Universe&Galaxy Belief

「ユニバース……俺がお前に負けてしまったら、人類の未来は無くなる! 『予見』で見たあの光景の様になってしまう! 5人の人造人間が人類を殺戮しているあの未来に……辿り着いてしまう! 俺はそんな未来を認めないっ! 絶対に止めてみせる……!」


 まるで確固たる意思を心で握ったようなギャラク。瞳は輝き、自身が解決してみせると言わんばかりに両手には氷がまとわりつく。


「……僕は止まらないよ。というか、もう自分でも止められないんだ」


 一周回って冷静な感覚を取り戻せた。しかし目標は変わっていない。ギャラクによって殺された彼らの仇討ち。僕の中にある『復讐の意思』は雷のようで、地に落ちるまでは止まれない。


「ポセイドが僕を一旦機能停止にしてくれたおかげで、ギャラクを欺く事ができた」


 ロッドの先端にエネルギー弾を創り出し、左にあったポセイドの死体に目をやる。背中を氷で貫かれた事により、腹部には大きな穴が空いていた。

 僕とはあまり会話も交わしていなかったが、襲われそうになっていた僕とロディを助け、ウラヌスと共にギャラクへと立ち向かっていた。


「本当に、自分勝手な人だった……」


 少なすぎる思い出を振り返った後、ロッドを振り下ろしギャラクへと一気に発射した。灰からピンクへと色が変わった弾丸は速度も上がっている。しかしギャラクも正面から打ち消そうと、氷をまとった右腕を振りかざす。


「だぁっ!」


 握りこぶしで叩きつけるような拳撃により、エネルギー弾は無慈悲にも消滅させられてしまった。しかし今の行動に集中していたギャラクに隙は出来ている。


「今だ……!」


 僕は走り出すと同時にロッドを両手で持ち、地面に突き立てる形で床に突き刺した。更に力を込め、棒高跳びのようにジャンプする。しかし僕の場合は縦ではなく横に飛ぶ低空で、そしてスピードも重視していた。


「残念でした!」


 エネルギー弾を打ち消した事による隙のおかげで、ギャラクの取れる行動は限られていた。右手はもちろん行動不能、だが左手には警戒しなくてはならない。


「くっ……!」


 ギャラクは守りの体制に入った。頭を守るように左腕を目の前にかざす様な形だ。怪我をしても【ひっぱり愛】で風の威力を上昇させる事ができるためだろう。


「はっ!」


 でも僕は彼の行動を予想はしていた。低空の跳躍をあえて途中で終わらせ、今度は自分の足で飛び上がる。僕が真正面から攻撃を仕掛けてくるとギャラクは予測していたようだったが、それが外れた事により口はぽかんと開いていた。



「もう一回言うよ……! 残念でした!」



 ギャラクの背後へと飛び移った僕は瞬時に振り向き、ロッドを横に振る事で打撃を背中に加えた。ギャラクはよろめき、ダメージはしっかりと与えられたみたいだ。しかし彼も急いで振り向き、すっかり赤くなってしまった目で僕を睨む。


「ウラヌスが僕に記憶を見せて、説得してくれたおかげで信念を固める事ができた」


 視界の左奥にあったウラヌスの死体に目線を移動させる。全身が破壊されており、以前まであった可憐な表情の跡形もない。

 会ってからまだ半日も経っていないはずなのに、彼との間には確かな情が芽生えていた。こんな事をウラヌスの目の前で言ったらきっと『え? オレっちのこと好きなの?』とかなんとかからかってきそうだが、今はそんな事ももう叶わない。死んでしまっては何も与えてやれる事もない。


「本当に、良い意味でも悪い意味でもしつこい人だった」


 ドボラックを倒した時も、三回連続で射撃をしたり。僕へのアプローチもなかなかにしつこかったが、それはそれである種の安心感があったんだ。


「最後に……コスモ。コスモと会えたおかげで、僕は僕でいられたんだ」

「このぉぉぉ!」


 コスモの名前を出したと同時に、ギャラクは発狂し氷のつぶてを撃ち出してきた。しかし【ワイルド・ファング】が発動し傷がつく事などは無かった。機械で出来ている頭や胸はロッドで防御している。


「本当に、優しくて心強い人だった……」

「……そうだね、自慢の息子だった」


 ヴィーナスさんの声が発せられると共にコスモの死体を確認すると、ロディが必死に運び込んでいる途中だった。やはりロディも優しい人なのだと思い知らされる。

 コスモとは会ってから24時間も経っていないだろう。しかし今の僕が目覚めてから初めて会い、初めて親切に接してくれた人物だ。きっと前の僕があの有様だったから、コスモに対してこんなにも重い感情を抱いたのだと推測する。


