を殺されているにもかかわらず恨みを持っていない者は初めてだった。対してネプは話を上手く理解できなかった様子で。


「オレよくわかんなかった〜。ミコトが敵になっちゃうかもしれないから、その時は倒せばいいの?」

「うん、それで良いんだよ」

「ふーん……」


 やはりネプも腑に落ちない気持ちを表情に出している。ミコトは無理に理解させようとはせず、急に立ち止まると2人に声をかけた。


「あのね、ちょっといい?」

「どうしたんですか?」

「なに、なに」


 するとミコトは近づいてきた2人の肩を掴んで抱き寄せ、目を閉じてから身体を触れ合わせた。突然の抱擁にラールは顔を赤くして慌てるが、ネプは相変わらず理解できていない。


「これからプルートのところに行くけど、命の危機を感じたらすぐに逃げて。プルートの一番の目的は私……いざとなったら、私が身代わりになるから」


 今もミコトは幼い2人を危険な目に合わせる事に躊躇していた。『色』には適応できる人間のみ力を行使できる制限があるが、それでもミコトは不安を持っている。


「何言ってるんですか。マーズさんからの指令は『貴女を守る事』ですよ」

「敵になったら倒さなきゃいけないけど、今は仲間だしー?」


 ラールは恥じらいを誤魔化し、ネプは率直な思いを述べた。彼らの言葉を聞いたミコトは口を少しだけ開けると、考え込んだ後に返事を返す。


「そっか……思ってたよりも、2人は強いのかもね」



 *



 ミコト達3人はとある廃墟に立ち寄った。他とそう変わらないひび割れたコンクリートや、壊れた排水管から流れ出る水滴が壁に暗い彩りを飾っている。

 しかしこの場所は重要な意味合いを持ってもいた。ユニバースが息絶えた場所だったからだ。廃墟の出入口からは、自分を他人にとっての悪だと認識していながらもその歩みを止めない男が1人。


「やぁ。初めてだね、こうやって直接会うのは」

「プルート……!」


 灰色の髪をした青年が壁にもたれかかる。彼がリベリオンズのリーダーであり、7年前の爆破事件の黒幕プルート。柔らかい物腰とは裏腹に、威圧感は確かなもの。黒い上着にはフードがあり、それを被っているプルートは後ろ髪の色を見せていない。


「私がミコトで、この2人がラールくんとネプくん……いや、今更紹介する必要は無かったかな。話があって来たんだけど」

「リベリオンズに入る気は無いんだったよね」


 プルートは少し残念がったが、彼の四肢に取り付けられている黒い補助パーツは尚も動き、彼の背後に多数の人造人間が蠢いているのが見えた。


「あぁ、怯えなくていいよ。僕も戦う気は無いんだ……今は」


 右手を横に伸ばし合図を出すと、人造人間達は大人しくなりプルートは微笑む。胡散臭い事この上ないが、ミコトは目的のため自身が『星座の白』を手に入れた経緯と『宇宙の白』が例のロケットに残されているかもしれない推測を述べる。


「──なるほど。君は人間でありながら人類にも疑いを持ち、僕にも情報を提供してくる特異な立ち位置……へぇ」

「これを聞いて、どうするのか。私はそれを見たいんだ」


 ラールにとってミコトとプルートは、考えている事があまり読めない狂人の様に見えていた。ネプも突拍子のない事を口走ったりするが、彼は根が素直。2人とは違いある程度の予測は考えられる程度のものだった。


(ミコトさん……もしリベリオンズに『宇宙の白』が渡ってしまったのなら大惨事になるのはほぼ間違いないのに。でもミコトさんにとっては、人類側が手にしようと大惨事になるって、そう考えているのかな)


 目の前でプルートと対等に会話を交わし、時々笑いも零れていたミコト。しかしそれは表面上だけの振る舞い。慎重にプルートを警戒し言葉を選んでいた。


「分かったよ。君をリベリオンズに引き入れようとはもうしない。話の中にあったロケットに『宇宙の白』が眠っているかもしれない、というのもあくまで推測だ。希望を持ちすぎるのもいけないし、僕は手を出さないかな」

「思ってたより話が通じて、私も安心した。それじゃあマーズさんに報告しに行かなきゃね」

「君もね。最初に僕と喋った時、僕の質問にも答えずにいきなり弓矢を放って一方的に断ち切ったじゃないか」

「それ、もう忘れてほしいや」


 そしてミコトは背を向け、ラールとネプと共にその場を去ろうとした。その場の全員の息が、一瞬だけ止まる。プルートが真顔となった瞬間、彼の背後で構えていた人造人間達が一斉に飛び出しミコトの元へ。


「ミコトさんっ!」

「おお〜?」


 ラールとネプが走り出し、未だ背を向けているミコトの前に立ち対応した。

 ラールは氷の盾を創り出し人造人間の突進を受け止め。

 ネプはチェーンソーを起動しその刃から溢れ出る水を撒き散らす事で切り刻んでいた。


「え、なんで攻撃してきたの?」

「これは不意打ちだよ、ネプ……」


 ネプは困惑した様子で、ラールはプルートの行動を理解し憎悪を更に深めていた。襲撃を防いだ様子を見てプルートは口角を上げると、再び口を開き嘲笑う。


「“君をリベリオンズに引き入れようとはもうしない”……だからね、君を殺してその力を奪おうか」


 彼の四肢に取り付けられた補助パーツの内、両腕のものが小銃に変化していく。ラールはミコトを守るため氷の盾を更に巨大化させ、ネプは他の人造人間を殲滅するためチェーンソーの出力をパワーアップさせた。


「どうしてこうも、私の思い通りにならないんだろう」


 ミコトはゆっくりと振り向き、震えた声で呆れてしまう。

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