ボーナスエピソードその6.サターンの尾行記録
私は孤児院を運営する親の下に生まれた。人類や人造人間関係なく受け入れていた所だったため、私には物心ついた時から偏見なんて無かった。
でも、お母さんは私を。
「ねぇ……あなたは何もできないの? サタン」
サタン。それが私の本当の名前。産む前は乗り気だったけれど、育て始めて嫌気がさしてしまったのだろうか。この名前は確か3歳くらいの頃から付けられた気がする。その前はどの単語で呼ばれていたのかは覚えていない。
「……ごめんなさい」
今日も私は孤児院から出て行く。“自分探し”と“アルバイト”という嘘を駆使し外出していた。両親には私がギャラクに見込まれ十三神将になった事も話していない。だから私が匿名でこの孤児院に支援している事も知らない。
────その方が、きっと素直に受け取ってくれるはずだから。それに……恥ずかしい。
今日もコロニー『ブレイズ』に向かう。コスモの右足を壊してしまったあの場所に。
一週間に一回はここに来て自己満足の懺悔をする。今までの人生で人を傷つけてしまった事なんて数えきれないほどあるけれど、コスモの件は特別。
「……ごめんなさい」
瞳に涙を溜めて呟いた。
コスモは私を助けようとしてくれた。
でも私は孤児院のためにあの行動をした。
ビルが倒壊したのは地盤が緩んでしまったから。
瓦礫が襲ってきたとしても防御は簡単にできた。
コスモはそれを知らなかった。
コスモはとても勇敢だった。
対して私はお礼も言わない愚かな悪魔。
親切心を汚してしまった慈悲なき悪魔。
だから私はコスモに会う資格なんてない。
……でも。
「あ、コスモ……!」
二人の連れと共にビルの横を歩くコスモを見つけた。一人はマーズ。よく一緒にいる彼には嫉妬すら覚える。もう一人は見ない顔。黒い髪で左目の周りが灰色の半人造人間。
「うわぁ……すごい」
「見とれている時間は無いぞ、さあ来い」
マーズはあの半人造人間との付き合いが短いのか態度が辛辣だ。コスモと二人きりの時はもっと砕けた言い方をしている。
「う、うらやましい……っ!」
無意識に声が出てしまう。距離は離れており他の人間も大勢いるため聞こえはしない。
身体も震え始め、頭も痛む。吐き気すら催してきて、更には目眩。
でも、胸はきゅっと気持ちいいくらいに締め付けられて。 この感情は、きっと恋。
コスモを視界に入れるといつもこうだ。トラウマと罪悪感からの体調不良。そして恋。真反対の二つは私を動かせてくれない。
「……あ」
目を下に向けている間に、コスモ達の姿は離れていった。同時に体調不良と恋心も去っていく。
その後コスモはマーズの屋敷から出てこなかった。よくある事だけれど、一緒にいたあの半人造人間が気になって仕方ない。……何か、根拠のない嫌な予感がする。
日付が変わる前に孤児院に戻った。皆はもう眠っていた。完全防音のお風呂に入り、汗を流す。コスモを想うドキドキと、ずっと素肌を隠しているものだから汗は多量なんだ。
「今日の、コスモ……」
薄い水色をした壁に人差し指を触れさせ、ホログラムを起動させた。そこにコスモの行動を記し、コスモの全てを知った気分に浸る。
「ちゃんと体に良いもの食べたかな」
苦しみながら盗み見したのは食事もだ。早めに食べ切る事ができるジャンクフードばかりで、ついつい心配してしまう。
……まるで、お嫁さんみたい。
「うっ」
恥ずかしい心の声と、長い間お湯に浸かっていた事でのぼせてしまった。急いで湯船から出ると、冷水を身体全体に浴びせる。温度差で肩が跳ねたが水は止めない。
「コスモ……私と会ったら、私の事好きになってくれるかな?」
曇ったガラスを素手で拭き、裸の私を写す。
コスモが私の姿を目に入れてくれたのは、ほんの一回だけ。可能性なんて殆ど無い。いつこの気持ちを告白すれば良いかも分からない。
私は、相変わらず歩き出せないままだった。
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