「コスモ……!」


 気づいたら涙を流していた。悲しみの涙か、復讐を遂げられる歓喜の涙か。でも今はそんな事に気を取られている場合ではない。

 気持ちを切り替え、ロッドを持ち上げると一気に振り下ろした。ギャラクの脳天目掛けて放った一撃だったが、それは真剣白刃取りのような形で止められる事となってしまった。


「なっ……!」

「……俺だってな、生半可な覚悟で『人類保護派』を立ち上げたわけじゃない! 俺が今までに経験した悲劇に比べれば、お前のちっぽけな復讐なんて……塵に等しいっ!」


 まさか止められるとは思っていなかった。慌てた僕とヴィーナスの対応は遅れ、ギャラクの右足によるハイキックを腹部に受けてしまっう。


「カハッ……!」


 少しの唾を吐き、咄嗟に数歩後ろへと飛び退いた。お互いにダメージを負ったためギャラクもその場から動いてはいなかったが、彼には【ひっぱり愛】がある。


「あの時……俺は止められなかった! だからユニバース! 人類の敵となるお前はここで止めるんだ……!」


 ギャラクの決意も固まっているのだと確信した。『予見』により彼が経験してきた日常は話を聞いただけでも悪夢のようだったが、詳細までは想像する事すらできない。


「ある日俺は悪夢を見た! 一人の男が三人の人造人間に囲まれ、リンチされる悪夢をな! 最初も俺は、ただの夢と思い気には止めていなかった。……だが!」


 するとギャラクの背後から緑色の風が見えた。つい先程背中に与えた打撃の影響もあり風の威力が増加している事は肌で感じられた。この風は厄介だと思わされたばかり。頭部か胸を狙った風を防御している内に、ギャラク本体が接近し攻撃を仕掛けてくるはずだ。


「その悪夢は『予見』だったんだ……! 夕方のニュースで、撲殺された人間が見つかったと報じられた! 俺が気づいて向かっていれば……あの男は死ななかったんだッ!」


 だがギャラクの行動は以前とは違った。ギャラク自身も走り出し、更に風の勢いは強くなる。ヴィーナスはロッドを回転させ防御しようとはしていたものの、強化された風圧によってロッドを持っていた右手は自由が効かない。


「うぁぁぁぁ!」


 悲痛にも似たギャラクの叫びと共に、氷をまとった彼の右腕が僕の胸部へと打ち込まれた。メリメリといくつかのパーツが壊れる音が僕の体に響く。


「うがっ……!」


 ちょうど機械と生身の箇所だったからか、中途半端な痛みが襲ってきた。衝撃は凄まじく、一気にスタジオの壁まで吹き飛ばされ激突する。僕は脱力してしまいウラヌスのように倒れ込んでしまった。近くにはポセイドの死体がある。


「……俺はその悪夢から学び、眠っている途中の『予見』でも飛び起き、現場に急行するようになった。だが、それも……!」


 相変わらず、ギャラクは自分語りを中断する気はないようだ。


「『活動限界に近づかないとエネルギーを与えてくれない態度に腹が立った』という理由で主人を殺そうとしている人造人間……そいつの『予見』を見たんだ! ビルの屋上だった……主人を突き落とそうとしている所を逆に、俺は割り込み人造人間を突き落とし殺した!」


 人造人間だってエネルギーを摂取しないと死んでしまう。人間で例えるのなら餓死寸前まで放置されるのと同じだろう。


「呆然としている主人に俺は説明した。あいつは活動限界でなくともエネルギーは欲していた、と……。そうしたらその主人は罪悪感に苛まれたのか、追うように飛び降りたんだよ……! 主人はあいつを気に入って、家族だと思っていたんだろう……! 俺のした事で二人とも死んだんだッ! どうしたら犠牲は無くなるんだ!? どうしたらこれ以上悲しみ、死んでしまう人はなくなるんだ!?」

「そしてその答えが……人造人間の殲滅ってことね」


 激昴し涙を流すギャラクとは対照的に、僕の体を借りているヴィーナスさんは冷静だ。しかしギャラクが迫害を始めた理由としては納得できてしまった。これも全て、イシバシという男がチップを埋め込んだ事が原因だ。


「ああそうだ……。これは、『予見』できる俺にしか背負えない! 生憎、イシバシもいつの間にか行方不明になっていたからな……。俺にしかできない、俺がやるしかないんだよ! 犠牲を増やさないためには、人造人間を殲滅する……! 人類を攻撃するあの未来を現実とするわけにはいかない! 『宇宙の白』の力を使い、人類を守る義務は……俺が持っているんだ!」

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