第23話 海鮮チャーハン
「さて…こいつらどうするか…」
男はぼやいた。
8月も下旬に差し掛かるある金曜日の夕方。
男は在宅勤務を切り上げて台所に立っていた。
目の前には先週使ったタイ米とナンプラーがある。
「流石に飽きて作らなくなったからな…」
男はハマり症で、材料を大量に用意して何度も同じ料理を作る癖がある。
先週のガパオライスも例に漏れず、この一週間で何度も作っては食べた。
しかし、週の後半には飽きていた。
大抵飽きても食材を他の料理に使い回すが、タイ米とナンプラーはそうは行かなかった。
ナンプラーとは魚醤の一つだ。
塩味以外に魚特有の旨味や匂いを持ち、単体でもクセと奥深さを持つ。
そのため適当に炒め物などに振りかけても、ある程度旨い料理になる。
「…そうだ。チャーハン作ろう」
男は急に思いついた。
米とナンプラーの炒め物から思いついたのだろう。
男は早速スーパーに向かった。
スーパーに着き、男は店内を物色し始める。
「チャーハンと言っても色んなのがあるからな…」
男は当たり前のことで悩み始めた。
「…冷凍食品のチャーハンにヒントを得るか」
男は冷凍食品の棚に向かう。
男は以前から、レトルトや冷凍食品を見て、その日の料理を決めたりしていた。今回もそれと同じだ。ただ、そこで素直に冷凍食品を買わないあたりが捻くれている。
冷凍食品の棚ではピラフやチャーハンが並び、どれも旨そうだ。しかし、ピンと来るものがない。
男はふとその隣のエリアに目線を移した。
"海鮮ミックス"と書いてある商品がある。中身は大ぶりのエビやイカ、そして貝柱である。
「…海鮮チャーハンか、良いな」
男はそう言って、海鮮ミックスをカゴに入れて移動し、卵を1パック、更に野菜コーナーで青ネギもカゴに入れた。
さて、後は酒である。
男は酒類の棚の前をウロウロして酒を物色する。
と、男は一本の酒を見つけた。
大分の有名な麦焼酎である。
割り方次第で様々な料理にも合わせられる焼酎、男はそれをチャーハンと合わせることにした。
そのまま早足でレジに向かう。
いつものレジ打ちの女性は、男が持つカゴの中身を見て、難しい顔をしている。
今日も何を作るのか当てようとしたが出来ないようだ。
女性は難しい顔のまま、素早く商品をレジに通していった。
男はそんな様子の女性を見て、
「不機嫌なことでもあったか?そっとしておこう」
と考え、特に何も言わずに会計を済まして、家路につく。
家に着き、男は早速食材を台所に並べる。
・タイ米
・海鮮ミックス
・卵
・青ネギ
・ナンプラー
・胡椒
・ごま油
チャーハンの作り方は最早宗教である。
考え方の違いからいくつかの
だが、今回男は、普段とは違う作り方をしようと考えた。
普段男は、米も卵も油も全て混ぜてから熱したフライパンで炒めている。
これは家庭の火力でも食材のパラパラ感を引き出すためだ。代わりに米のしっとり感は失われる。
だがタイ米は元からしっとり、そしてパラパラだ。
そのため、卵を炒めてから、米を投入するという方法にするようだ。
まずタイ米を炊く。ここは先週と同じ。
タイ米120gを大量の湯で10分弱茹で、更に10分以上蒸す。今回男は120gのタイ米を炊いた。
タイ米を炊いている間に他も進める。
まず海鮮ミックスをレンジで解凍する。男は具材が多いほうが好みなので150gほど解凍した。エビやイカなどのエキスが出てくるが、これは捨てずに取っておく。
その間に青ネギ1本分を小口切りに。
そして生卵1個を塩を振ってよく溶いておく。
タイ米が炊き上がった辺りでフライパンにごま油を敷いて弱火で青ネギを炒める。
ネギの香りが立ってきたら、一気に強火にして、溶き卵を流し入れ、かき混ぜる。
卵に緩めに火が通ったらタイ米を投入。
米に火が通ったら、海鮮ミックスをエキスごとフライパンに入れ、ナンプラーも4~5振り。
再度全体を炒めてから、皿に盛り付けて、完成だ。
ロックグラスに氷と麦焼酎を注いで、海鮮チャーハンと共に席に並べる。
ナンプラーの香りが飲み気をそそる。
男はまず麦焼酎を口に含んだ。
「んぐ…んぐ…はぁ…」
一口で済ませるつもりが、二口飲んだ。
それほどまでにスッキリした、大分麦焼酎らしい味わいなのだ。
これならばナンプラーのクセもサラリと受け流せるだろう。
男はもう一口焼酎を飲み、チャーハンを食べた。
「はぐはぐ…むぐむぐ…」
ごま油と揚げたネギの香ばしい匂いが最初に感じる。
続いて魚味の強いナンプラーの味と匂いが感じられる。クセが強く好みが分かれるところだと思われるが、酒飲みの男は旨そうに頬張る。
更にそれぞれの海鮮食材から旨味が溢れてくる。
男は更に焼酎でチャーハンを流し込んだ。
「んぐ…んぐ…くはぁ…」
強い香ばしさとクセのある旨味と香りが大分麦焼酎のさっぱり感で落ち着く。
落ち着いた口内にフワリと優しい焼酎の香りが漂う。この感覚が心地良い。
そう思っていたら焼酎が空になった。
次は何かで割って飲もうか、そんなことを考えながら男は今日も晩酌を楽しんだ。
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